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甲斐と江戸川
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江戸川は、甲斐と料亭の一室で向かい合っていた。
「士道会の件は、引き受ける。」
「ありがとうございます。」
甲斐は、畳に指をついて頭を下げた。
「しかし、旅行業とはな。」
「はい、韓国や中国方面を中心にやる予定です。」
「ひと頃韓流などと言って韓国のスターたちのおっかけが流行ったが、今はそれほどブームではあるまい。どうやって客を集める?」
「韓国では、拳銃射撃が合法です。ガンマニアを中心に射撃ツアーで客を集めます。広告も新聞ではなく、専門誌を中心にやればイケると考えております。」
「中国は?」
「こちらも射撃です。中国の場合、拳銃は言うに及ばずライフルやロケットランチャーまで撃てます。その辺りの迫力で客を集めようと考えてます。」
「射撃ばっかりだな。」
「恐れいります。」
「お前さん、ちょいと力に頼る傾向にあるんじゃないか。」
江戸川は猪口に手を伸ばし、傾けた。
「チャカってのは魔物だ。儂も初めて手にした時、自分が強くなったように錯覚したよ。」
甲斐は黙って徳利を持ち、空いた猪口に注いだ。
「こいつさえあれば誰でも殺せる。その感覚が錯覚させるのだろうがよ、しょせん錯覚よ。だが、人間その錯覚に基づいて動く時がある。楽しかったりするんでな。」
「楽しい、ですか。」
「そうだ、力を得た人間はそれを使いたがる。儂はバッチをつけたばかりの連中がヘタを打つのを何度も見て来た。」
代紋をひけらかし、持ち上げられていい気になって破滅した人間を江戸川は、指で数え切れない程知っている。
「お前は、力を蓄えている。今その力を使わないのは、もっと力を蓄えてからと思ってないか?」
ずばり言い当てられ、甲斐は絶句した。
「力を蓄えるのはいい。ただ、力に溺れるな。強い力は大きな湖や海と同じ。広く深く泳ぎに出た人間を溺れさせる。儂はお前がそうなるのではと危惧しているのだよ。」
「ご心配痛み入ります。」
「お前が溺れるだけならいいが、周りを引きずり込みそうで怖いのだ。お前自身はやる気でなくとも、不要な抗争などを引き起こしそうでな。力に訴えたほうが早いとな。」
「お言葉ですが、今回士道会に先手を打って揉めないようにしている辺りで、不要な心配だと示させて頂きます。」
「抗争を起こさないよう注意するというのだな。」
「はい。」
「では、話を変えよう。今回の中国や韓国でのシノギ、お前以前、池袋でシノギを得ようとしてその辺の連中に叩き出されたという話だったが、今回組んでいる。どういうことなんだ?」
「彼らは、力の無い者は相手にしません。」
「今は、力をつけたから相手にしてもらえたと。」
「はい、前に池袋に行った時とうって変わって話ができました。単身の徒手空拳でなく、一家の長として行ったのがよかったようです。」
甲斐は猪口に口を付けた。
「前に灰野総長にも申し上げたのですが、自分には中華系や韓国系と繋がりがあるという噂があります。なぜにそのような噂がたったのかわかりませんが、自分は池袋に進出しようとして果たせず、叩き出され、流れて渋谷に来た。これ以上のことはありません。」
「お前ができるからよ。お前が無様に叩き出されるなど考えにくかった。事実おまえは渋谷に来た時、それほど尾羽打ち枯らした風でもなく、余裕のある体だったという。繁華街で名を売るべく、札びらを切ってたのは事実だ。」
「意地をはらず、余裕を持って逃げましたから。それでも常連客のつき始めたカジノを閉めたのは事実です。」
「それを叩き出されたとお前は言うのだな。ただ、お前が池袋で叩き出された後、渋谷で成功している。それは何故だ?」
「運がよかったとしか。先代の甲斐組組長の団さんに出会い、組を譲っていただいた、この頃に姫乃と知り合った、これらが重なったタイミングの良さは自分でも驚くばかりです。」
「その辺りも取り込まれ説の傍証になったんだろうか。」
携帯の着信音が、江戸川の鞄から鳴った。
「お出にならないのですか?」
鞄の方を見もしない江戸川に、甲斐は電話に出るよう勧めた。
「何でお前を差し置いて他の奴を相手にしなくちゃなんねえんだ。」
「失礼しました。」
着信音は止まった。
「いや失礼なのはこっちだ。電源を切っておくのを忘れちまった。勘弁してくれ。」
「いえ。」
そう言った甲斐の携帯が振動し始めた。着信音は鳴らないが、バイブが振動する音が静かな部屋に響く。
「出ないのか?」
「ご勘弁下さい。」
笑いながら言う江戸川に甲斐は苦笑しながら返事をする。
振動は、すぐに止まった。
「まぁ、いい事実はいつか露見する。お前に繋がりがあれば必ずいつか形になるだろう。」
「バレるとおっしゃりたいのですか?」
「そうだ。だが今お前は否定した。それならば問題はないだろう。」
江戸川は手をたたいた。中居が障子を開けて入ってくる。
「茶を持ってきてくれ。」
「もうお帰りですか?」
「あぁ、お前と会い士道会とつなぐ話は了解した。他にも話をした。十分だろう。年寄りは早く寝たいのさ。」
「承知しました。」
中居がお茶を二人の前に置いた。
「今日は、会って話ができてよかった。」
「自分もです。」
「士道会の件は、引き受ける。」
「ありがとうございます。」
甲斐は、畳に指をついて頭を下げた。
「しかし、旅行業とはな。」
「はい、韓国や中国方面を中心にやる予定です。」
「ひと頃韓流などと言って韓国のスターたちのおっかけが流行ったが、今はそれほどブームではあるまい。どうやって客を集める?」
「韓国では、拳銃射撃が合法です。ガンマニアを中心に射撃ツアーで客を集めます。広告も新聞ではなく、専門誌を中心にやればイケると考えております。」
「中国は?」
「こちらも射撃です。中国の場合、拳銃は言うに及ばずライフルやロケットランチャーまで撃てます。その辺りの迫力で客を集めようと考えてます。」
「射撃ばっかりだな。」
「恐れいります。」
「お前さん、ちょいと力に頼る傾向にあるんじゃないか。」
江戸川は猪口に手を伸ばし、傾けた。
「チャカってのは魔物だ。儂も初めて手にした時、自分が強くなったように錯覚したよ。」
甲斐は黙って徳利を持ち、空いた猪口に注いだ。
「こいつさえあれば誰でも殺せる。その感覚が錯覚させるのだろうがよ、しょせん錯覚よ。だが、人間その錯覚に基づいて動く時がある。楽しかったりするんでな。」
「楽しい、ですか。」
「そうだ、力を得た人間はそれを使いたがる。儂はバッチをつけたばかりの連中がヘタを打つのを何度も見て来た。」
代紋をひけらかし、持ち上げられていい気になって破滅した人間を江戸川は、指で数え切れない程知っている。
「お前は、力を蓄えている。今その力を使わないのは、もっと力を蓄えてからと思ってないか?」
ずばり言い当てられ、甲斐は絶句した。
「力を蓄えるのはいい。ただ、力に溺れるな。強い力は大きな湖や海と同じ。広く深く泳ぎに出た人間を溺れさせる。儂はお前がそうなるのではと危惧しているのだよ。」
「ご心配痛み入ります。」
「お前が溺れるだけならいいが、周りを引きずり込みそうで怖いのだ。お前自身はやる気でなくとも、不要な抗争などを引き起こしそうでな。力に訴えたほうが早いとな。」
「お言葉ですが、今回士道会に先手を打って揉めないようにしている辺りで、不要な心配だと示させて頂きます。」
「抗争を起こさないよう注意するというのだな。」
「はい。」
「では、話を変えよう。今回の中国や韓国でのシノギ、お前以前、池袋でシノギを得ようとしてその辺の連中に叩き出されたという話だったが、今回組んでいる。どういうことなんだ?」
「彼らは、力の無い者は相手にしません。」
「今は、力をつけたから相手にしてもらえたと。」
「はい、前に池袋に行った時とうって変わって話ができました。単身の徒手空拳でなく、一家の長として行ったのがよかったようです。」
甲斐は猪口に口を付けた。
「前に灰野総長にも申し上げたのですが、自分には中華系や韓国系と繋がりがあるという噂があります。なぜにそのような噂がたったのかわかりませんが、自分は池袋に進出しようとして果たせず、叩き出され、流れて渋谷に来た。これ以上のことはありません。」
「お前ができるからよ。お前が無様に叩き出されるなど考えにくかった。事実おまえは渋谷に来た時、それほど尾羽打ち枯らした風でもなく、余裕のある体だったという。繁華街で名を売るべく、札びらを切ってたのは事実だ。」
「意地をはらず、余裕を持って逃げましたから。それでも常連客のつき始めたカジノを閉めたのは事実です。」
「それを叩き出されたとお前は言うのだな。ただ、お前が池袋で叩き出された後、渋谷で成功している。それは何故だ?」
「運がよかったとしか。先代の甲斐組組長の団さんに出会い、組を譲っていただいた、この頃に姫乃と知り合った、これらが重なったタイミングの良さは自分でも驚くばかりです。」
「その辺りも取り込まれ説の傍証になったんだろうか。」
携帯の着信音が、江戸川の鞄から鳴った。
「お出にならないのですか?」
鞄の方を見もしない江戸川に、甲斐は電話に出るよう勧めた。
「何でお前を差し置いて他の奴を相手にしなくちゃなんねえんだ。」
「失礼しました。」
着信音は止まった。
「いや失礼なのはこっちだ。電源を切っておくのを忘れちまった。勘弁してくれ。」
「いえ。」
そう言った甲斐の携帯が振動し始めた。着信音は鳴らないが、バイブが振動する音が静かな部屋に響く。
「出ないのか?」
「ご勘弁下さい。」
笑いながら言う江戸川に甲斐は苦笑しながら返事をする。
振動は、すぐに止まった。
「まぁ、いい事実はいつか露見する。お前に繋がりがあれば必ずいつか形になるだろう。」
「バレるとおっしゃりたいのですか?」
「そうだ。だが今お前は否定した。それならば問題はないだろう。」
江戸川は手をたたいた。中居が障子を開けて入ってくる。
「茶を持ってきてくれ。」
「もうお帰りですか?」
「あぁ、お前と会い士道会とつなぐ話は了解した。他にも話をした。十分だろう。年寄りは早く寝たいのさ。」
「承知しました。」
中居がお茶を二人の前に置いた。
「今日は、会って話ができてよかった。」
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