16 / 25
1章
【第14話】街、騒乱、そして神獣の「お座り」
しおりを挟む
「はぁ、はぁ……も、もうダメだ……足が動かねぇ……」
森を抜けた先に広がる平原。その向こうに、城壁に囲まれた街が見えてきた。
だが、Aランク冒険者パーティー『銀翼』の面々に安堵の表情はない。疲労と恐怖で限界を迎えていた。
「な、なんでまだついてくるのよぉぉぉ!」
ミナが泣き叫ぶ。
彼らの背後、わずか数十メートルの距離を、【白銀の巨大な影】が悠々とついてきている。
「ワフッ♪」《もうすぐ街かな?》
その影は、彼らが道案内してくれていると信じて疑わず、上機嫌で尻尾を振っていた。
月明かりに照らされたその姿は神々しく、同時に、この世の終わりを予感させるほどの圧倒的な存在感を放っていた。
「くそっ、このまま入ったら街は大パニックだぞ!」
リーダーのアルヴィンが焦燥の声を上げる。
「門番たちに攻撃させるな! 刺激したら街が消し飛ばされるぞ!!」
彼らは叫びながら必死に駆け抜けるが、後ろの影との距離は一向に変わらない。
その影は彼らのペースに合わせて、のんびり歩調を合わせて歩いていた。
そして、ついに街の正門が見えてきた。
「と、止まれ! 何者だ! この夜更けに……ひっ!?」
松明を手にした門番が、彼らの後ろに存在する【白銀の巨大な影】を見て言葉を失った。
冒険者たちの背後にそびえ立つ、白銀で巨大な獣。その蒼い双眸が、暗闇の中で爛々と輝いていた。
「フェ……フェンリルだァァァァ!!??」
【フェンリル】が出現したという門番の絶叫が、静まり返った夜の街中に響き渡った。
「て、敵襲! いや、災害級魔物の襲来だ! 総員、配置につけェ!!」
「鐘を鳴らせ! 冒険者ギルドに緊急招集をかけろ!!」
城壁の上は瞬く間に大騒ぎとなった。警鐘が乱打され、武装した兵士たちが次々と駆けつけてくる。
門の前では、騒ぎを聞きつけた他の冒険者パーティーや商人たちがパニックに陥り、我先にと街の中へ逃げ込もうとしていた。
「おい、『銀翼』! お前ら何てものを引き連れてきたんだっ!!」
顔見知りの冒険者が、血相を変えてアルヴィンたちに詰め寄る。
「連れてきたんじゃねぇ! 勝手についてきたんだよ!」
ガルドが悲痛な叫びを返す。
そんな大混乱の中、渦中のフェンリルはきょとんとしていた。
(えっ、なにこれ? お祭り?)
鐘の音に、人々の叫び声、松明の灯り。
それらがすべて、自分を歓迎する賑やかなイベントなのだと思った。
歓迎されたことに嬉しくなって、尻尾をさらに大きく振る。
その風圧だけで、近くの荷馬車がひっくり返りそうになる。
「ひぃぃッ! 攻撃態勢に入ったぞ!」
「撃て! 矢を放てェェェ!」
「やつを街に入れるな!!」
城壁の上から、無数の矢がフェンリルに向けて放たれた。
しかしそれらの矢は、彼の尻尾が起こす風に流され、明後日の方向へ飛んでいった。
「……だ、だめだ。風に流される……」
「魔法部隊は何をしている! 最大火力で奴に攻撃しろ!!」
今度は数十人の魔導師による火球や雷撃の雨が降り注ぐ。
ドォォォン! バリバリバリ!
派手な爆発音と閃光が周囲を包んだ。
さすがにこれだけの魔法をぶつければ、フェンリルといえど耐えられないだろう――そう思われた。
しかし――
煙が晴れたその場にいたのは、傷一つなく、
「綺麗な花火だったなぁ」とでも言いたげにこちらを見ているフェンリルの姿があった。
激しく閃く魔法が飛んできた瞬間。
フェンリルはそれを「歓迎の演出」だと思い、嬉しくて――思わず、ふっと息を漏らしてしまった。
その吐息は、本人の意思とは関係なく【氷結の息吹】となっていた。
冷気に触れた火球はパチパチと弾け、雷は光の粒子となって散っていく。
そう……まるで【花火】のように。
その【花火】のあまりの美しさに、フェンリルは完全に勘違いした。
(すごい……歓迎されてる……!)
本人は気づいていない。
それが自分を撃ち落とすための魔法だったことなど。
「ば、馬鹿な……国軍の精鋭魔法部隊の総攻撃だぞ……?」
「くそっ、やはり伝説の魔物には人間の力など通じないのか……!」
誰もが絶望し、死を覚悟した、その時。
「お待ちなさい! この方に向かってなんという事をしているのですか! この無礼者共!」
フェンリルの前に、一人のエルフが飛び出した。
そのエルフは『銀翼』のヒーラー、セレンだった。
彼女は両手を大きく広げ、フェンリルをかばうように兵士たちの前へ立ちはだかった。
「どけ、エルフの女! 貴様、魔物に魅了されたのか!?」
兵士長の怒号が響く。
「違います! この方は魔物などではありません! 我々を導いてくださる慈悲深き神獣様なのです!」
セレンは一歩も引かず、狂信的な瞳で兵士長に訴えた。
「私が証明してみせます! 神獣様、どうか彼らの無礼をお許しください。
そして、その尊き御姿を心ゆくまで我々にお見せくださいませ!」
セレンはそう言うと、フェンリルに向かって深々と頭をたれ、膝をついた。
(ん? もっと近くで見たいってこと?)
フェンリルは彼女の行動を、「もっとモフモフを間近で見せてほしい」というリクエストだと捉えた。
ここまでされて、応えないわけにはいかない。
「ワフッ!」《いいよ、存分に味わうといい!》
フェンリルは嬉しそうに一声吠えると、その場にドスンとお座りをした。
そして、胸のモフモフをアピールするように胸を張り、得意げに「どう? 最高でしょ?」というポーズをとる。
「「「……え?」」」
兵士も冒険者たちも、その場にいた全員が、その光景を見て呆然とした。
伝説の災害級の魔物が、街の目の前で、まるで躾の行き届いた犬のように「お座り」をしたのだ。
静まり返る一同。
その中で、セレンだけが感涙にむせび泣いていた。
「ああ……! なんて愛らしく美しい……! これぞ神の威光よ……!」
こうして街を襲った未曾有の大事件は、フェンリルの「お座り」によって、一旦落ち着いたのであった。
森を抜けた先に広がる平原。その向こうに、城壁に囲まれた街が見えてきた。
だが、Aランク冒険者パーティー『銀翼』の面々に安堵の表情はない。疲労と恐怖で限界を迎えていた。
「な、なんでまだついてくるのよぉぉぉ!」
ミナが泣き叫ぶ。
彼らの背後、わずか数十メートルの距離を、【白銀の巨大な影】が悠々とついてきている。
「ワフッ♪」《もうすぐ街かな?》
その影は、彼らが道案内してくれていると信じて疑わず、上機嫌で尻尾を振っていた。
月明かりに照らされたその姿は神々しく、同時に、この世の終わりを予感させるほどの圧倒的な存在感を放っていた。
「くそっ、このまま入ったら街は大パニックだぞ!」
リーダーのアルヴィンが焦燥の声を上げる。
「門番たちに攻撃させるな! 刺激したら街が消し飛ばされるぞ!!」
彼らは叫びながら必死に駆け抜けるが、後ろの影との距離は一向に変わらない。
その影は彼らのペースに合わせて、のんびり歩調を合わせて歩いていた。
そして、ついに街の正門が見えてきた。
「と、止まれ! 何者だ! この夜更けに……ひっ!?」
松明を手にした門番が、彼らの後ろに存在する【白銀の巨大な影】を見て言葉を失った。
冒険者たちの背後にそびえ立つ、白銀で巨大な獣。その蒼い双眸が、暗闇の中で爛々と輝いていた。
「フェ……フェンリルだァァァァ!!??」
【フェンリル】が出現したという門番の絶叫が、静まり返った夜の街中に響き渡った。
「て、敵襲! いや、災害級魔物の襲来だ! 総員、配置につけェ!!」
「鐘を鳴らせ! 冒険者ギルドに緊急招集をかけろ!!」
城壁の上は瞬く間に大騒ぎとなった。警鐘が乱打され、武装した兵士たちが次々と駆けつけてくる。
門の前では、騒ぎを聞きつけた他の冒険者パーティーや商人たちがパニックに陥り、我先にと街の中へ逃げ込もうとしていた。
「おい、『銀翼』! お前ら何てものを引き連れてきたんだっ!!」
顔見知りの冒険者が、血相を変えてアルヴィンたちに詰め寄る。
「連れてきたんじゃねぇ! 勝手についてきたんだよ!」
ガルドが悲痛な叫びを返す。
そんな大混乱の中、渦中のフェンリルはきょとんとしていた。
(えっ、なにこれ? お祭り?)
鐘の音に、人々の叫び声、松明の灯り。
それらがすべて、自分を歓迎する賑やかなイベントなのだと思った。
歓迎されたことに嬉しくなって、尻尾をさらに大きく振る。
その風圧だけで、近くの荷馬車がひっくり返りそうになる。
「ひぃぃッ! 攻撃態勢に入ったぞ!」
「撃て! 矢を放てェェェ!」
「やつを街に入れるな!!」
城壁の上から、無数の矢がフェンリルに向けて放たれた。
しかしそれらの矢は、彼の尻尾が起こす風に流され、明後日の方向へ飛んでいった。
「……だ、だめだ。風に流される……」
「魔法部隊は何をしている! 最大火力で奴に攻撃しろ!!」
今度は数十人の魔導師による火球や雷撃の雨が降り注ぐ。
ドォォォン! バリバリバリ!
派手な爆発音と閃光が周囲を包んだ。
さすがにこれだけの魔法をぶつければ、フェンリルといえど耐えられないだろう――そう思われた。
しかし――
煙が晴れたその場にいたのは、傷一つなく、
「綺麗な花火だったなぁ」とでも言いたげにこちらを見ているフェンリルの姿があった。
激しく閃く魔法が飛んできた瞬間。
フェンリルはそれを「歓迎の演出」だと思い、嬉しくて――思わず、ふっと息を漏らしてしまった。
その吐息は、本人の意思とは関係なく【氷結の息吹】となっていた。
冷気に触れた火球はパチパチと弾け、雷は光の粒子となって散っていく。
そう……まるで【花火】のように。
その【花火】のあまりの美しさに、フェンリルは完全に勘違いした。
(すごい……歓迎されてる……!)
本人は気づいていない。
それが自分を撃ち落とすための魔法だったことなど。
「ば、馬鹿な……国軍の精鋭魔法部隊の総攻撃だぞ……?」
「くそっ、やはり伝説の魔物には人間の力など通じないのか……!」
誰もが絶望し、死を覚悟した、その時。
「お待ちなさい! この方に向かってなんという事をしているのですか! この無礼者共!」
フェンリルの前に、一人のエルフが飛び出した。
そのエルフは『銀翼』のヒーラー、セレンだった。
彼女は両手を大きく広げ、フェンリルをかばうように兵士たちの前へ立ちはだかった。
「どけ、エルフの女! 貴様、魔物に魅了されたのか!?」
兵士長の怒号が響く。
「違います! この方は魔物などではありません! 我々を導いてくださる慈悲深き神獣様なのです!」
セレンは一歩も引かず、狂信的な瞳で兵士長に訴えた。
「私が証明してみせます! 神獣様、どうか彼らの無礼をお許しください。
そして、その尊き御姿を心ゆくまで我々にお見せくださいませ!」
セレンはそう言うと、フェンリルに向かって深々と頭をたれ、膝をついた。
(ん? もっと近くで見たいってこと?)
フェンリルは彼女の行動を、「もっとモフモフを間近で見せてほしい」というリクエストだと捉えた。
ここまでされて、応えないわけにはいかない。
「ワフッ!」《いいよ、存分に味わうといい!》
フェンリルは嬉しそうに一声吠えると、その場にドスンとお座りをした。
そして、胸のモフモフをアピールするように胸を張り、得意げに「どう? 最高でしょ?」というポーズをとる。
「「「……え?」」」
兵士も冒険者たちも、その場にいた全員が、その光景を見て呆然とした。
伝説の災害級の魔物が、街の目の前で、まるで躾の行き届いた犬のように「お座り」をしたのだ。
静まり返る一同。
その中で、セレンだけが感涙にむせび泣いていた。
「ああ……! なんて愛らしく美しい……! これぞ神の威光よ……!」
こうして街を襲った未曾有の大事件は、フェンリルの「お座り」によって、一旦落ち着いたのであった。
233
あなたにおすすめの小説
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる