白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき

文字の大きさ
2 / 5

【第1話】夕暮れの交差点で

しおりを挟む
社会人になって二年。 僕――白瀬 陸空(しらせ りくう)は、都内のIT企業で働く、ごくごく平凡な営業マン。

……と言いたいが、実際は残業100時間超えが常態化した、ただ消耗するだけの社畜営業マンだ。

「やる気が足りねえんだよ」

それが上司の口癖。定時で悠々と帰る上司の背中を見送り、僕は青白い蛍光灯の下で日付が変わるまでキーボードをひたすら叩き続ける。

休日だろうが容赦なく鳴り響く社内チャットの通知音。 あの無機質な電子音を聞いただけで、心臓が冷たい手で握り潰されるようになり、激しい動悸がする。 とうの昔に僕の心はすり減って、ボロボロだった。

そんな地獄のような日々の中で、僕がまだかろうじて「僕」でいられる理由があった。

入社二年目に入り、雀の涙ほどしかなかった給料にも、ほんの少しだけ余裕ができた。 その余裕のすべてを注ぎ込む、唯一の楽しみ。

毎週日曜にあるサモエド専門カフェ。

店の看板犬である「凛」に会うためだけに、僕は過酷な一週間を生きていると言っても過言じゃない。 真っ白で、ふわふわで、指が沈み込むあの柔らかな感触。 触れた瞬間に、モノクロだった世界の彩度が上がるような、圧倒的な癒し。

凛の首元に顔をうずめながら、僕はいつも心の底から思う。

「やっぱりもふもふって、正義だよなぁ……」

頭にこびりつく理不尽な上司の暴言も、幻聴までしてくるチャットの通知音も、あの純白の毛並みの前ではすべてがどうでもよくなる。 きっとこれは、現実逃避なんだろう。 けれど、今の僕にとって“もふもふ”は、すり減りきった心を回復させてくれる何よりも必要な存在だった。

……ああ、できることならずっと、永遠にもふもふな凛たちに囲まれて生きていたい。

   ◇

その日は、まさに奇跡的に早く仕事が終わった。 こんなに早く終わったのは入社してから初めてだ。 空は程よくオレンジ色に染まり、ビルの隙間を抜ける風が肌に心地よい。

(こんな日に凛に会えたら最高だなぁ)

足取りも軽く、このままいつものサモエドカフェに行こうかと考えながら歩いていた。

ふと、交差点の向こう側。 視界の端に、白い何かが映った。

小さな子犬。真っ白な毛並み。 ……まるで、凛の小さい頃みたいだ。

信号が変わる、その瞬間。 その子犬が、ふらりと車道へ踏み出した。

考えるより先に身体が動いていた。 持っていた荷物を投げ捨て全力で駆けつけその子犬を、腕の中に抱きしめる。

次の瞬間、耳をつんざくようなブレーキ音。 世界を真っ白く塗りつぶす、ヘッドライトの光。

(……ああ、やっぱり……)

腕の中の温もりと、柔らかい毛の感触を感じながら、僕は薄れてゆく意識の中で思った。

(白いもふもふって、最高だな……)

視界が、真っ白に染まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【短編】子猫をもふもふしませんか?〜転生したら、子猫でした。私が国を救う!

碧井 汐桜香
ファンタジー
子猫の私は、おかあさんと兄弟たちと“かいぬし”に怯えながら、過ごしている。ところが、「柄が悪い」という理由で捨てられ、絶体絶命の大ピンチ。そんなときに、陛下と呼ばれる人間たちに助けられた。連れていかれた先は、王城だった!? 「伝わって! よく見てこれ! 後ろから攻められたら終わるでしょ!?」前世の知識を使って、私は国を救う。 そんなとき、“かいぬし”が猫グッズを売りにきた。絶対に許さないにゃ! 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...