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72話 集会だぜ!

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 あの後、会議室に来た【魔王軍爆走愚連隊】の者たちに、私は命令を下していた。

 そして今、私は魔王城の入り口、正門の前にいる。

 私の横には『特攻服』と呼ばれる衣装にピンクのエプロンを掛けて、頭にナプキンを巻いたノゾッキーが部下に指示を出していた。

 いつものスーツ姿はどこにもない。

 そんなノゾッキーが激を飛ばしているのは、かつて私が叩きのめした者たちだ。彼らは私の配下として、魔王軍に籍を置いていた。

 丈の長い衣装に派手な刺繍。そして背中に大きく施された【魔王軍爆走愚連隊】の文字。

 そして、横並びに整列する、異種族混合のメンバーたちのヘアスタイルはなぜか皆リーゼントだった。彼らのそばにはバイコーンがたたずんでいる。

 ところで、【バイコーン】とは頭に二本の角が生えた、黒色の勇ましい姿をしている馬だ。思わずうっとりとしてしまうフォルムで、威厳があってかっこいい。

 ……それなのに。

 魔王軍爆走愚連隊メンバーが駆るバイコーンは、個性あふれる装備が施されていて……正直恥ずかしいレベルだ。

 バイコーンの頭に、謎に兜をいくつも重ねた【ロケット兜】と呼ばれるものを被せたり、イミフにも三段になってる鞍とか、ムダに存在感のあるラッパを装着させたり……見た目は派手だがダサい、ダサすぎる……!

 バイコーンのカッコのよさを極限までダサくしてるのに、こいつらはそれを『超渋い!』『バチクソ気合い入ってる』なんて言い合っている。

 なんなの?
 普通に乗ればいいじゃん。

 バイコーンのカッコよさ台無しだよ。

 そう思いながらも──私たちはこれから【サンドリッチの街】へ向けて、出発するのだが。

 ノゾッキーが部下たちに激を飛ばしていた。
 
「てめぇらよく聞け! これから人間たちの街にカチコミに行く! 腹減らして今にも死にそーなってるヤツらに、てめぇら思う存分、料理の腕をふるえ!」

「「「押忍ッッ!」」」

「それとだ! そこに待ち受けてるのは凶悪なドラゴンと悪名高い人間の領主だ。だがしかしッ! セッシャたちにはこの魔王ヨーケス・ブーゲンビリア様がついているッ! ぶっ込んでくんで気合いヨロシクゥ!」

「「「ヨロシクゥッッ!」」」

「では魔王様もとい、魔王総長。皆に気合い入った言葉をお願いします。あとコレ着てください!」

 ノゾッキーが綺麗に折り畳んだ『特攻服』差し出しすと、私はイヤそうな顔をしてノゾッキーに言った。

「……どうしても着ないとダメか? 私この服、心の底からイヤなんだけど、ダサいんだけど」

「ダメです! ケジメですからさぁ着て下さい!」

 ノゾッキーが私に『特攻服』を押し付けてくる。折り畳みを開くと、背中に書かれた文字が目に入った。

 その文字はこうだ。

 弱きを助け、強きを挫く。
 正義一貫胸に秘め、幸せ届ける料理道。
 握った包丁一振りすれば、皆が喜ぶ絶品カレー。

 ………………。

 私がさらにイヤそうにしてノゾッキーを見ると、彼はコクコクとうなずき、早く着てくれと言っているようだった。

 仕方ない……私も魔王軍の頂点にして魔王。腹をくくろうじゃないか。これくらいで配下どものモチベーションが上がるなら……イヤだけど仕方ないか。

 私はバサァっとホワイトカラーの『特攻服』を羽織り、翻すと声を張り上げた。

「いいかお前たち! まずは神託の勇者、ユーナ・ステラレコードが到着する前にドラゴンを狩る! そしてドラゴンの肉で美味しいカレーを作り、貧困に喘ぐ飢えた者たちのお腹をいっぱいにしてやれ!」

「「「ウォオオオオオオッ!」」」

 私の愛と勇気と正義に満ち溢れた言葉に、魔王軍爆走愚連隊のメンバーたちは沸き立ち、猛る声を上げた。私は続けて言う。

「さらにはサンドリッチの街の悪徳領主である【アクーダ・イッカン】に、渾身の怒りを込めた我らの拳を振り下ろす!」

「「「ウォオオオオオッ! 魔王総長ばんざーい!」」」

「それでは一騎当千の全〝魔王軍爆走愚連隊〟へ、魔王ヨーケス・ブーゲンビリアが命じる! 目標、サンドリッチの街全域! 『美味しいドラゴンカレーをぶちかませ! ついでに悪徳領主を懲らしめろ大作戦』を開始せよ!」

 「「「ウォオオオオオオッ!」」」

 100はいるだろう魔王軍爆走愚連隊。特攻服とエプロンのミスマッチな男たちが熱狂的な大声を上げていた。

 
 ──かくして、私たちはバイコーンに跨がると、サンドリッチの街を目指して疾風のごとく疾走するのだった。
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