血の繋がりのない極道に囲まれた宝

安達

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調教される日々

龍之介の言葉

「まぁ逃げ出したらの話だからそんな事しなきゃ何もしねぇから安心しろ。」

「……うん。」




庵がそう返事をすると何故か龍之介は少し驚いたような表情をした。その表情の意味が庵には分からなかった。だけどなぜかこの時庵は龍之介への恐怖心が少し消えた気がした。あれだけ怖かったのに。それはただ気のせいかもしれないけれど。



「喋れるようになってきたじゃねぇか。可愛い奴だ。さっきはあんなにビクビクしてたのにな。」




龍之介はそういい庵の頭を優しく何度も何度も撫でた。そしてあることを思い出したように喋り始める。




「そういや庵。俺の名前知ってるか?」
 



また何かされると思っていた庵は突然尋ねられた龍之介の質問に目を丸くした。名前…?名前…。名前…。そういえば知らない。だって名乗られてない。あの二人だってこの男のことを若と呼んでいる。それに知りたくもなかったし知ろうともしなかった。だから庵が知るはずもない。




「…しらない。」

「つかお前敬語とか使えねぇのかよ。まぁいいけどよ。」




下を向いたままそう小さな声でそう言った庵に龍之介は少し笑いながらそう言った。庵にとっては龍之介の笑みは少し怖い。だから庵は龍之介の笑みを見るやいなや再び顔を下に向けた。そんな庵に龍之介はまた笑った。そして口を開き話し始めた。




「龍之介だ。なんと呼んでもいいが俺を呼ぶ時はちゃんと名前で呼べ。ねぇねぇとか言ってきたらお仕置きだからな。」

「っ、わかった…。」

「それとずっと気になったことを聞くがお前はどうしてあそこまで母親を庇う。」




ちょっとずつ龍之介と普通に話せるようになり恐怖心がせっかく無くなってきていた。なのに掘り返されたくない過去を掘り返されてしまった庵はあのことがフラッシュバックした。目の前で母親を殺された場面が…。




「…そんなの母親だからにっ、」

「アルコール中毒。」

「…え?」

「あと何があったか、そうだ。アルコール中毒に合法ではない薬の所持。裏バイト。売春。裏カジノ。挙句の果てには闇金まで借りる始末だ。殺さずに警察に突き出したら面白かったかもな。」

「なんで…お前がそれを知ってんだよ。」




龍之介の言う通りだ。庵の母親は決して良い母親ではなかった。闇金を借りる前からずっとやってはいけないことばかりしていた。薬でおかしくなった日もあったしアルコールで暴れた日もあった。その度大変だった。そんな母親だから相手がヤクザであろうとも簡単に闇金を借りてしまったのだろう。そしてソープ系の店にに飛ばされた。そこでもきっと沢山悪いことをしてきたのだろう。だけど愛されていたあの日が忘れられなくて庵は…。それに暴れるのは毎日毎日じゃなかった。週に何度かだ。だからその日以外はちゃんと愛してくれていた。そのためそんな母親でも庵は支えようとしていたのだ。このヤクザたちから守ろうとした。ちゃんとみんなのように子供が親に恩を返すそんなことがしたかった。けど…。



「そんな親に親孝行?笑わせんな。お前だってあいつの本当の姿を知ってただろ。」

「ちがう…っ、」

「あんなに最後は悲劇のヒロインみたいに叫んで助けて息子だけは助けて言ってたけどよ。自分で闇金に手を出したんじゃねぇか。俺が殺さなくてもいつかは死んでたよ。中毒まっしぐらみたいだったしな。」

「だまれよっ…!!」



痛いところをつかれてしまった庵は声を荒らげることしか出来なかった。否定することが出来なかった。そんな庵を龍之介は鼻で笑った。



「いい加減目を覚ませ。あんな親に育てられてお前がまともな人生を送れたと思うか?いや違うな。送れるはずがない。クソな親の始末はお前がしなきゃいけねぇんだから。子供が結局苦しむんだよ。今みたいにな。」

「お前に関係ないっ…俺にとってはたった1人の母さんなんだよっ…闇金に手を出してもやばい人達と関わっても俺にとっては…。それにちゃんと愛してくれてた…。」

「愛?笑わせんな。愛があんなら自分の子供がいつかこんな目に遭うと分かって闇金なんて借りたりすると思うか?子供を目の前にして違法薬物を吸うと思うか?その場しのぎの愛情なんてゴミくらいなんだよ。」

「………っ。」



龍之介の言う通りだ。全部全部ずっと庵が心のどこかで思っていたこと。あの女は…庵の母親は庵を愛しちゃいなかっただろう。もしかしたら母親はあの殺された日嬉しかったのかもしれない。庵に対してざまあない…そう思われていたかもしれない。子育ての現実逃避。それから逃げるための薬、アルコール。庵はそれを全部知っていた。だけど知らんぷりしていた。それを母親の口から実際に聞くのが怖かったから。だから実際にそれを口に出して言われると悔しくて…しかも龍之介に。でも何よりも悔しいのは否定できない自分だった。




「返す言葉もねぇか。まぁいい。だがこれだけは覚えてろ。お前がこうなったのは全てお前の母親のせいだってことな。」

「……もしそうだとしても俺は母さんを恨まない。俺が無力だから…だからこうなった。それだけだ。」

「肝が据わってるな。」

「揶揄うな。俺は本気だ。」

「そうかそうか。そこまで真剣か。それなら尚更お前が真実を知った時が楽しみだ。」

「…どういう意味だ。」




真実?龍之介はさっきから何を訳の分からないことばかりいってくるんだ。しかしからかっているにしては違う気がした。



「いつかお前は必ず俺に感謝をする日がくる。」

「笑わせるな。そんな日は来ない。」

「せいぜいそう思っとけ。その日が来れば必ず分かるからな。」



龍之介が嘘をついているようには見えなかった。だけどだからこそ庵は龍之介の言う真実というものを知りたくなかった。知ってはいけないもの。知ったら傷ついてしまうもの。そんな気がしたから。だから言い返すこともそれ以上聞くこともやめた。そんな黙り込んでしまった庵の頭を龍之介は乱暴に撫でた。



「この話はここまでだ。文句があるなら躾をするがどうする?」

「…文句なんてない。」



いやある。本当はあるけど言ったらまたあんなことやこんなことをされる。それをされるぐらいなら我慢して何も喋らない方がマシだ。庵はそう思いぶっきらぼうにそう答えると口を閉じた。



「まだちょっとしか時間たってねぇのに随分物分りの良い奴になったな。」

「………。」

「お前は都合が悪くなるとすぐ黙り込むな。」

「そんなんじゃないっ…てか早く出張行けよ。」



庵はずっと引っかかっていた。龍之介の言ったことが…。感謝をする日?何を言っているんだ。でももしかしたら…。余計なことを色々考えてしまう。そんな風に思い詰めた表情になっていく庵を龍之介はベットに押し倒した。



「おい何すんだっ!」

「お前も連れて行ってやろうか。」

「え…。」

「露骨に嫌な顔してんじゃねぇよ馬鹿野郎。躾が足りねぇか?」

「…あはは。ごめんなさい。」



庵はこのままでは襲われる。そう思った。だからとりあえず適当に笑ってみた。笑顔でも見せときゃなんとかなると思ったのだ。しかし案外それが正解だったかもしれない。ダメもとでやった事なのに龍之介の行動が止まったから。



「お前の笑顔初めて見たかもな。」

「こ、これは愛想笑いだ…!」

「笑ってんじゃねぇか。ほら、こっち向け。」

「いやっ…んぶ!」



これ以上何も言うなと言わんばかりに龍之介は庵の唇を奪った。そしてそのまま目をつぶってキスに耐える庵の顔を見た。その表情がなんとも愛らしくてこのまま食べてしまいたいほどだった。だがそれと同時に思った。先程は言いすぎてしまったかもしれない…と。龍之介にとって庵の母親は邪魔な存在でしか無かった。それを庵に伝えて逃げないようにしたかった。だけど本気で傷ついた表情をしてしまった庵を見て龍之介は少しだけ反省した。そのお詫びにキスをしたが庵があまりにも嫌がるので腹が立ってしまいもう1回戦してしまい再び龍之介が反省をしたことはいうまでもないだろう。

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