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16話 魔王とヤキモチ

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 ところで、キノコが探してる人物はどんなヤツだと尋ねると。

 ふむふむ?

「笑うととても、可愛い女性で」

 うんうん。

「髪の毛が全体的にピンクがかっててオシャレで」

 ほほぉー。

「目がぱっちりと大きくて、一人称が自分の名前なんですよ。これがまたとっ……ても可愛いんです!」

 って、ん? んんんん?

「そんな彼女は、まだレベル1の駆け出しだけど、世界を導く神託の勇者なんです」

 はて? どこかで聞いたことがあるような者の感じがする。

 そう、私がよーく知ってる、愛するマイハニーにそっくりな気が……?
 まさか、ユーナって名前ではないよな?

「あ! そうそう、ユーナって名前の女の子です」

「えっ? あぁそう……は? マジで?」

「あれ? まさかヨーケスおにいさんが探してる人って、ユーナちゃんですか?」

「あ、あぁそうだ。私が探してるのはユーナ・ステラレコードだが……?」

 こいつ……何者だ……? 
 私のユーナを『ちゃん付け』するとはずいぶんと生意気なキノコじゃないか……! 

 私の心に、小さく憎悪の炎が灯る。

「なるほどぅ。ってことは、もしかしてヨーケスおにいさんも、勇者パーティーのメンバーとして選ばれたんですね? ですよね? ね?」

 キラキラさせた目を私に向け、キノコは言う。

「いや、私はな。えーっと……」

 勇者パーティメンバーを退職させるために来ました。
 そして私はユーナのかれぴっぴ、あるいはダーリンですけど、って答えていいのだろうか。

 そりゃあ、私の恋はまだ片想い。
 だけど、いつか絶対にユーナのそばにずっといるし? そう決めてるし。

 その上で、このキノコが私の恋路に厄介な存在になるのなら、このことを言っても問題ないだろう。

 ……でも、もし言ったとして。

 それはユーナを困らせることになりかねない。

 なぜならだ。

 彼女は私の愛するたった一人の女の子だが、しかし人族からしたら世界の希望、神託の勇者なんだ。

 私は魔王と勇者の恋愛はもちろん大歓迎だが……いまのとこユーナは違うみたいだし。

 いろいろな考えがぐるぐる脳内を駆け巡り、思考回路はショート寸前。

 私が返答に困っていると。

「あ、ごめんなさい。いきなりズカズカと聞いてしまって……ボクの悪いとこです。ヨーケスおにいさんが口に出せないってことは、何か事情があるんでしょう? 気にしないでくださいね」

「いや、口に出せないというか。おい、キノコ。教えてくれ、まさか貴様、神託の勇者ユーナの……?」

 頼む、やめてくれ。

 たぶんそうなんだろうけど、ほら。

 違うかもしれないし、一応聞いとかないと。

「はい、そうです! ボクは神託の勇者、ユーナちゃんの率いる勇者パーティー、後方支援担当の大魔法使いです!」

 夜空に輝く星のように、瞳をキラッキラとさせたキノコが私を見る。

 純粋さを感じさせる無邪気さを見せて、満面の笑顔で私に告げた。

 突きつけられた、超イヤな事実。

 ユーナのパーティーに、私以外の男。

 私のハートに、嫉妬の炎が燃えあがろうとしていた。
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