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第4章
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いよいよ高校生活が始まる。今朝も厨房に入っていたけど、7時になって健也さんにせかされて、今日は入学式なのだ。
制服に着替えた後、お父さんと健也さんに見てもらうので、お店に
「どう 可愛い?」
「えぇ 素敵ですね 立派な女子高生です」と、健也さんは言ってくれたけど、お父さんは黙って見ただけだった。相変わらず、不愛想な父なのだ。
明るいめの紺色で襟がV型になっているワンピースでスカートのプリーツがやや長めになっていて脚が長く見えて、襟元は紺とえんじ色のリボンに短めのブレザー。私は、この制服も気に入っているのだ。今日はお母さんも薄いブルーの紋付着物姿で付き添ってくれていた。
学校は山の中腹にあって、坂道に沿って校舎が並んでいるのだ。式を終えて、その坂道を下ってくると、その途中で各クラブの人達が勧誘を始めていた。私は、掴まってしまって・・卓球部だ。一生懸命、今は若い高校生なんかが台頭してきているからブームなんだよとか・・・説明を受けてしまっていると
「だめよ! その子はもう予約済みなんだから」と、大きな声がして・・そーいえば 聞き覚えがある。岸森璃々香。因縁の人だ。
「山城さん 待ってたよ 会えるの楽しみにしてた と いう訳で テニス部なんだからね」と、その卓球部の連中に手を振って、私をテニス部のエリァに連れて行って、メンバーに
「山城さんよ 1年じゃあ トップだと思う ねっ テニスやるでしょ?」
「あっ あのー 私 前の大会で負けてしまったしー トップなんかじゃぁないです」
「良いの! 伸びしろがあるんだから ねっ 入ってくれるでしょ 私 楽しみにしていたのよ! 直ぐに 高校総体の予選あるから これで、今年は団体戦もねらえるワ ダブルスだって」
「はぁー」
「明日 部室に来てネ 早速 練習よ 打倒 学館女子よ!」
お母さんも側に居て、唖然としていた。結局、他のみんなは傍らの机で入部届けを書いていたけど、私にはそんなものも無かったのだ。
だけど、私には、あの時の辛さを思い出していた。岸森璃々香の声を聞いて、こころの中では穏やかじゃぁ無かったのだ。いよいよ、明日から、私には別の戦いが始まるのだ。待ってろ 岸森璃々香 私は忘れていないんだからー あの辛さを いつかは、私の前で、お前に頭を下げさせて泣かしてやる。私は、その為にこの学校を選んだのだよ!
そんなことを決心しているとは知らないお母さんは
「良かったわねー あの人 知り合いなんでしょ? 知っている先輩が居てー 安心じゃぁない さぁー 帰って お祝いネ」と、気楽なもんだった。
その夜は、私の入学祝でと、ステーキ肉を私と桔梗にお母さんが焼いてくれていた。お父さんは、まだお店があるからと後で、ゆっくりと飲みながら食べるらしい。
だけど、私はお父さんが戻って来て、お風呂からあがるのを待っていて
「お父さん ウチ 朝はお店 続けるけど 試合が直ぐにあるっていうから・・そのー 土日とかも練習あって 夜も お店に出られへん えらそうなこと 言ってて ごめんなさい」
「うー なんの話だ? 山葵の兄弟子は健也だから 健也に謝れ ワシは知らんことだ 別にアテにもしておらん よく動いてくれているけどな」と、ビールを口に運んでいた。
「・・・すみません・・」と、お風呂に行こうとしたら
「山葵 府の代表になるんだろー? がんばれよ お前なら きっとなれるからな」と、後ろから声がした。
「ウン ヤル」と、言って、不器用なあの人にしては、珍しく・・・お風呂で少し泣けてきていた。
部室はコートの側にあるのだけど、シャワー室は体育館の横にあって、少し離れている。部室に入ると、真ん中の机に (新入部員は着替えてコートに集合。ロッカーはそれぞれの名前が貼ってあるところ) と、張り紙があった。
コートには、部員の人のグループと新入のグループとかなんとなく別れて集まっていて、新入が揃ったかと思ったら、部長らしき人から「集合」と、声がかかった。円陣になって、新入生だけが1列になって・・・6人だ。それぞれ自己紹介をして・・そのうち、中学からの経験者は3人。そして、3年生は2人、2年生は8人なのだ。部長は2年生の織部操という人。試合を何回か見たことがあった。
そして、未経験者の3人は部長がラケットの振り方を指導していて、コーチは部員相手に指導していて、そして、もう1面では、私等 経験者の3人に2年生になった岸森璃々香のサーブを返す練習をいきなり。順番に50球ずつということだった。私は3番目だったのだが、前の2人は最初から全く返せず、30回ほどの時、ようやく2回に1回なんとか返せているといった状態だった。それからは、緩い球でラリーをやっていると言う感じだった。芦原麗香と小野川美湖。大会の時、なんとなく見覚えがあるのだけど、そんなに上位まで残っていなかったと思う。私は、あんなサーブぐらい返せるわよと見ていたのだ。
私の番になって・・・えぇー 返せない 他の二人とちゃうやん! 早いし、たまにスピンかかって来るしーぃ それでも、喰らいついていったのだけど
「もたもたしないで、早く真ん中まで戻んなさい!」「腕だけで打ってるよ! もっと、腰まで身体全体でね!」「早く 動きなさいよー」と、1球ごとに厳しい声が飛んできていた。だって、中学の時と全然、球の速さが違うのだ。返せたと思ってもふらふらっと上がるだけ。「打つ瞬間から予測して動かなきゃーダメ!」
終わって、私 その場にへたり込んでしまったら
「今度は、山葵から打ち込んできなさい ラリーになってもいいからね」と・・・。なんでぇー 私だけ くそぉー と、私は立ち上がって、向かって行ったのだけど、簡単に厳しい球が返ってくるのだった。ラリーが続かない。後ろに下がると前に落とされて、前 に出るとバカにしたように後ろに・・・最後は前に出た時、顔面に直撃で受けてしまって。やっと、終わった時は、多分、私の顔は・・・。
「山葵 明日も同じメニューね」と、彼女は他の人とラリーを続けていた。それに加えて、新入部員はボール集めをしなさいと、容赦ない言葉が飛んできていた。
制服を持って、シャワーを終えた後、新入生の二人が寄って来て
「天神中の山城さんでしょ? 私 いつも 試合見ていました 3年最後の試合惜しかったですよねぇー」
「・・・そう? ウチ あん時のこと 忘れたいの」
「そーですか 惜しかったですもんね でも 初日なのに あの先輩 ひどいですよね 厳しすぎるワ 行長コーチだって隣のコートに居るのに知らんぷりで・・あの人 なんだか ぼーっとしていて・・」
「あっ 左目の上あたり 赤くなっているわよ 冷やしたほうが・・イジメみたい」と、二人は慰めるように言ってくれていたが、私は、 あの人、きっと私が憎いんだわ・・・あの時のことだって、きっと裏では・・・入学式の時は、親しそうな顔で近づいてきたくせに・・と思っていた。心の中では、きっと私をいじめて楽しんでいるだわ!
家に帰ると、お母さんが大騒ぎで冷やしてくれていた。
「ねぇ 病院行かないで大丈夫?」
「平気 おでこあたりだし 冷やしておけば・・」負けるもんかと、悔し涙と一緒に・・・
制服に着替えた後、お父さんと健也さんに見てもらうので、お店に
「どう 可愛い?」
「えぇ 素敵ですね 立派な女子高生です」と、健也さんは言ってくれたけど、お父さんは黙って見ただけだった。相変わらず、不愛想な父なのだ。
明るいめの紺色で襟がV型になっているワンピースでスカートのプリーツがやや長めになっていて脚が長く見えて、襟元は紺とえんじ色のリボンに短めのブレザー。私は、この制服も気に入っているのだ。今日はお母さんも薄いブルーの紋付着物姿で付き添ってくれていた。
学校は山の中腹にあって、坂道に沿って校舎が並んでいるのだ。式を終えて、その坂道を下ってくると、その途中で各クラブの人達が勧誘を始めていた。私は、掴まってしまって・・卓球部だ。一生懸命、今は若い高校生なんかが台頭してきているからブームなんだよとか・・・説明を受けてしまっていると
「だめよ! その子はもう予約済みなんだから」と、大きな声がして・・そーいえば 聞き覚えがある。岸森璃々香。因縁の人だ。
「山城さん 待ってたよ 会えるの楽しみにしてた と いう訳で テニス部なんだからね」と、その卓球部の連中に手を振って、私をテニス部のエリァに連れて行って、メンバーに
「山城さんよ 1年じゃあ トップだと思う ねっ テニスやるでしょ?」
「あっ あのー 私 前の大会で負けてしまったしー トップなんかじゃぁないです」
「良いの! 伸びしろがあるんだから ねっ 入ってくれるでしょ 私 楽しみにしていたのよ! 直ぐに 高校総体の予選あるから これで、今年は団体戦もねらえるワ ダブルスだって」
「はぁー」
「明日 部室に来てネ 早速 練習よ 打倒 学館女子よ!」
お母さんも側に居て、唖然としていた。結局、他のみんなは傍らの机で入部届けを書いていたけど、私にはそんなものも無かったのだ。
だけど、私には、あの時の辛さを思い出していた。岸森璃々香の声を聞いて、こころの中では穏やかじゃぁ無かったのだ。いよいよ、明日から、私には別の戦いが始まるのだ。待ってろ 岸森璃々香 私は忘れていないんだからー あの辛さを いつかは、私の前で、お前に頭を下げさせて泣かしてやる。私は、その為にこの学校を選んだのだよ!
そんなことを決心しているとは知らないお母さんは
「良かったわねー あの人 知り合いなんでしょ? 知っている先輩が居てー 安心じゃぁない さぁー 帰って お祝いネ」と、気楽なもんだった。
その夜は、私の入学祝でと、ステーキ肉を私と桔梗にお母さんが焼いてくれていた。お父さんは、まだお店があるからと後で、ゆっくりと飲みながら食べるらしい。
だけど、私はお父さんが戻って来て、お風呂からあがるのを待っていて
「お父さん ウチ 朝はお店 続けるけど 試合が直ぐにあるっていうから・・そのー 土日とかも練習あって 夜も お店に出られへん えらそうなこと 言ってて ごめんなさい」
「うー なんの話だ? 山葵の兄弟子は健也だから 健也に謝れ ワシは知らんことだ 別にアテにもしておらん よく動いてくれているけどな」と、ビールを口に運んでいた。
「・・・すみません・・」と、お風呂に行こうとしたら
「山葵 府の代表になるんだろー? がんばれよ お前なら きっとなれるからな」と、後ろから声がした。
「ウン ヤル」と、言って、不器用なあの人にしては、珍しく・・・お風呂で少し泣けてきていた。
部室はコートの側にあるのだけど、シャワー室は体育館の横にあって、少し離れている。部室に入ると、真ん中の机に (新入部員は着替えてコートに集合。ロッカーはそれぞれの名前が貼ってあるところ) と、張り紙があった。
コートには、部員の人のグループと新入のグループとかなんとなく別れて集まっていて、新入が揃ったかと思ったら、部長らしき人から「集合」と、声がかかった。円陣になって、新入生だけが1列になって・・・6人だ。それぞれ自己紹介をして・・そのうち、中学からの経験者は3人。そして、3年生は2人、2年生は8人なのだ。部長は2年生の織部操という人。試合を何回か見たことがあった。
そして、未経験者の3人は部長がラケットの振り方を指導していて、コーチは部員相手に指導していて、そして、もう1面では、私等 経験者の3人に2年生になった岸森璃々香のサーブを返す練習をいきなり。順番に50球ずつということだった。私は3番目だったのだが、前の2人は最初から全く返せず、30回ほどの時、ようやく2回に1回なんとか返せているといった状態だった。それからは、緩い球でラリーをやっていると言う感じだった。芦原麗香と小野川美湖。大会の時、なんとなく見覚えがあるのだけど、そんなに上位まで残っていなかったと思う。私は、あんなサーブぐらい返せるわよと見ていたのだ。
私の番になって・・・えぇー 返せない 他の二人とちゃうやん! 早いし、たまにスピンかかって来るしーぃ それでも、喰らいついていったのだけど
「もたもたしないで、早く真ん中まで戻んなさい!」「腕だけで打ってるよ! もっと、腰まで身体全体でね!」「早く 動きなさいよー」と、1球ごとに厳しい声が飛んできていた。だって、中学の時と全然、球の速さが違うのだ。返せたと思ってもふらふらっと上がるだけ。「打つ瞬間から予測して動かなきゃーダメ!」
終わって、私 その場にへたり込んでしまったら
「今度は、山葵から打ち込んできなさい ラリーになってもいいからね」と・・・。なんでぇー 私だけ くそぉー と、私は立ち上がって、向かって行ったのだけど、簡単に厳しい球が返ってくるのだった。ラリーが続かない。後ろに下がると前に落とされて、前 に出るとバカにしたように後ろに・・・最後は前に出た時、顔面に直撃で受けてしまって。やっと、終わった時は、多分、私の顔は・・・。
「山葵 明日も同じメニューね」と、彼女は他の人とラリーを続けていた。それに加えて、新入部員はボール集めをしなさいと、容赦ない言葉が飛んできていた。
制服を持って、シャワーを終えた後、新入生の二人が寄って来て
「天神中の山城さんでしょ? 私 いつも 試合見ていました 3年最後の試合惜しかったですよねぇー」
「・・・そう? ウチ あん時のこと 忘れたいの」
「そーですか 惜しかったですもんね でも 初日なのに あの先輩 ひどいですよね 厳しすぎるワ 行長コーチだって隣のコートに居るのに知らんぷりで・・あの人 なんだか ぼーっとしていて・・」
「あっ 左目の上あたり 赤くなっているわよ 冷やしたほうが・・イジメみたい」と、二人は慰めるように言ってくれていたが、私は、 あの人、きっと私が憎いんだわ・・・あの時のことだって、きっと裏では・・・入学式の時は、親しそうな顔で近づいてきたくせに・・と思っていた。心の中では、きっと私をいじめて楽しんでいるだわ!
家に帰ると、お母さんが大騒ぎで冷やしてくれていた。
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