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「ヒメネス伯爵、こちらが伯爵家の借金の契約書です。全て私の方で買上げました。」
私は、ヒメネス伯爵の前に契約書を積み上げました。
「本当に買い取ったのかね。」
「はい、今後債権者は私だけになります。」
相応のお金は使いましたが、問題はありません。
化粧品などの販売が大成功で、父も目をむくほどの売上となりましたから。
「そこでお話なのですが、借金の支払いをしばらく停止します。所領の収益で伯爵家にの対面を保つに必要な人を雇って下さい。」
「娘より年下の女の子にここまでしてもらうとは ……。」
「必要なことではありませんか。」
そう、どうしても伯爵家に相応の対面を保つ人員が必要になったのです。
それは……。
「懐妊!?」
イルダ様の言葉にその場にいる全員が叫びます。
「驚くことはないじゃない。いつかは来ることよ。」
あっさりとおっしゃりますが。
「間違いないのですか?」
「エルゼ、王宮の医師が診察し、宮廷魔術師が鑑定魔法まで使ったのよ。間違いないわ。」
この瞬間、私はヒメネス伯爵家の借金一元化を決断しました。
借金を私の元に集中させ、返済を一時的に停止。
そして伯爵家の体面を保つのに必要な人員を揃えてもらいます。
そうしなければ、今後行われる王族や名門貴族との交際に対応できないでしょう。
ですが、一つ懸案事項があります。そこをいかに解決するかが問題です。
「……私がおじいちゃんか。」
ヒメネス伯爵が、呆然とした顔になっています。
「それも将来の国王の、ね。」
ここで大事なことに気がつきました。
「もしうまれて来る子が女の子だったらどうなるのですか?」
女子に王位継承権は無い。それがこの国の伝統です。
「心配ないわよ。王女として育てる、と陛下は断言されたわ。」
イルダ様は、愛おしげにお腹を撫でます。
「陛下はね、『よくぞ妊娠してくれた。子の性別はどうでもいい。無事に産むことだけを考えよ。』と仰せよ。」
「性別はどうでもいい?」
イルダ様を始めとする令嬢達に手を出しているのは、クルス王子廃立のためではないのでしょうか?
「子を授かったのが嬉しいのよ。廷臣達に『子を為すことは諦め、弟より養子をとられては?』と言われたことを不愉快に思っていたから。」
「そんなことを言う方がいるのですか?」
「彼らは『陛下もお歳ですから。』とも言ってるみたい。」
「お歳か、確かにそうだ。陛下も51歳。子作りは難しいお歳だ。」
「そうなのですか?」
「ロザリンド嬢、貴女は若いから想像できないだろうが、歳をとれば体の機能は衰えて来る。男女のことも同様。正直、イルダを連日のように召すとは思わなかった。召さなかった日も、別の女性を召したというから、正直驚いているんだ。」
「確かに、夜に関しては男性も衰える。連日若い女性を相手にし続けるなど、問題なくできているのだろうか?」
ヒメネス伯爵とイシドラの会話は、私にはよく理解できません。
「何にせよ、体を大事にな。妊娠初期は流産しやすい。」
流産、の言葉にイルダ様の顔がひきつりました。
「どうすればいいの?」
「心身の安静を心がけるようにな。特に心の安静が重要じゃ。」
「心の安静……。」
ナイス、イシドラ!
今なら、懸案事項を解決できるかもしれません。
「ヒメネス伯爵、イルダ様、お話があります。」
「何かね?」
「借金の問題、私に任せて頂けませんか?」
「任せるというと?」
「ヒメネス伯爵家の借金を私に一元化し、返済を一時的に停止します。」
先ほど決断を伝えました。
「借金を一元化はともかく、停止は……。ありがたい話であるが。」
「そうしなければ、伯爵家としての体面を保つだけの人員を確保できないでしょう。一時のことです。無論、伯爵家の財務状況が改善されれば支払って頂きます。」
「しかしだね……。」
「今、この家の維持の労力として私や侍女たちに加えて、護衛の方まで協力してもらってますが、それでは追いつかなくなるのではありませんか?イルダ様にまで負担をおかけするおつもりですか?」
「いやね……。」
「お父様、ロザリンドの話に乗りましょう。」
「イルダ、お前……。」
どうやら懸案事項は、解決できたようです。
「ロザリンドの言う通り、今後は王族や五公爵のような名門との交際も発生するでしょう。その時、体面を保つことに神経を使いたくないわ。」
イルダ様は、お腹に手を当てながら言います。
「この子をどうあっても無事に産みたいの。」
「イルダ、お前。そこまで我が家を再建したいのかい。」
「そうね、この子を産めば陛下の覚えもよくなり、それは我がヒメネス伯爵家の再建につながる。」
「イルダ、お前がそれまで思いつめることはないんだよ。」
「お父様。確かにワタシは、ヒメネス伯爵家の再建を願い、今までロザリンドの策にのってきました。でもこれは違います。ワタシの一番の願いのためなのです。」
「一番の願い?それは伯爵家の再建以上のものなのかい?」
「はい。」
イルダ様は、力強く答えます。
「それは、この子を無事に産むことです。この子は陛下の子だけど、ワタシの子でもある。ワタシは、この子を守ります。そのためなら何でもするわ。」
懸案事項、借金の一元化を「貴女の施しを受けない!」と突っぱねられるリスクは、存在しなかったようです。
何というか、イルダ様の顔つきが、以前と違うような。
気の強さは変わらないのですけど、その強さが変化した感じがします。
とっても素敵なんですけどね。
「イルダ様。ではいいですね。借金のことはお任せ頂けますね。」
「よろしくね、ロザリンド。」
「ええ、任されました。」
かくして借金の一元化に取り組むことになりました。
簡単ではなかったですけどね。
まず、借金の借入先と借入額の把握。
ヒメネス伯爵に伺っても、あやふやな返事しかもらえませんでした。
恐ろしいことに、ヒメネス伯爵は、取立人が来た時に請求された額を払うだけで、月にいくら払う必要があるのかなど把握していなかったのです。
「金銭に関わることは賤しいこと。そう育てられてきたのでね。」
ヒメネス伯爵は善良な方ですが、これには参りました。
王族も同じなんだろうな、と思いながら乱雑に残されていた契約書などと格闘し、借入先と借入額と利息を調べ上げ、必要な額を計算して支払いました。
それと並行して使用人などの募集も行いました。
幸いヒメネス伯爵は、使用人の方々に慕われていたようで、暇を出されていた方の大半が戻ってきてくれました。
彼らは、ヒメネス伯爵家の屋敷の隅々まで知っている方ですから、お任せするだけで万事スムーズに進みます。
無論、新しく採用した人もいますが、彼らの教育もやってくれました。
おかげでイルダ様は、心身ともに穏やかに送ることができたようで、お腹も順調に大きくなっていくのでした。
私は、ヒメネス伯爵の前に契約書を積み上げました。
「本当に買い取ったのかね。」
「はい、今後債権者は私だけになります。」
相応のお金は使いましたが、問題はありません。
化粧品などの販売が大成功で、父も目をむくほどの売上となりましたから。
「そこでお話なのですが、借金の支払いをしばらく停止します。所領の収益で伯爵家にの対面を保つに必要な人を雇って下さい。」
「娘より年下の女の子にここまでしてもらうとは ……。」
「必要なことではありませんか。」
そう、どうしても伯爵家に相応の対面を保つ人員が必要になったのです。
それは……。
「懐妊!?」
イルダ様の言葉にその場にいる全員が叫びます。
「驚くことはないじゃない。いつかは来ることよ。」
あっさりとおっしゃりますが。
「間違いないのですか?」
「エルゼ、王宮の医師が診察し、宮廷魔術師が鑑定魔法まで使ったのよ。間違いないわ。」
この瞬間、私はヒメネス伯爵家の借金一元化を決断しました。
借金を私の元に集中させ、返済を一時的に停止。
そして伯爵家の体面を保つのに必要な人員を揃えてもらいます。
そうしなければ、今後行われる王族や名門貴族との交際に対応できないでしょう。
ですが、一つ懸案事項があります。そこをいかに解決するかが問題です。
「……私がおじいちゃんか。」
ヒメネス伯爵が、呆然とした顔になっています。
「それも将来の国王の、ね。」
ここで大事なことに気がつきました。
「もしうまれて来る子が女の子だったらどうなるのですか?」
女子に王位継承権は無い。それがこの国の伝統です。
「心配ないわよ。王女として育てる、と陛下は断言されたわ。」
イルダ様は、愛おしげにお腹を撫でます。
「陛下はね、『よくぞ妊娠してくれた。子の性別はどうでもいい。無事に産むことだけを考えよ。』と仰せよ。」
「性別はどうでもいい?」
イルダ様を始めとする令嬢達に手を出しているのは、クルス王子廃立のためではないのでしょうか?
「子を授かったのが嬉しいのよ。廷臣達に『子を為すことは諦め、弟より養子をとられては?』と言われたことを不愉快に思っていたから。」
「そんなことを言う方がいるのですか?」
「彼らは『陛下もお歳ですから。』とも言ってるみたい。」
「お歳か、確かにそうだ。陛下も51歳。子作りは難しいお歳だ。」
「そうなのですか?」
「ロザリンド嬢、貴女は若いから想像できないだろうが、歳をとれば体の機能は衰えて来る。男女のことも同様。正直、イルダを連日のように召すとは思わなかった。召さなかった日も、別の女性を召したというから、正直驚いているんだ。」
「確かに、夜に関しては男性も衰える。連日若い女性を相手にし続けるなど、問題なくできているのだろうか?」
ヒメネス伯爵とイシドラの会話は、私にはよく理解できません。
「何にせよ、体を大事にな。妊娠初期は流産しやすい。」
流産、の言葉にイルダ様の顔がひきつりました。
「どうすればいいの?」
「心身の安静を心がけるようにな。特に心の安静が重要じゃ。」
「心の安静……。」
ナイス、イシドラ!
今なら、懸案事項を解決できるかもしれません。
「ヒメネス伯爵、イルダ様、お話があります。」
「何かね?」
「借金の問題、私に任せて頂けませんか?」
「任せるというと?」
「ヒメネス伯爵家の借金を私に一元化し、返済を一時的に停止します。」
先ほど決断を伝えました。
「借金を一元化はともかく、停止は……。ありがたい話であるが。」
「そうしなければ、伯爵家としての体面を保つだけの人員を確保できないでしょう。一時のことです。無論、伯爵家の財務状況が改善されれば支払って頂きます。」
「しかしだね……。」
「今、この家の維持の労力として私や侍女たちに加えて、護衛の方まで協力してもらってますが、それでは追いつかなくなるのではありませんか?イルダ様にまで負担をおかけするおつもりですか?」
「いやね……。」
「お父様、ロザリンドの話に乗りましょう。」
「イルダ、お前……。」
どうやら懸案事項は、解決できたようです。
「ロザリンドの言う通り、今後は王族や五公爵のような名門との交際も発生するでしょう。その時、体面を保つことに神経を使いたくないわ。」
イルダ様は、お腹に手を当てながら言います。
「この子をどうあっても無事に産みたいの。」
「イルダ、お前。そこまで我が家を再建したいのかい。」
「そうね、この子を産めば陛下の覚えもよくなり、それは我がヒメネス伯爵家の再建につながる。」
「イルダ、お前がそれまで思いつめることはないんだよ。」
「お父様。確かにワタシは、ヒメネス伯爵家の再建を願い、今までロザリンドの策にのってきました。でもこれは違います。ワタシの一番の願いのためなのです。」
「一番の願い?それは伯爵家の再建以上のものなのかい?」
「はい。」
イルダ様は、力強く答えます。
「それは、この子を無事に産むことです。この子は陛下の子だけど、ワタシの子でもある。ワタシは、この子を守ります。そのためなら何でもするわ。」
懸案事項、借金の一元化を「貴女の施しを受けない!」と突っぱねられるリスクは、存在しなかったようです。
何というか、イルダ様の顔つきが、以前と違うような。
気の強さは変わらないのですけど、その強さが変化した感じがします。
とっても素敵なんですけどね。
「イルダ様。ではいいですね。借金のことはお任せ頂けますね。」
「よろしくね、ロザリンド。」
「ええ、任されました。」
かくして借金の一元化に取り組むことになりました。
簡単ではなかったですけどね。
まず、借金の借入先と借入額の把握。
ヒメネス伯爵に伺っても、あやふやな返事しかもらえませんでした。
恐ろしいことに、ヒメネス伯爵は、取立人が来た時に請求された額を払うだけで、月にいくら払う必要があるのかなど把握していなかったのです。
「金銭に関わることは賤しいこと。そう育てられてきたのでね。」
ヒメネス伯爵は善良な方ですが、これには参りました。
王族も同じなんだろうな、と思いながら乱雑に残されていた契約書などと格闘し、借入先と借入額と利息を調べ上げ、必要な額を計算して支払いました。
それと並行して使用人などの募集も行いました。
幸いヒメネス伯爵は、使用人の方々に慕われていたようで、暇を出されていた方の大半が戻ってきてくれました。
彼らは、ヒメネス伯爵家の屋敷の隅々まで知っている方ですから、お任せするだけで万事スムーズに進みます。
無論、新しく採用した人もいますが、彼らの教育もやってくれました。
おかげでイルダ様は、心身ともに穏やかに送ることができたようで、お腹も順調に大きくなっていくのでした。
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