白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき

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1章

【第13話】勘違いストーキングと、狂信者の爆誕

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 至福のバーベキュータイムは、あっという間に過ぎ去った。

 僕の目の前には、綺麗に肉を削ぎ落とされた三体分のオークの骨が山積みになっている。

 「ワフゥ……」《ふぅ、食った食った》

 完食した僕は満足げにモフモフのお腹をさすりながら、大きく伸びをした。

 転生してから初めて、まともな食事にありつけたのだ。

 生肉しか食べていなかった僕にとって、彼らの調理したステーキは、前世で食べたどんな物よりも美味しくて感動的だった。

 特に、あの食欲をそそる香草が気に入った。あれは、なんて名前の香草なのだろう?

 食後の余韻に浸っている間に、冒険者たちはまるで神事の後片付けでもするように、迅速かつ粛々と撤収作業を進めていた。

 焚き火の跡を綺麗に消して、辺りの匂いを消すために何かの粉を振りまき、細心の注意を払って片付けているのが伝わってくる。

 「……あ、あの、神獣様……?」

 作業を終えたリーダーのアルヴィンが、意を決したようにおずおずと僕に声をかけてきた。

 彼の後ろでは、他のメンバーがいそいそと荷物を背負い、もう移動の準備を完了している。

 「我々は、そろそろ……その、お暇してもよろしいでしょうか……?」

 アルヴィンが震えた声で問いかける。

 「これ以上、神獣様の貴重なお時間を煩わせるわけには参りませんので……。我々のような下等な者が長居しては、この場の空気が汚れてしまいますし……!」

 ミナも続けざまに言葉を放った。

 彼女は「一刻も早くこのプレッシャーから解放されたい」と必死だった。

 (ん? もう帰るのか?)

 僕は首を傾げた。

 せっかく仲良くなれた気がするのに、もうお別れかぁ。ちょっと寂しい気もする。

 でも、彼らにも冒険者としての都合があるだろう。これ以上引き止めるのも申し訳ない。

 「ワフッ!」《分かった、今日はありがとう! ごちそうさま!》

 僕が明るく一声吠えると、彼らの顔が一斉に輝いた。

 まるで死刑台から生還した囚人みたいな、劇的な安堵の表情をしていた。

 「あ、ありがとうございます! 慈悲深き神獣様に感謝を!」

 「助かった……! マジで助かった……!」

 「生きて帰れるぞォォォ!」

 彼らは額が地面につくほど深々とお辞儀をすると、凄まじいスピードでその場から去っていった。

 (いい人たちだったな)

 (今度会えたら、またお肉を焼いてくれるかな♪)

 そう思いながら毛づくろいでもしようかと思った、その時。

 (……あっ、そうだった!)

 「肉を焼いてもらうこと」で満足していたが、もう一つ大事なことを忘れていた。

 (現地ガイドの確保、もふもふ情報の収集をしなければならなかったのに、完全に忘れてた!!)

 (このままじゃ、また「もふもふ難民」に逆戻りだ!)

 お肉のあまりの美味しさに感動して、完全に忘れてしまっていた。

 この世界に来てまだ日が浅い僕は、どこにどんな「もふもふの生物」が生息しているのか、森の外はどうなっているのか、全く把握していないのだ。

 この広大な森を闇雲に歩き回るのは効率が悪いから、彼ら冒険者に頼ろうと思っていたのに、完全に忘れていた。

 それに……このまま彼らと別れたら、次にいつ人間に出会えるかも分からない。

 何より、また一人ぼっちになってしまう……。

 (マズい)

 僕は慌てて立ち上がった。彼らはもうだいぶ先まで進んでいる。

 (待って! まだお願いがあるんだっっ!)

 僕は彼らを逃すまいと、慌ててその後を追いかけた。

 (待ってぇぇぇ!!)

    ◇

 一方、死地を脱したAランクパーティー『銀翼』の面々は、森の小道を全速力で進んでいた。

 「ハァ、ハァ……マジで死ぬかと思ったぜ……」

 盾役の巨漢ガルドが、肩で息をしながら呟く。

 「俺の大盾なんて、あの御方の前じゃ紙切れ同然だっただろうな。食われなくて本当によかった」

 「全くだ。よく耐えたな、俺たち。あの伝説のフェンリル相手に、五体満足で生還なんて奇跡だぞ。ギルドの連中に話しても信じてもらえんだろう」

 リーダーのアルヴィンも、未だに震えが止まらない手で剣の柄を握りしめている。

 胃がキリキリと痛むのを感じながら、生の実感を噛み締めていた。

 木の陰を縫うように歩くダークエルフのシオンは、悔しそうに唇を噛んだ。

 「クソッ、俺の【影魔法】が全く通用しなかったのがショックだぜ……。子供扱いされたのも腹立つが、あの圧倒的な格の違いを見せつけられちゃ、何も言えねぇ……。ちくしょう、次は絶対ビビらねぇぞ」

 魔法使いのミナは、自分の両手をじっと見つめていた。

 「……でも、怖かったけど……あの感触、凄かったわ」

 彼女は夢見心地で呟く。

 「あんなに柔らかくて、温かくて、神々しい毛並み……。命懸けだったけど、一生の思い出になったかも……」

 そして、一人だけテンションが完全に違うのが、エルフのセレンだった。

 彼女は杖を抱きしめながら、恍惚とした表情で天を仰ぎつつ歩いている。

 「ああ、素晴らしい体験でした……! 精霊たちよ、感謝します!」

 「セレンさん、声がデカいって。魔物が寄ってくるだろ!」

 「構いませんわ! 今の私には神獣様の御加護がありますもの! 神獣様は、きっと私の料理を『最高』と仰っていたのよ……! あんなに素晴らしい遠吠えをしてくださっていたのだから!」

 「お前、いつの間に『犬語』が分かるようになったんだよ……。完全に目がイッちまってるな」

 アルヴィンが呆れたようにツッコミを入れるが、彼女の耳には届いていない。

 彼らの間には、極度の緊張感から解放された安堵の空気が流れていた。

 「とにかく、早く街に戻ってギルドマスターに報告だ。この森の浅層にフェンリルが現れたなんて、国中が大騒ぎになる緊急事態だ」

 「そうだな。今回の依頼料、特別ボーナスを弾んでもらわねぇと割に合わねぇ」

 彼らは少しだけ緊張を解き、街の灯りが見えるであろう方向へと足を速めた。

 森の出口まではあと少し。もう大丈夫だ。助かったんだ。

 ――誰もが、そう確信していた。

 その時だった。

 ズシン、ズシン……。

 背後から、微かだが確かに地面を揺らす、重量感のある足音が聞こえてきた。

 さらに、先ほどまで感じていた肌を刺すような圧倒的な魔力のプレッシャーが、再び背中にのしかかってくる。

 「……え?」

 「嘘、でしょ……?」

 「おい、まさか……な?」

 全員が凍りついたように、その場で足を止めた。心臓の音が嫌なリズムで跳ね上がる。

 そして恐る恐る、後ろを振り返る。

 そこには――

 「ワフ~ン」《ねぇねぇ、ちょっと待ってよ~》

 月明かりの下、満面の笑み“に見える”余裕を浮かべ、尻尾をブンブンと嬉しそうに振りながら、彼らの後をトコトコとついてくる白銀の神獣の姿があった。

 「「「ひぃぃぃぃぃッ!!??」」」

 アルヴィン、ガルド、ミナの三人が、揃って悲鳴を上げた。

 シオンに至っては、再び腰を抜かして影の中から転がり出てきた。

 「な、なんでついてくるんだァァァ!?」

 「許してくれたんじゃなかったのかよォォォ!?」

 「肉が足りなかったの!? 今度は私たちを食べる気なの!?」

 彼らの悲痛な叫びが、夜の森に響き渡る。

 その中で、セレンだけは違った。

 彼女は感極まってその場にひれ伏し、再会の感動に打ち震えていた。

 「ああ……! なんという事! 神獣様は、我々を見放してはいなかったのです!」

 「見放してくれよ! 頼むから!」

 アルヴィンが泣きそうな顔で叫ぶ。

 「違いますわアルヴィン! これは、我々を導いてくださっているのです! 神獣様の偉大な旅路のお供として、私たちを選んでくださったのよ! ああ、生涯をかけてお供いたします……!」

 「導くってどこにだよ!? あの世にか!? そんなの謹んで辞退するわ!!」

 狂信者のポジティブすぎる解釈に、他のメンバーはツッコミを入れながらも、迫りくる恐怖に足がすくんで動けない。

 一方、そんな彼らの大騒ぎをよそに――

 (あれ? みんな何でそんなに慌ててるの?)

 僕は不思議に思い、首を傾げていた。

 ただ「街まで案内してほしい(あと、もふもふ情報も詳しく聞かせて)」と頼みたいだけなのに。

 そうか、僕が追いかけてきたのが嬉しくて、感動のあまり叫んでいるのか!

 セレンの反応を見て、僕はそう解釈した。

 (まあいいや)

 (とりあえず、彼らについていけば人里には着くだろう)

 僕は彼らの反応を「好意」からくるものだと都合よく解釈し、気楽な足取りでその後を追い続けた。

 こうしてAランク冒険者たちは、最強の神獣フェンリルの「加護」――もとい【ストーキング】――によって、さらなる混乱と絶望の淵へと叩き落とされていくのだった。
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