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40話 魔王はフラグブレイカー(ユーナ視点)
しおりを挟むヨーケスが魔王じゃなかったら。
つい口に出した、心の声。
でも……ここから先は、神託の勇者として絶対に言ってはいけないと思った。
それに、ほんとうはマッシュとシャンプルがケンカするのはどうでもよくて、自分の気持ちがモヤついてるのが気持ち悪かった。
……幼少期以来となるヨーケスとの再会。
種族の違いや身分をまったく気にせず、しょっちゅうあたしに逢いにくる彼に対して、どこか嬉しい気持ちになる自分。
それから……あたしは炎属性じゃないのに、ヨーケスを見ると顔が赤くなる。
お化粧でどうにかごまかしよるけど……。
「もしかして……ユーナ、ヨーケスのこと……?」
と、そのときだった。
ビコン! と魔導水晶板から音が鳴る。
「んん……? なんだろ、メッセージかな?」
腰に付けた小さいカバンから魔導水晶板を取り出すと、ヨーケスからDMが来ていた。
『ユーナ、大丈夫か? いろいろ大変かと思うが、何かあったら私に言ってくれ。必ず力になる』
そのメッセージを見た瞬間……あたしはようやく、気づいてしまった。
「ユーナ……ヨーケスのこと……半分は好き? なのかもしれん……」
ヨーケスから優しい言葉を貰って、嬉しいあたしがいる……遅まきだけど、わかっちゃった。
そう。小さいころから、いつだってヨーケスはあたしに優しかった。
悲しいとき、寂しいとき、辛そうにしているとき……ずっとあたしの側にいて気を遣ってくれていた。
……でも、彼は今……人族の敵対種の王。
たしかによく考えれば、シャンプルの言うとおりヨーケスと人族の誰かがくっつけば、平和的に戦争を終わらせられるかもしれない。
ならどうして、ユーナはヨーケスをフったんやろ?
なぜ、もっとあたしはヨーケスの話を真剣に聞いてあげんかったんやろ?
ほんとうに、あたしは勇者として彼と戦う必要があるんやろか……?
「どうしよるのがいいんやろ……」
頭の中がぐるぐる回る。
勇者として、魔王を好きになってもいいのかな?
シャンプルもマッシュも自分たちが人間だってことを気にしないで、ヨーケスのこと好いとるし……。
そんな想いの中でふと、あたしは気づく。
確かにここのところ、ヨーケスはマッシュやシャンプルとなぜか交流を持っている。
だけど、まだ数日程度で浅い関係。
一方で、あたしとヨーケスには小さいころからの繋がりがある。
積み上げた思い出がいっぱい、いっぱいある。
そうだよ、ふって湧いた大魔法使いや大聖女なんかに比べたら、あたしの方がヨーケスに思ってもらっているはず。
「ユーナがあいつと一緒になれば……世界も平和になりよるんちゃう……?」
ヨーケスがあたしにいつだか言ったセリフが頭に浮かぶ。
平和になる世界と、ヨーケスと暖かい関係になることを思い浮かべたら、心がどこかほっこりとしていく。
……そんな気持ちになっていた時だった。
魔導水晶板に通知音が鳴る。
〝ドヤッター〟にあたしがフォローしている人がコメントを上げたらしい。
魔王ヨーケスについて、毎回のようにドヤ呟く例のあの人。
【ノゾッキー・トサッツー@魔王軍四天王! 魔王様は順調に腐敗している】さんのコメントはこうだった。
【魔王様、四天王の裸にそんなに興味あります? ってゆーか、二人とも裸で何を不潔なことを……汚らわしいですわ、お腐れですわっ♡】
という文章の下、貼られた画像を見てあたしは言葉を失った。
……え? な、なにコレ……!?
それは金髪ロングのイケメンエルフが、ヨーケスの胸を触りつつ首筋にキスしよる危ない画像だった。
「男同士、すっ裸で何しよるんこの二人!? え、ヨ、ヨーケスやっぱこんな趣味やったん? めちゃ腐っとうやん!」
あたしは思った。
さっきまでのヨーケスへの淡い気持ち、なんやったんやろと。
そして。
「ったく、あんなやつにちょっとでもときめいたあたしがバカやった! 最悪!」
「……絶対に、ユーナが魔王ヨーケスを打ち倒すんだから!」
あたしは改めて、そう誓い直すのでした!
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