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84話 リタ
しおりを挟むリタはムシャムシャがつがつと私が作ったドラゴンカレーをかきこんでいた。
皿まで舐めてしまう姿は品のある食べ方ではないが、よほど腹を空かしていたのだろう。
仕方ないことだ。小さなパンが一週間の食事だなどと、この街の庶民の食料事情は破綻しているのだから。
「魔王様……この小娘めっちゃ食いますね……」
テーブルの上には綺麗にカレーを平らげた皿が数枚積まれていた。そしてリタは空になった皿をノゾッキーに差し出す。
「むぐむぐ、おいひい、おいひいれころカレー! もぐぁわり!」
ノゾッキーは「人族の娘ってすげぇ……」と呟いて炊飯鍋から皿にご飯をよそい、カレールーをかけると、リタの前に置く。
私はリタのぷっくりとふくらんだ頬を見ながら言った。
「リタ、たくさんあるから満足いくまで食べるがいい。遠慮はいらん、だがしっかりと噛んで食べるのだぞ」
するとだ。
突然リタの目から一粒、ふた粒と涙があふれ出した。ぽろぽろ、ぽろりと涙をこぼし泣き始めるリタを見て、私はノゾッキーの胸ぐらを掴んで言った。
「おいノゾッキー! お前まさかカレーに激辛スパイスを入れたのか!? リタが泣いてるではないか!」
「そ、そんな! セッシャはそんな嫌がらせなんてしませんよ!」
「じゃあなんでいきなりリタが泣く! お前はしょっちゅう私に嫌がらせする、嫌がらせの天才ではないかッ」
「え!? いや、その、あの! とととにかく魔王様、せ、セッシャに聞かれてもわかりません!」
「ふん……! まぁいい」
私は焦るノゾッキーから手を離し、リタの目の前に座る。
「リタ、さっきまでお前ニコニコとカレー食べてたじゃないか。どうして泣いているのか私に話してみろ」
「……ぐすっ、ぐす……えっと……」
私はハンカチを取り出して、リタの涙を拭いながら言った。目尻は赤く、充血していて潤んだ瞳を私に向けたリタは話しだす。
「ぐすっ……ひぐ……っ。あのね、おかあさんとおとうさんと一緒に食べたかったなぁ、って……」
「……そういうことか……そうだな、食卓は家族で囲みたいものだ。わかるぞリタ。では聞こう、お前の父と母は今はどこにいるのだ?」
「ご領主さまのところ……おかねがはらえないからそこで働かされてるの……もうしばらく会ってなくて……ぐす……」
彼女はうつむくと、ぎゅっと唇を噛む。
私はリタの涙を再び拭い、目を真っ直ぐに見る。
「もう泣くな。その涙はお前が父や母に会えた時までとっておけ。大丈夫だ、私がなんとかしてやる」
「え……?」
「私がこの街の悪党を一掃してやる。リタが笑って生きていける世界をくれてやろう」
「でも……そんなの無理だよ……、ご領主さまはつよい人をいっぱい召しかかえてるから……」
すると、ノゾッキーがリタの背後に立ち、彼女の頭にぽん、と手を置いた。
「ふん、小娘。お前さっき、この方がはるか格下の輩を完膚なきまでねじ伏せた、凶悪な魔王様っぷりを見てなかったのかぁ? 人族ごときに遅れは取らないから安心しろ」
「ノゾッキー、一言余計だ。ぬっころすぞ」
「えぇっ! そ、そんなぁ。セッシャ褒めたつもりなのに……ぐすん」
私が迫力を込めて睨むと、気圧されたノゾッキーはおずおずとして答える。私はさらに声を荒げて言った。
「お前は泣くな! うっとおしいなもう!」
私はリタへと顔を向き直し、ゴホンと咳払いを一つして話しかける。
「とにかくだ、リタ。お前の父も母も私が救い出してやる」
「……ほんとう?」
「私はウソはつかん。私を誰だと思っているのだ? 私は魔王軍の頂点にして魔王、ヨーケス・ブーゲンビリアだぞ? 悪党退治など朝飯前だ」
そう言うとリタは私をじっと見つめ、涙をためて吐き出すように言った。
「まおーさま……おねがいです、おとうさんとおかあさんを助けて……!」
懇願するリタを見て、私は過去を振り返る。
助ける、か……。
少年時代、私に力がなかったから母さんも父さんも、じーちゃんも死んだ。
誰かを救う力なんて持ち合わせていなかった。
だが今は違う……!
私は今や魔王軍の頂点にして魔王なのだ。
いいだろう、リタの願いを聞き入れてやる。
私がリタの頭をくしゃくしゃと撫でると、彼女の口から再び、先程聞いたセリフが飛び出した。
「……でも、どうして? どうして助けて……くれるの……?」
涙ぐむ彼女に私は微笑んで言った。
「私が魔王だからだ」
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