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吉良弁護士事務所(3)

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「ちょっと、白野さん、本気なの?」
「本気だよ。黒江さん。考えてみたんだけど、これ俺がやろうと思っていたことだ。」
 警察や公安に職を得て、必要に応じて超能力を使い捜査を行う。
 今回は、ヤクザが対象で、その銃火器取引の証拠になりうる情報を得ればいい。
「ただ、条件があります。」
「何かね?」
「黒江さんの安全を保障してください。彼女はたまたま俺と行動していただけです。彼女の安全を保障してほしい。俺の安全より優先で。それがかなえられない限り協力はできません。」
「白野さん。」
「くくくく。」
 吉良は笑い出した。
「何かおかしいですか?」
「いや、すまない。普通自分の安全を考えるものだろうがね。」
「できませんか?」
「やるよ。黒江嬢の安全は保障しよう。」
 吉良は持ち上げていた銅像を下した。
「それにしても長く持ち続けられるものですね。」
「ティッシュペーパーを長く持ち続けても疲れないだろう。それと同じだよ。」
 あの銅像の重さがティッシュ並みということか。かなりのパワーが発揮されているな、と白野は思った。
「さて、ちょっと早いが事務所を閉めるとしよう。今日は、白野君の入所祝いだ。」
「ちょっと待ってください、入所って。」
「白野君、君法学部の学生だろ。うちでバイトしたまえ。時給1200円、法律の実務も学べるぞ。」
「あの、さっきの話がバイトってことですか?」
「いや、さすがにそれは別個に支払おう。それと別にうちで働きたまえ。いやか?」
「学校の授業があるんですけど。日中これませんよ。」
「授業無い時間で構わないよ。暇な事務所だから仕事がない時もあるかもしれんが、その時は勉強でもすればいい。」
 かなりいい条件のようだけど。
「確認させてもらいますけど、ブラックバイトですか、辞められないと言う事はないですよね?」
「弁護士を何だと思っているのかね。心配なら明日契約書を作成しよう。」
「ならば、お願いします。」
「よろしく頼むよ。」
「あの、すいません。」
 それまで黙っていた黒江が、口を開いた。
「私も協力させて下さい。」
「黒江さん、危ないから止めなよ。」
「そうだよ、お嬢さん。君子危うきに近寄らず、と言う。ここは私達に任せなさい。」
「私にだって超能力はあります。」
 黒江は時間を止めた。
 静止した事務所の中で、蔵良の胸ポケットからナイフを抜き取り、刃を出すと吉良に突きつけた状態で時間停止を解除した。
「この通りうまく使えば、私も役に立てると思います。」
「黒江さん、なんで?なんで危ないことしようとするのさ?」
「今、ここで離れたら、2度と会えないと思うんです。危ないから離れてと白野さんも吉良先生達も私に言うでしょう。」
「一時のことだよ。」
「白野さん、超能力を生かして働きたいって言ってたじゃないですか。多分、今後も同じ事絶対やります。その度に私を遠ざけるでしょう。それが繰り返されたら、私白野さんや吉良先生達との縁が切れると思うんです。そしたら私、また一人で超能力と向きあって生きていかなきゃならないじゃないですか。」
「お嬢さん、あんた一人が嫌なんだね。」
 吉良は深いため息をついた。
「誰だってそうだと思います。」
「わかった。黒江君、君も協力してくれ。」
「ここに出入りしてよろしいのですね。」
「あぁ、構わない。」
「ありがとうございます。精一杯頑張りますのでよろしくお願いいたします。」
黒江は頭を深々と下げた。
「では、白野君と黒江君の歓迎会としよう。」
「場所はいつもの所でよろしいですか?」
「うむ、「美菜」だ。」
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