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ブラッドが、作戦を強襲から攻囲に切り替えてから3日目の夜明けを迎えた。
「ジール城に動きはありません。」
徹夜で監視ジール城を監視している兵達から報告が上がるが、全て同じだった。
ブラッドは、城の監視にアンダーウッド指揮の500、船着場の監視にサンダーソン指揮の1000を配備した。
ブラッド自身は、ジール城の北を流れる川の中洲に本営を置き、ソーンダイクとともにいることにした。
中洲は川の真ん中に有り、川の両岸から橋が架かっている。
ここを抑えねば、船着き場の監視と城の監視とがそれぞれ孤立してしまう。
何があっても守らねばならぬ地点でもあった。
ブラッドは、各所で昼夜監視を行わせているが、今まで動きは全く無い。
「そろそろ動かないと次のデュエルに間に合わないはずだが。」
オルコット家側には地の利がある。自分の知らない近道が有り、それを使って移動する可能性も考慮しないでもなかった。
しかし、移動に3日というのは黒駒隊での想定だ。
オルコット家の騎兵隊の移動能力はよくわからないが、歩兵を伴う以上、もっとかかると考えねばならない。
「アシュリーめ、俺とのデュエルに勝つことだけ考えて、後はどうでもいいと思っているのか?」
傍らのソーンダイクに話しかける。
「それは、考えにくいですね。オルコット家には水軍があります。ケラハ侯などとのデュエルで戦う機会がある彼らが黙っているとは考えにくい。」
「しかし、ケラハ侯など合わせて9件のデュエルは陸戦だ。オスタップ平原に集めてまとめてやるというのだから、間違いない。」
「そこが、よくわかりませんな。我々とのデュエルに専念するのは、わかります。各個撃破でしょう。ですが、残りをまとめてとは、相手をわざわざ強力化させているだけです。普通なら、一つ一つやった方が勝率が高い。」
ソーンダイクの常識論にうなずくしかない。
「今日には、クライブは到着するだろうか?」
「そちらは、大丈夫でしょう。ヤングもついております。かいばの追加調達に時間がかかっているのかもしれません。」
「それならいいが。」
市街地に配置しているアンダーウッドから、北の方からの旅人が、千頭近い馬を連れた千人以上の集団を目撃した、との情報が報告されている。
クライブの補給部隊とみて間違いないだろう、とソーンダイクは考えている。
千人も兵はいないはずだが、旅人達の伝言である。どこかで人数が増えたのだろう。
「今日中に来てくれんと、かいばが無くなってしまう。」
作戦を変更してもかいばの問題は、解決されていない。
人参やふすまなどで代用しようとしたが、バノンをはじめとする大半の商人にふっかけられ、調達を断念した。
ふすま30バウンド(30㎏)一袋に金貨百枚など払えるはずもない。
適正な価格を求めるも、嫌なら帰れ、と言わんばかりの対応をとられた。
商人の中には、取引そのものを拒んだ者もいる。
「ベネディクト様は、いい領主様でした。オルコット家の敵は、私にとっても敵です。」
そう言い切った商人をブラッドは、忘れられない。
恐怖で震えていたが、それでも対抗の意志を明確に示す姿が、ベネディクトと被ったのだ。
こんな状況でも、人間用の食糧は適正な価格で購入できている。
そこで、人間用として購入した人参やオーツ麦を馬に与えるなどしてやり繰りしている。
その分人間の食べる量は減るが、やむを得ない。携帯したペミカンなどでしのいでいた。
人間を飢えさせず、馬だけ飢えさせるという意図の意味は、未だ不明だが、ブラッドとしては、食糧を入手できるだけマシと考えるしかなかった。
「ブラッド、朝ご飯よ。」
そう言ってシンシアが持ってきたのは、パンだった。
「塩と水だけだから、あんまりうまく膨らまなかったけど。」
「アシュリーの小麦粉か。」
「そう、嫌がらせだってサンダーソンさん言ってるけど、感謝だよね。」
一度、城壁内の投石機が動いた。
何事かとブラッドも緊張したが、かいばが、飛んできて、飛散しただけだったので、胸をなで下ろしている。
昨日は、小麦粉30バウンド(30㎏)の袋が撃ち込まれている。
「お腹空いてない?一杯食べないと戦えないわよ。」
などというアシュリーのメッセージ付きで。
「やかましい!てめえこそ食って、胸に肉つけろや!」
とサンダーソンは吠えたが、シンシアは、礼を言って回収している。
「これで晩ご飯に麺作りましょう。パンも焼けるわ。」
などと言って、嬉々として兵を指導し、料理にかかっている。
「奥方はタフですな。」
「私は下町の娘だからね。ご飯食べられればいいの。」
「食べていれば何とかなるか。」
ブラッドは、差し出されたパンを受け取り口にした。
「そうそう、ブラッドも深刻な顔しない。兵隊さん達が気にしちゃうわよ。」
「兵のことも気を回すか、君は優秀な将軍になれるぞ。」
「私は、殺し合いに興味ないわ。その辺知らないから勝手にやってね。治療だけは万全にやるから。」
このさっぱりした性格こそ、ブラッドが、シンシアに惹かれた理由である。
「隊長!投石機による攻撃が始まりました?」
「また、小麦粉?」
「いえ、残念ながら石弾です!」
攻撃を受けたのは、サンダーソンの部隊だった。
「チィッ、手の届かねえところから攻撃してきやがって、男ならかかってこいってんだ。」
無論、フレッドにその言葉が聞こえるはずもない。石弾を次々と放つだけだった。
「逃げろ!石弾の飛んでこねえところに逃げるんだ!」
サンダーソンは、ブラッドに言われた通り、部下に逃げるよう指示した。
「舟です、上流から舟が多数来ます!10艘以上!」
「なんだと!」
舟が上流から迫ってきているのは、ブラッドの本営からも目撃できた。
「アシュリーめ、脱出するつもりか。」
そのための舟か。
数は多いが、領主の護衛ならば、あれくらい必要なのだろう。
水軍に疎いブラッドは、そう考えた。
「うろたえるな。オルコット家の脱出であろう。手を出さずともよい。」
ブラッドにしてみれば、待ち望んでいた勝利の瞬間である。
下手に手を出して、兵が死ぬのはごめんだし、アシュリーやクリフに万が一のことがあっては目覚めが悪い。
ブラッドは、どれかの舟が船着き場につくものと思いながら見ていたが、舟の止まる気配はない。
むしろ増速して、こちらに向かってくるようだった。
「まさか?」
敵の狙いはここか?
「ええい、ソーンダイク、お前は城へ向かう橋を守れ。俺は対岸の橋を守る。」
万が一にも橋が落とされては、部隊がそれぞれ孤立してしまう。
「ジール城に動きはありません。」
徹夜で監視ジール城を監視している兵達から報告が上がるが、全て同じだった。
ブラッドは、城の監視にアンダーウッド指揮の500、船着場の監視にサンダーソン指揮の1000を配備した。
ブラッド自身は、ジール城の北を流れる川の中洲に本営を置き、ソーンダイクとともにいることにした。
中洲は川の真ん中に有り、川の両岸から橋が架かっている。
ここを抑えねば、船着き場の監視と城の監視とがそれぞれ孤立してしまう。
何があっても守らねばならぬ地点でもあった。
ブラッドは、各所で昼夜監視を行わせているが、今まで動きは全く無い。
「そろそろ動かないと次のデュエルに間に合わないはずだが。」
オルコット家側には地の利がある。自分の知らない近道が有り、それを使って移動する可能性も考慮しないでもなかった。
しかし、移動に3日というのは黒駒隊での想定だ。
オルコット家の騎兵隊の移動能力はよくわからないが、歩兵を伴う以上、もっとかかると考えねばならない。
「アシュリーめ、俺とのデュエルに勝つことだけ考えて、後はどうでもいいと思っているのか?」
傍らのソーンダイクに話しかける。
「それは、考えにくいですね。オルコット家には水軍があります。ケラハ侯などとのデュエルで戦う機会がある彼らが黙っているとは考えにくい。」
「しかし、ケラハ侯など合わせて9件のデュエルは陸戦だ。オスタップ平原に集めてまとめてやるというのだから、間違いない。」
「そこが、よくわかりませんな。我々とのデュエルに専念するのは、わかります。各個撃破でしょう。ですが、残りをまとめてとは、相手をわざわざ強力化させているだけです。普通なら、一つ一つやった方が勝率が高い。」
ソーンダイクの常識論にうなずくしかない。
「今日には、クライブは到着するだろうか?」
「そちらは、大丈夫でしょう。ヤングもついております。かいばの追加調達に時間がかかっているのかもしれません。」
「それならいいが。」
市街地に配置しているアンダーウッドから、北の方からの旅人が、千頭近い馬を連れた千人以上の集団を目撃した、との情報が報告されている。
クライブの補給部隊とみて間違いないだろう、とソーンダイクは考えている。
千人も兵はいないはずだが、旅人達の伝言である。どこかで人数が増えたのだろう。
「今日中に来てくれんと、かいばが無くなってしまう。」
作戦を変更してもかいばの問題は、解決されていない。
人参やふすまなどで代用しようとしたが、バノンをはじめとする大半の商人にふっかけられ、調達を断念した。
ふすま30バウンド(30㎏)一袋に金貨百枚など払えるはずもない。
適正な価格を求めるも、嫌なら帰れ、と言わんばかりの対応をとられた。
商人の中には、取引そのものを拒んだ者もいる。
「ベネディクト様は、いい領主様でした。オルコット家の敵は、私にとっても敵です。」
そう言い切った商人をブラッドは、忘れられない。
恐怖で震えていたが、それでも対抗の意志を明確に示す姿が、ベネディクトと被ったのだ。
こんな状況でも、人間用の食糧は適正な価格で購入できている。
そこで、人間用として購入した人参やオーツ麦を馬に与えるなどしてやり繰りしている。
その分人間の食べる量は減るが、やむを得ない。携帯したペミカンなどでしのいでいた。
人間を飢えさせず、馬だけ飢えさせるという意図の意味は、未だ不明だが、ブラッドとしては、食糧を入手できるだけマシと考えるしかなかった。
「ブラッド、朝ご飯よ。」
そう言ってシンシアが持ってきたのは、パンだった。
「塩と水だけだから、あんまりうまく膨らまなかったけど。」
「アシュリーの小麦粉か。」
「そう、嫌がらせだってサンダーソンさん言ってるけど、感謝だよね。」
一度、城壁内の投石機が動いた。
何事かとブラッドも緊張したが、かいばが、飛んできて、飛散しただけだったので、胸をなで下ろしている。
昨日は、小麦粉30バウンド(30㎏)の袋が撃ち込まれている。
「お腹空いてない?一杯食べないと戦えないわよ。」
などというアシュリーのメッセージ付きで。
「やかましい!てめえこそ食って、胸に肉つけろや!」
とサンダーソンは吠えたが、シンシアは、礼を言って回収している。
「これで晩ご飯に麺作りましょう。パンも焼けるわ。」
などと言って、嬉々として兵を指導し、料理にかかっている。
「奥方はタフですな。」
「私は下町の娘だからね。ご飯食べられればいいの。」
「食べていれば何とかなるか。」
ブラッドは、差し出されたパンを受け取り口にした。
「そうそう、ブラッドも深刻な顔しない。兵隊さん達が気にしちゃうわよ。」
「兵のことも気を回すか、君は優秀な将軍になれるぞ。」
「私は、殺し合いに興味ないわ。その辺知らないから勝手にやってね。治療だけは万全にやるから。」
このさっぱりした性格こそ、ブラッドが、シンシアに惹かれた理由である。
「隊長!投石機による攻撃が始まりました?」
「また、小麦粉?」
「いえ、残念ながら石弾です!」
攻撃を受けたのは、サンダーソンの部隊だった。
「チィッ、手の届かねえところから攻撃してきやがって、男ならかかってこいってんだ。」
無論、フレッドにその言葉が聞こえるはずもない。石弾を次々と放つだけだった。
「逃げろ!石弾の飛んでこねえところに逃げるんだ!」
サンダーソンは、ブラッドに言われた通り、部下に逃げるよう指示した。
「舟です、上流から舟が多数来ます!10艘以上!」
「なんだと!」
舟が上流から迫ってきているのは、ブラッドの本営からも目撃できた。
「アシュリーめ、脱出するつもりか。」
そのための舟か。
数は多いが、領主の護衛ならば、あれくらい必要なのだろう。
水軍に疎いブラッドは、そう考えた。
「うろたえるな。オルコット家の脱出であろう。手を出さずともよい。」
ブラッドにしてみれば、待ち望んでいた勝利の瞬間である。
下手に手を出して、兵が死ぬのはごめんだし、アシュリーやクリフに万が一のことがあっては目覚めが悪い。
ブラッドは、どれかの舟が船着き場につくものと思いながら見ていたが、舟の止まる気配はない。
むしろ増速して、こちらに向かってくるようだった。
「まさか?」
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