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「イルダ様、そこまで言わなくてもいいじゃないですかぁ。悪魔だなんて。」
今から、昨日のクルス王子の誕生会の成功を祝っての昼食会ですのに。
ヒメネス伯爵家の食堂に、仕出しの品でありますが、パテやサラダなどが並んでいるのです。
王妃様に呼び出された私が戻るのを待っている間に、皆で準備してくれたものです。
ワインや未成年の私のためのリンゴの果汁だってグラスに注がれているのに。
「ひどいですわ、泣いちゃいますよ。」
ハンカチで目元を覆います。
「何が泣いちゃいますよ。スポイトが見えてるわよ。」
「……そこは見逃して頂けません?」
「見逃しません。」
イルダ様が、クククと笑います。
「まぁ、ちょっと言い過ぎたかしら。もう止めましょ。貴女もしまいなさいな。」
「はい。」
ハンカチとスポイトをポケットに戻します。
「さぁさ、乾杯しようじゃないの。」
気の早いオラシオが、グラスを掲げます。
「じゃあ、みんなグラス持って。」
皆、グラスを手にして掲げました。
「それでは、ヒメネス伯爵家の今後の隆盛と、イルダ様の美貌に、かんぱーい!!」
「かんぱーい。」
グラスを打ち合わせ、みなグラスを空けます。
私もリンゴ果汁のグラスを空けます。
「それにしても予想以上の大成功だったわね。特にイルダ様が、国王お気に入りの令嬢がたを圧倒して、現れた瞬間。」
エルゼ達は、侍女扱いなので婚約披露の時同様、会場に入れなかったのです。
「どよめきは、聞こえました。」
エルゼが教えてくれます。
「すごかったわよ。イルダ様が現れるや、人が割れるんだもの。通り過ぎるだけで、男女問わず見惚れたものよ。」
「フフ、エルゼ、貴女のおかげ。」
「わたくしの?」
「そう、貴女を見てビシッと背筋を伸ばして歩く。基本的な姿勢の重要さを再認識させてくれたから。」
「そうよね、エルゼって歩いているだけで視線集めるもん。」
「そうでしょうか。」
「女の子の、ね。」
事実です。背が高く端正な容姿もあって、エルゼは、女の子にモテます。
女の子からラブレター渡されるところを、何度も私は目撃してます。
イルダ様の指摘するように、常に背筋をピンっと伸ばして歩く姿は、それだけで一枚の絵です。
「イルダ様の化粧も評判になってますね。王妃様が金貨百枚の値をつける程に。」
エルゼは、話を変えようと必死です。
珍しく短く言葉を切らずにしゃべってます。
「それよ。確かに、ワタシに施された化粧は大した物よ。でも、それに金貨百枚の値をつけるのは……。」
「イルダ様、気にしたらダメですよ。ふんだくれる相手からはふんだくる。商人の基本です。」
「ふんだくれる相手からはふんだくるって。化粧品の材料なんてこの家のガラクタだから、タダ同然じゃない。それに金貨百枚って……。」
「ガラクタはないでしょう。カミロ導師は、宝の山だと評価されましたよ。」
「見る人が見ればそうかもしれないけど、ワタシにとってはガラクタよ。売値がつかなかったんですもの。」
先日おっしゃっていたイルダ様の曾祖父や祖父が収集していた品。
それらが、誕生会で参加者のどよめきを生んだ化粧品の原料になったのです。
イルダ様の曾祖父の収集していた雲母や透閃石、金紅石といった鉱石。
イルダ様の祖父が収集し、栽培していたキャンデリラ草などの植物。
これらを加工し化粧品として活用したのは、本当に意外な方でした。
イルダ様のドレス試着日。
ヒメネス伯爵の屋敷の広間に、バルリオス将軍は、現れました。
「オヤジ、来たってことは、マジでやんの?」
「あぁ、そうでなければ足を運ばん。」
「久しぶりだね、オラシオ君。アズナールから近況は聞いているけど、元気そうで何より。」
「父さん。」
カミロ導師もご一緒です。
お二人の後ろで案内してきたのであろうヒメネス伯爵が、扉を閉めています。
「バルリオス将軍、カミロ導師、来て下さったのですね。ありがとうございます。」
「何、どうなるのか試してみたくはあるのです。イルダ嬢は?」
「イルダ様は、ドレスの試着中です。そろそろ終わると思います。」
そう言いながら、試着している部屋に近寄ります。
「ウルファ、試着はどう?」
「お嬢様、ちょうど今終わりました。」
着替えを手伝っていたウルファが、部屋から出てきました。
後ろから、イルダ様も出てきます。
「あぁ、イルダ、キレイだよ。」
ヒメネス伯爵が、感動しています。
確かにキレイです。
ウルファの手で結い上げられた艶やかな髪。
イシドラの処方したクリームなどで手入れされ磨き抜かれた肌。
胸元を大胆に露出させながらも、上品な雰囲気を醸し出すデザインのドレス。
それに合わせるようデザインされたネックレスや髪飾りなどの宝石をあしらったアクセサリー。
ウルファの紹介してくれた職人達は、いい仕事をしてくれました。
「イルダ様、とっても素敵です。」
「ありがとう、ロザリンド。こんな素敵なドレスやアクセサリーを揃えてくれて。予想以上の品よ。」
イルダ様も心底感心した面持ちで、鏡に見入ってます。
「これ以上、キレイになれないんじゃないかって思うくらいよ。」
「そんなことありません。もっと美しくなれますよ、イルダ様。」
今から、昨日のクルス王子の誕生会の成功を祝っての昼食会ですのに。
ヒメネス伯爵家の食堂に、仕出しの品でありますが、パテやサラダなどが並んでいるのです。
王妃様に呼び出された私が戻るのを待っている間に、皆で準備してくれたものです。
ワインや未成年の私のためのリンゴの果汁だってグラスに注がれているのに。
「ひどいですわ、泣いちゃいますよ。」
ハンカチで目元を覆います。
「何が泣いちゃいますよ。スポイトが見えてるわよ。」
「……そこは見逃して頂けません?」
「見逃しません。」
イルダ様が、クククと笑います。
「まぁ、ちょっと言い過ぎたかしら。もう止めましょ。貴女もしまいなさいな。」
「はい。」
ハンカチとスポイトをポケットに戻します。
「さぁさ、乾杯しようじゃないの。」
気の早いオラシオが、グラスを掲げます。
「じゃあ、みんなグラス持って。」
皆、グラスを手にして掲げました。
「それでは、ヒメネス伯爵家の今後の隆盛と、イルダ様の美貌に、かんぱーい!!」
「かんぱーい。」
グラスを打ち合わせ、みなグラスを空けます。
私もリンゴ果汁のグラスを空けます。
「それにしても予想以上の大成功だったわね。特にイルダ様が、国王お気に入りの令嬢がたを圧倒して、現れた瞬間。」
エルゼ達は、侍女扱いなので婚約披露の時同様、会場に入れなかったのです。
「どよめきは、聞こえました。」
エルゼが教えてくれます。
「すごかったわよ。イルダ様が現れるや、人が割れるんだもの。通り過ぎるだけで、男女問わず見惚れたものよ。」
「フフ、エルゼ、貴女のおかげ。」
「わたくしの?」
「そう、貴女を見てビシッと背筋を伸ばして歩く。基本的な姿勢の重要さを再認識させてくれたから。」
「そうよね、エルゼって歩いているだけで視線集めるもん。」
「そうでしょうか。」
「女の子の、ね。」
事実です。背が高く端正な容姿もあって、エルゼは、女の子にモテます。
女の子からラブレター渡されるところを、何度も私は目撃してます。
イルダ様の指摘するように、常に背筋をピンっと伸ばして歩く姿は、それだけで一枚の絵です。
「イルダ様の化粧も評判になってますね。王妃様が金貨百枚の値をつける程に。」
エルゼは、話を変えようと必死です。
珍しく短く言葉を切らずにしゃべってます。
「それよ。確かに、ワタシに施された化粧は大した物よ。でも、それに金貨百枚の値をつけるのは……。」
「イルダ様、気にしたらダメですよ。ふんだくれる相手からはふんだくる。商人の基本です。」
「ふんだくれる相手からはふんだくるって。化粧品の材料なんてこの家のガラクタだから、タダ同然じゃない。それに金貨百枚って……。」
「ガラクタはないでしょう。カミロ導師は、宝の山だと評価されましたよ。」
「見る人が見ればそうかもしれないけど、ワタシにとってはガラクタよ。売値がつかなかったんですもの。」
先日おっしゃっていたイルダ様の曾祖父や祖父が収集していた品。
それらが、誕生会で参加者のどよめきを生んだ化粧品の原料になったのです。
イルダ様の曾祖父の収集していた雲母や透閃石、金紅石といった鉱石。
イルダ様の祖父が収集し、栽培していたキャンデリラ草などの植物。
これらを加工し化粧品として活用したのは、本当に意外な方でした。
イルダ様のドレス試着日。
ヒメネス伯爵の屋敷の広間に、バルリオス将軍は、現れました。
「オヤジ、来たってことは、マジでやんの?」
「あぁ、そうでなければ足を運ばん。」
「久しぶりだね、オラシオ君。アズナールから近況は聞いているけど、元気そうで何より。」
「父さん。」
カミロ導師もご一緒です。
お二人の後ろで案内してきたのであろうヒメネス伯爵が、扉を閉めています。
「バルリオス将軍、カミロ導師、来て下さったのですね。ありがとうございます。」
「何、どうなるのか試してみたくはあるのです。イルダ嬢は?」
「イルダ様は、ドレスの試着中です。そろそろ終わると思います。」
そう言いながら、試着している部屋に近寄ります。
「ウルファ、試着はどう?」
「お嬢様、ちょうど今終わりました。」
着替えを手伝っていたウルファが、部屋から出てきました。
後ろから、イルダ様も出てきます。
「あぁ、イルダ、キレイだよ。」
ヒメネス伯爵が、感動しています。
確かにキレイです。
ウルファの手で結い上げられた艶やかな髪。
イシドラの処方したクリームなどで手入れされ磨き抜かれた肌。
胸元を大胆に露出させながらも、上品な雰囲気を醸し出すデザインのドレス。
それに合わせるようデザインされたネックレスや髪飾りなどの宝石をあしらったアクセサリー。
ウルファの紹介してくれた職人達は、いい仕事をしてくれました。
「イルダ様、とっても素敵です。」
「ありがとう、ロザリンド。こんな素敵なドレスやアクセサリーを揃えてくれて。予想以上の品よ。」
イルダ様も心底感心した面持ちで、鏡に見入ってます。
「これ以上、キレイになれないんじゃないかって思うくらいよ。」
「そんなことありません。もっと美しくなれますよ、イルダ様。」
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