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61話 恋のライバルの予感!?
しおりを挟む「ユーナさーん! おぉーい!」
「なんだあの男は……?」
「ウ、ウホ……?」
はて、何者だ? と、私とエツィーが訝しそうにして首をかしげる。
そして私は、ユーナを見て気づいた。
ユーナも向こうの男に手を振り返していたのを。
……むむむ……ユーナの知り合いの男か……?
そして、泉に沿って颯爽と駆け足で近づいてきた男は、満面の笑みでこう言った。
「もう! 探したよユーナさん! オレを置いてクエスト攻略に出かけるなんて水くさいじゃないかっ!」
その言葉に、ユーナは少し困ったような引き気味の顔をしていた。
唖然としている私とエツィーを尻目に、近づいてきたこの男はいきなりユーナの両手を掴む。
私より少しだけ背が高く、茶色い髪をしたかなりの美青年だ。
真っ白なロングコートを羽織り、腰から黒い鞘に入った剣を下げている。
いずれにせよ。
もう少ししたらこいつはこの世界から消えてなくなるだろう。なんてったって私のユーナに馴れ馴れしく触れたのだからな……!
「ひ、久しぶり……だね」
「ユーナ、このナルシスト系のバカはどこのどちら様だ? おい、私のユーナに軽々しく触れるな。ぬっころすぞ」
「ちょ、ヨーケスあかんよ? えっと、この人はね……」
私がズイ! とナルシストの顔を下から見上げるようにして覗き込み、睨みつける。
するとだ。
このナルシストはユーナが紹介しようとした発言を遮り、あろうことか人差し指をユーナの唇に当てて、「ストップ……オレから言わせてもらおう」と言ったのだ。
はぁ? お前の息の根をストップさせてやろうか……?
私のユーナに軽々しく触れたばかりか、唇に指を当てやがった! 私だってそんなことしたことない!
男は私たちに身体を向けて、自己紹介を始める。
「初めましてユーナさんのパーティーの皆さん。オレはアイド。【アイド・ルハイユ】という。S級冒険者で、舞台俳優……そして、貴族の息子。三拍子揃いのキラメキ冒険者とはオレのことさ!」
爽やかに笑い、キラン! と光る真っ白な歯。
よく見ると白コートに真っ赤なバラを胸に挿していて、たしかにむさ苦しい冒険者よりこ綺麗ではある。
猛烈に自分を持ち上げた自己紹介をする青年、アイド。
一方でユーナ以下、私たちは完全に、
「お、おう……」
「あ、そうですか……」
「ふーん、そうですの……」
「ウホ……」
と引き気味だった。
「いやあ、探したよ! ギルドに行ったらユーナさんはもう『猛毒の泉トラッフグ』へと向かったって聞いて、いてもたってもいられなくて!」
そう言うと、アイドは私たちを尻目にしてユーナへ再び話しかける。そんなアイドに、シャンプルが恐る恐る声をかけた。
「あの……アイドさん」
「何だい? 美しいお嬢さん?」
「冒険者で舞台俳優って……本当なんですの?」
「えっ……! このオレを知らないのかい!? それは罪だよお嬢さん。これを機に教えてあげよう」
バッ……! コートを翻し、アイドが何かを取り出した。
こ、これは……?
表紙には魔性さを含ませた表情の美しい女性と、貴族の青年が二人並んでいる絵が描かれた、どうやら小説のようだった。
大きめの字で書かれているタイトルはこうだ。
【婚約破棄されまくりの高慢チキ令嬢は改心して没落スーパー貧乏貴族の青年を成り上げる! ~気がついたらわたくし王妃になってましたの~】
小説には帯が巻かれ、『舞台化決定! S級冒険者アイド・ルハイユ氏出演!』と書かれている。
「どうだい? オレは冒険者もやりながら俳優もやるんだ。すごいだろう? 今ならサインオーケーだよ!」
自分で凄いとか言って恥ずかしくないのだろうか? 私だって魔王やってるけど自分のことを褒めたりはしない。
しかし、そんな自己愛が強いアイドの言葉に、シャンプルは意外と素っ気なかった。
彼女は「なんだ、婚約破棄の悪役令嬢モノですの。わたくし興味ありませんわ」とツンとして言った。
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