85 / 89
85話 サンドリッチの民
しおりを挟むリタにカレーを食べさせた私は次に、サンドリッチの街の民に予定通りドラゴンカレーを振る舞うことにする。
悪徳領主の成敗も大事だが、まずはこの私が人心を掌握することが肝心だ。
出来上がった宣伝用チラシを魔王軍爆走愚連隊とリタが街の者たちに配り始めてからしばらくして──
ドラゴンカレーを振る舞うべく、レストラン『ma・王様のレストラン』の外には椅子やテーブルがずらりと並んでいた。
もちろん店先だけでは街の者たちに振る舞うことは不可能。ゆえに街の広場や公園など人を多く集められる場所に出張カレー店を配置する。
そして、夕方に差し掛かる。
レストランの前には所せましと腹を減らした人間たちが集まっている。
大人も子供も老人も関係なく、配布されたチラシにより『ma・王様のレストランオープン記念として特別にカレーが街の者みんなに振る舞われる』と宣伝していたからだ。
店内キッチンと店前に用意したオープンキッチンでは魔王軍爆走愚連隊の調理メンバーが忙しなくカレーの準備をしている。
すでにいくつも鍋に火をかけていて、コトコトと煮込まれるドラゴンカレーのルーがほわほわと湯気を立てていた。
そして私は外の鍋にあるカレールーをかき回す担当だ。
ノゾッキーはテーブルに真っ白なテーブルクロスを掛けている。すると、集まった人だかりからザワザワと声がし始めていた。
「チラシの内容だとこの新しくできたレストランのカレーが無料で食べられるって話だったけど……ドラゴンの肉を使ってるのか……」
「というか、みんなどうして同じ服と髪型なのかしら?」
「そういえば鍋をかき回してるあの男、リタのパンを忌々しい兵士から取り返していたな」
「なんでもどこかの国の王様らしいんじゃがのう。門番たちが言うにはワシらを救いに来てくださったのじゃとか……」
「へぇ。どこの国の王様か知らないけど、しかし変わった服を着てるよなあ。特にあの刺繍、派手だけどなんかダサくないか?」
「特攻服っていうらしいぞ。東方の島国の不良たちが好んで着る戦闘服らしい」
「んじゃ何か!? 俺たちは不良の作るメシを食いに来たってのか!? このレストラン大丈夫なのかよ!」
くっ……! この私を不良扱いするとは! 人間とはまったくもって無礼なヤツもいるものだ。
しかし、勝手な野次を飛ばす声にたまらなくなったのは私ではなくノゾッキーだった。
「おうおうおうおう! てめぇら好き勝手言うけどなあ! この服はビッと気合いの入った者だけが着ることを許される戦闘服なんだ! あんま舐めたこと吐かしやがるとこのセッシャが──」
ノゾッキーは特攻服の袖をたくし上げ、拳を振り上げ声を荒げて言う。その言葉を遮るように、私はノゾッキーの肩にポン、と手を置いた。
「好きなように言わせておけ」
「し、しかし魔王様……ッ!」
「忘れるな。こいつらに恐怖を与えるために私たちは来たのではない。いちいち腹を立てるな」
「押忍……」
しかし、しばらくしても人間たちは遠巻きに見ているだけで、誰一人テーブルに着かない。
訝しげな表情を浮かべながらヒソヒソと話したり、文句を言ったりしているだけだ。
私はルーの入った大鍋を見つめながら思う。
サンドリッチの住民の行く末を憂い、ユーナがこの街へ向かっている。
そのユーナが街に来た時、私のドラゴンカレー大作戦によって皆が笑顔になったなら彼女もきっと喜んでくれるはずだ。
なんなら『ヨーケスあんたほんまいいヤツやね! ユーナ大好き! 付き合って!』と、私へ愛の告白が向けられるかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる