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「そろそろデザートだね。」
そう言ってお父様は、ワインボトルを出しました。
白ワインなのでしょうが、金色っぽく見えます。
「隣国で手に入れたワインだ。貴腐ワインと言ってね、非常に甘い。デザートワインとして売れないか、ギルベルト伯爵より相談を受けた品だ。」
そう言って皆のグラスに注いでいきます。
私には注いでくれません。
「お前は未成年だからね。」
「お父様は?」
お父様は、ワインを自分のグラスには注ぎませんでした。
「商人は商品に手を出さないものさ。それに私は、ギルベルト伯爵に飲ませてもらってる。ここは皆の感想を聞きたいんだ。」
「では、頂戴しましょう。」
ヒメネス伯爵が、ワインを口にしました。
「これは、甘い!!こんな甘いワイン飲んだことが無い。いや、父や祖父も飲んだことが無いだろう。」
「ふふ、そうですか。ヒメネス伯爵にそう言って頂けると安心できますな。」
皆も口にします。
「あめえっ!」
「オラシオ、静かに飲めよ。」
「これはお父様の言う通りかしら。ワタシはワインに詳しくないけど、甘いわ。」
「すまないね、父達のようにワインを飲ませてやれなくて。」
「この甘さ、隣国の特有種のせい?」
料理をするエルゼは、ブドウの品種に興味を示しています。
「特有種ではなく、一種の病気らしいが。」
「病気じゃと?商会長、どういう意味じゃ?」
病気の言葉にイシドラが反応します。
「うむ、実はカビに侵されたブドウをもったいないからとワインに醸造したところ、ごらんの味になったらしい。ギルベルト伯爵も、詳しくは知らなくてね。クルス王子を半数の兵力で撃破した後、ギルベルト伯爵の勢力下に入った土地の名産品なんだそうだ。」
「この芳香も、病気のせいじゃろうか?並みのワインではない。」
イシドラがつぶやきながら、グラスを口にします。
「こんなワインがよく埋もれていたものですねぇ。色がとてもキレイ。」
ウルファが、グラスに残っているワインを見つめながら言います。
「最近、その土地の領主も口にするようになったそうだ。何しろ病気にやられたブドウだからね。ちょっと勇気がいったようだ。」
「お父様、これをどうするおつもりですか?」
「量があまり作れないみたいでね。ここは高級志向で販売しようと思うのだけど……。」
そう言いながら、お父様はイルダ様の方を見ます。
「何かしら、ニールス様?」
「……いや、イルダ様はお美しいなぁと。」
「イルダ様、お願いします。陛下に献上して頂けませんか?」
お父様の言いたいことを伝えます。
「ロザリンド、貴女に言われては断れないわね。陛下に献上してみましょう。」
イルダ様が差し出した手に、父はボトルを渡します。
「ありがとうございます。」
私は、イルダ様に頭を下げました。
「やれやれ、仲良しさんだ。女の子同士の友情は美しいねぇ。」
そう言ってお父様は、立ち上がりました。
「お父様?」
「ヒメネス伯爵、イルダ様。僕は失礼します。商会を留守にできませんからね。娘から化粧品の価格も聞けましたし。」
そう言って食堂から出ます。
「お父様、化粧品を売るなら私も戻ります。」
そう言って私も、お父様の後から食堂を出ました。
「お父様、わざとでしょ。」
ドアを閉めてから、話しかけます。
「何をかな?」
お父様の歩みは止まりません。私は、その背中を追いかけます。
「イルダ様に私から頼ませ、それをイルダ様が私の頼みだからと受け入れる。お父様が頼んでも、断らないでしょうに。」
「そうすれば、対価を支払う必要がある。お前からなら無料で引き受けてくれるだろうとふんだからね。それに。」
「それに?」
依頼に当たっての謝礼を節約するだけじゃないのですか?
「イルダ様は、お前に恩を感じている。それはいいが、イルダ様はそれを負担に思う時があると思う。」
そうかもしれません。
私は、気にしていませんが、イルダ様がそう思っている可能性は十分あります。
「これで少しはお前に恩を返せた、と思えばイルダ様の気も楽になるだろう。そうしないと、どこかでお前たちの友情に悪影響を及ぼすかもしれない。」
「お父様……。」
そこまで考えてのことだったんですか。
「お前を貴族相手の商売に投入したんだ。父としてそれなりの支援はするさ。」
「ありがとう、お父様。」
そこまで考えてくださっていたなんて。
「何、この程度の気遣いなら無料だ。」
さすがです、お父様。
「ところで、本当に戻るのか?皆と楽しくやってはどうだ?」
「いえ、化粧品とセットでドレスやアクセサリーを売りたいんです。」
先月イルダ様と組んだ時に、真っ先に考えた、美人のイルダ様をモデルにしてドレスやアクセサリーなどを他の貴族に売り込む商売。
化粧品と組み合わせて、ドレスなども拡販したいのです。
ウルファがひいきにするお店は、巨乳体形を魅力的に魅せるデザイン能力と、それを具体化する縫製技術を兼ね備えています。
当初は、そのお店と組んで、巨乳をより魅力的に魅せるドレスとアクセサリーをイルダ様に着せて売り込むだけだったのです。
ですが、新しい化粧品が加わった。
新しい化粧品に合わせたドレスやアクセサリーなどは、王室御用達を始めとする従来のお店では、未だ手つかず。
新しい化粧をすることを前提とした、巨乳体形を魅力的に見せるデザインやアクセサリーは、必ず国王を魅了する。
実際、魅了できました。
イルダ様に国王は、夢中なのですから。
さぁ、この状況を他の野心ある貴族方は、指をくわえて見ているだけでしょうか。
否!!!
彼女やその親は、お金をいくら積んででも手に入れたいでしょう。
ふふふ、彼らのニーズに応える、新しい化粧品とそれに合うアクセサリーやドレスを扱うのは、私だけ。
この商機、逃すべからず!!!
新しい化粧に合わせたドレスやアクセサリーのデザインの変更、それに伴う納期の短縮に応えてくれたチャベス親方やタムード親方のためにも、奮起せねばならぬのです。
「やれやれ、楽しそうだねぇ。」
えぇ、やってやりますわ!
そう言ってお父様は、ワインボトルを出しました。
白ワインなのでしょうが、金色っぽく見えます。
「隣国で手に入れたワインだ。貴腐ワインと言ってね、非常に甘い。デザートワインとして売れないか、ギルベルト伯爵より相談を受けた品だ。」
そう言って皆のグラスに注いでいきます。
私には注いでくれません。
「お前は未成年だからね。」
「お父様は?」
お父様は、ワインを自分のグラスには注ぎませんでした。
「商人は商品に手を出さないものさ。それに私は、ギルベルト伯爵に飲ませてもらってる。ここは皆の感想を聞きたいんだ。」
「では、頂戴しましょう。」
ヒメネス伯爵が、ワインを口にしました。
「これは、甘い!!こんな甘いワイン飲んだことが無い。いや、父や祖父も飲んだことが無いだろう。」
「ふふ、そうですか。ヒメネス伯爵にそう言って頂けると安心できますな。」
皆も口にします。
「あめえっ!」
「オラシオ、静かに飲めよ。」
「これはお父様の言う通りかしら。ワタシはワインに詳しくないけど、甘いわ。」
「すまないね、父達のようにワインを飲ませてやれなくて。」
「この甘さ、隣国の特有種のせい?」
料理をするエルゼは、ブドウの品種に興味を示しています。
「特有種ではなく、一種の病気らしいが。」
「病気じゃと?商会長、どういう意味じゃ?」
病気の言葉にイシドラが反応します。
「うむ、実はカビに侵されたブドウをもったいないからとワインに醸造したところ、ごらんの味になったらしい。ギルベルト伯爵も、詳しくは知らなくてね。クルス王子を半数の兵力で撃破した後、ギルベルト伯爵の勢力下に入った土地の名産品なんだそうだ。」
「この芳香も、病気のせいじゃろうか?並みのワインではない。」
イシドラがつぶやきながら、グラスを口にします。
「こんなワインがよく埋もれていたものですねぇ。色がとてもキレイ。」
ウルファが、グラスに残っているワインを見つめながら言います。
「最近、その土地の領主も口にするようになったそうだ。何しろ病気にやられたブドウだからね。ちょっと勇気がいったようだ。」
「お父様、これをどうするおつもりですか?」
「量があまり作れないみたいでね。ここは高級志向で販売しようと思うのだけど……。」
そう言いながら、お父様はイルダ様の方を見ます。
「何かしら、ニールス様?」
「……いや、イルダ様はお美しいなぁと。」
「イルダ様、お願いします。陛下に献上して頂けませんか?」
お父様の言いたいことを伝えます。
「ロザリンド、貴女に言われては断れないわね。陛下に献上してみましょう。」
イルダ様が差し出した手に、父はボトルを渡します。
「ありがとうございます。」
私は、イルダ様に頭を下げました。
「やれやれ、仲良しさんだ。女の子同士の友情は美しいねぇ。」
そう言ってお父様は、立ち上がりました。
「お父様?」
「ヒメネス伯爵、イルダ様。僕は失礼します。商会を留守にできませんからね。娘から化粧品の価格も聞けましたし。」
そう言って食堂から出ます。
「お父様、化粧品を売るなら私も戻ります。」
そう言って私も、お父様の後から食堂を出ました。
「お父様、わざとでしょ。」
ドアを閉めてから、話しかけます。
「何をかな?」
お父様の歩みは止まりません。私は、その背中を追いかけます。
「イルダ様に私から頼ませ、それをイルダ様が私の頼みだからと受け入れる。お父様が頼んでも、断らないでしょうに。」
「そうすれば、対価を支払う必要がある。お前からなら無料で引き受けてくれるだろうとふんだからね。それに。」
「それに?」
依頼に当たっての謝礼を節約するだけじゃないのですか?
「イルダ様は、お前に恩を感じている。それはいいが、イルダ様はそれを負担に思う時があると思う。」
そうかもしれません。
私は、気にしていませんが、イルダ様がそう思っている可能性は十分あります。
「これで少しはお前に恩を返せた、と思えばイルダ様の気も楽になるだろう。そうしないと、どこかでお前たちの友情に悪影響を及ぼすかもしれない。」
「お父様……。」
そこまで考えてのことだったんですか。
「お前を貴族相手の商売に投入したんだ。父としてそれなりの支援はするさ。」
「ありがとう、お父様。」
そこまで考えてくださっていたなんて。
「何、この程度の気遣いなら無料だ。」
さすがです、お父様。
「ところで、本当に戻るのか?皆と楽しくやってはどうだ?」
「いえ、化粧品とセットでドレスやアクセサリーを売りたいんです。」
先月イルダ様と組んだ時に、真っ先に考えた、美人のイルダ様をモデルにしてドレスやアクセサリーなどを他の貴族に売り込む商売。
化粧品と組み合わせて、ドレスなども拡販したいのです。
ウルファがひいきにするお店は、巨乳体形を魅力的に魅せるデザイン能力と、それを具体化する縫製技術を兼ね備えています。
当初は、そのお店と組んで、巨乳をより魅力的に魅せるドレスとアクセサリーをイルダ様に着せて売り込むだけだったのです。
ですが、新しい化粧品が加わった。
新しい化粧品に合わせたドレスやアクセサリーなどは、王室御用達を始めとする従来のお店では、未だ手つかず。
新しい化粧をすることを前提とした、巨乳体形を魅力的に見せるデザインやアクセサリーは、必ず国王を魅了する。
実際、魅了できました。
イルダ様に国王は、夢中なのですから。
さぁ、この状況を他の野心ある貴族方は、指をくわえて見ているだけでしょうか。
否!!!
彼女やその親は、お金をいくら積んででも手に入れたいでしょう。
ふふふ、彼らのニーズに応える、新しい化粧品とそれに合うアクセサリーやドレスを扱うのは、私だけ。
この商機、逃すべからず!!!
新しい化粧に合わせたドレスやアクセサリーのデザインの変更、それに伴う納期の短縮に応えてくれたチャベス親方やタムード親方のためにも、奮起せねばならぬのです。
「やれやれ、楽しそうだねぇ。」
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