白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた！！

プロローグ

寒い……。 痛いほどの寒さが、意識の表面を撫でる。

（……ここは……どこだ？）

最後に感じたのは、耳をつんざくブレーキ音と、ライトの眩しさ。 そして、腕の中に抱いた、小さく白い生き物の感触だった。

（……やわらかい……）

そうだ。僕は、あの至高の毛並みを守ろうとして……。 そこで薄れていく意識が完全に途絶えてしまった……。

　　　◇

次に意識が戻ったときにまず感じたのは湿った土の匂いと、草木の匂いだ。 馴染みのあるアスファルトの匂いなんかじゃない。 そして体を動かそうとするとなぜか身体が鉛のように重い。

目を開けようとするが、まぶたがうまく動かない。 声を出そうとするが、喉が震えるだけで、意味のある音にならなかった。

なにより手足の感覚がおかしい……。 自分の身体が自分の物でないような、ひどい違和感がある…。過労で倒れてしまったのだろうか？

（とにかく無性にモフりたい……）

本能が、あの「手触り」を求めて叫んでいる。 ブラック企業で疲弊しきった魂が、唯一求めていた、あの感触。

（白い……） （ふわふわの……） （……もふもふ……！）

今すぐあの柔らかさに埋もれたい。 あの毛並みに顔をうずめて、窒息するほどの深呼吸をしたい。

その強烈な渇望だけが、はっきりとしない意識の中で、唯一の「願望」だった。 その願望に引っぱられるように、鉛のように重たかった身体が、ピクリと動き始めた。

――そして、そこにいた【白銀の獣】は、ゆっくりと目を開いた。