私の辛かった思い あんたにぶつかっていくわ!

すんのはじめ

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第10章

10-10

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 今年もお店と仕出しは29日までで、30.31日はおせち料理の準備になっていた。30日の日は親方と健也さんと私とで仕込みと前段取りをしていて、31日はバイトの女の人が3人とお母さん、そして、桔梗も手伝いに入っていた。桔梗はこのところ文句も言わずに家の中のことも手伝うようになっていた。数は昨年と同じようで、午前中に50セツト、午後からお店での受け取りの人が50セット。

 今朝も早くて、3時からお店に入っていた。去年と同じように、親方は私に和え物を作るように命じて、その後は、牛肉の西京漬けを焼くようにと言ってきた。

「ねぇ 健也さん これって 和牛なの」と、5mm程度の厚さの肉を網に乗せて焼きながら聞いていると

「真庭牛のトモ三角だ」と、親方が答えていたので

「真庭牛って? 和牛?」と、私わからなかったのだ。

「真庭牛だ 年配になると 和牛はしつっこすぎるからな これは、味噌にも漬け込んであるから程良いんだ あんまり焼き過ぎるなよ 両面味噌が焦げたら、良いからな 置いておけば、中も火が通る」と、親方はぶすっとしたように言っていた。でも、最近は無視することなく、教えるように私に話してくれるのだ。

 そして、最後の人も引き取りに来て、すんなりと終わったのだけど、私には、気になったことがあった。お節の盛り付けの途中でも、健也さんとバイトの松任谷静香さんがなんとなく仲が良すぎるというか、息が会いすぎるというか。松任谷静香さんは、お母さんの代わりに週4日程夜に入ってくれている学志館大学の4回生で、ウチに来るようになって3年になる。だから、健也さんとも気ごころ知れているとは言え、私からすれば、仲が良すぎるのだ。

 今日も夕方4時頃すべて終了したのだけど、バイトの子はみんな帰っても、静香さんはそれから30分ほど残っていたし、帰る時も、健也さんに「じゃー 3日ネ」と、言っていたように聞こえていた。

 きっとデートの約束なのかと、考えすぎてしまって、その後も、表のしめ飾りとかを飾っている時も、気もそぞろだったのだ。静香さんは、上品だし誰に対しても笑顔で素敵な人なんだけども・・・それと、別に、健也さんが誰と付き合おうとも関係ないのだけど、私は、穏やかでなかった。それに、健也さんと幾つ離れていると思ってるのよー と。

 そして、打ち上げということで、健也さんもウチに来てお父さんとお酒を酌み交わしていた。いつものことなのだ。私達は適当にご飯を食べて、その後も私は気分的に面白く無かったのだが二人の突き出しを作ったりして、お付き合いをしていた。終わり近くになって、お父さんは私にお蕎麦の催促をしてきた。またかぁーと思いながら、お父さんの前に出すと、それを口にして、珍しいことに

「おぉ うまい」と、一言 そして「山葵 立派なもんだ 一人前だのぉー」と、よっぽど機嫌が良かったのかしら・・・

「そうですか 奥井さんとこの昆布でだしをとって 乗っているおぼろ昆布もそうですから そのせいじゃぁないですか!」と、私は洗い物をしながら答えていた。

「なんか ツンツンしとるなー さっきから・・」と、お父さんは健也さんの顔を見ながら呟くと

「そうですね いつもと雰囲気が・・・ あのー 親方がバイトの子達とか桔梗お嬢さんには お疲れありがとう とかおっしゃるのに・・・山葵には・・だからじゃぁないでしょうか?」

「それはだなー ・・・山葵もワシの気持ちはわかっちょるわい」

「いくら 親子でも 言葉にするとじゃぁ 違いますよー」

「・・・いまさら・・ 健也の弟子なんだぞー あぁ この頃、健也が叱らなくて、尻をペシッってやらないから すねてるんじゃぁないのか?」

 内緒話みたいに小声で話しているんだけど、私には聞こえていて

「ちょっとー お父さん 酔っぱらい! ウチはお尻叩かれて喜ぶような娘じゃぁありません! なんてこと言うの! 自分の娘を前にしてぇー」と、私は彼等の前のお酒なんかをかたずけ始めると、私の機嫌が多分悪いのを気にして、健也さんも居づらくなったのか

「じゃーぁ 親方 この辺で失礼します お疲れ様でした 山葵もお疲れ」

「ええ 健也も お正月 楽しんでね ウチみたいな子供とじゃぁなくって」

 私は、わざと呼び捨てにして、皮肉ったつもりだったんだけど、聞こえたのかどうか、そのまま黙って帰って行った。

 そして、変に不器用なお父さんにあきれて、今年も悶々としながら、お片付けを終えてから、お店の表でトレーニングをして、冷めたお風呂に入りながら、その年も暮れていったのだ。
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