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Side-B キミが消えたあの夏の日は
変わっていくキミ、取り残された私
しおりを挟む いろいろあった夏休みも終わり、学校が始まった。
現在、私は朝の教室で夏休みの宿題を片付けている。全部終わらせたつもりだったんだけど、やり残したプリントがあったことに今朝気づいたのだ。
しかも、提出期限は今朝のHR。先生が教室に来るまでに間に合うか、ちょっと際どい。
「うぅ、この問題難しい……」
頭をフル回転させて、プリントとにらめっこしていた、そのときだった。
「おはよう、美波」
不意に自分の名前を呼ばれた。
聞き覚えのある、無愛想な男の子の声。聞くと胸がとくんって鳴る、あの愛しい声だ。
……いやいや、そんなわけないっての。
あの幼なじみが登校してくるはずがない。本当の意味でお姉さんとお別れをして、今は自宅で傷心中のはずだから。
「ちょ、無視すんなよ。俺、お前しか知り合いがいないんだから」
戸惑い混じりのおどけた声だった。
さすがに二回も聞けば、もう疑う余地はない。驚きのあまり、手に握っていたシャーペンを床に落とした。
ゆっくりと顔を上げる。
「あ……ああっ……!」
少し目つきが悪いけど、整った顔立ち。この夏はサーフィンをしていたせいで肌は焼けて小麦色になっている。意外とまつ毛が長く、目の下のほくろがちょっぴり可愛い。そんなこと、たぶん私しか知らないだろうけど。
ちょっと口調は冷たいけど、根はとても優しい。いつもは生意気言うくせに、ピンチのときは私のことを頼ってくるところが憎めない。
そういう不器用な男の子。
私の大好きな、可愛い幼なじみ。
そんなキミが……なんでいるの!?
「れ……蓮だぁぁぁぁぁぁ!」
驚きと嬉しさのあまり、思いっきり叫んだ。クラスメイトからの視線が一斉に刺さったけど、そんなことを気にしている場合じゃない。
「く、来るなら連絡しなさいよ! 一緒に学校行ってあげたのに!」
蓮に文句を言ってやった。
対して、久しぶりに登校してきた幼なじみは、
「はぁ? ガキじゃあるまいし、学校くらい一人で行けるよ。で、俺の席どこだっけ?」
極めて冷静に切り返してきた。
前言撤回。可愛くない。ほんっと可愛くないヤツだ、こいつ。
放課後、私は蓮と一緒に帰ることになった。
最後に蓮と下校したのは、蓮のお姉さんが亡くなるちょっと前だったと思う。夏休み前の話なのに、もう何年も一緒に帰っていない気がした。
日の当たる海道を歩きながら、ふと隣を見る。ひさしぶりの蓮の制服姿だ。なんだか懐かしく感じる。
「どうかしたか?」
蓮が私の目を覗きこんだ。彼の瞳には、少し驚いた表情の私が映っている。
「なんか……蓮と下校している実感がわかないんだけど」
学校に登校してくるのは、もう少し先だと思っていたから。
蓮がイマジナリーフレンドとお別れをしたあの日を境に、キミは少しだけ前向きになった。
蓮の明るくなった表情を見ればわかる。たぶん、お姉さんと約束したんでしょ? これからは現実から逃げずに生きるとか、そういう類のことを。私は幼なじみなんだから、聞かなくてもわかるんだ。
わかっているのに……私は塞ぎこんだ蓮を救えなかった。蓮のお姉さんに、ちょっぴり嫉妬してしまう。
「俺も登校した実感がないな。ひさしぶりに顔出したのに、クラスメイトの反応薄すぎだろ」
蓮は自嘲気味に笑った。
元々、蓮はクラスに友達がいない。というか、蓮自身が話しかけてくるクラスメイトを露骨に避けていた。
そのせいで、クラスメイトも蓮のことをあまりよく思っていない。少し寂しいけど、歓迎ムードにならないのは当然かもしれない。
それにみんなは、蓮のお姉さんが亡くなったことを担任から聞かされている。そのこともあって、余計に声をかけづらいのだろう。
「蓮……もう吹っ切れた?」
おそるおそる尋ねると、
「まぁな。美波のおかげだよ。いつもありがとな」
蓮は頬をぽりぽりとかいて、照れくさそうに笑った。
胸がかあっと熱くなる。
ずるい。キミはそういう嬉しいことをサラッと言うんだ。私の気持ちなんて知らないくせに、無責任にドキドキさせてくる。
「い、いつもじゃないし。それに、あれだけ悲しそうにしてたら、幼なじみじゃなくても助けたいって思うわよ」
そのせいかな。
やけに反抗的で可愛くない態度を取ってしまうのは。
だって、悔しいじゃない。私だけ、キミの一挙一動に舞い上がるなんて。
私、蓮になんか興味ないんだよって……これはそういうささやかな抵抗なんだから。
「いや、だから美波のそういうところだって」
「な、何がよ?」
「誰かを助けたいって、そんなふうに平気で言えちゃう美波に感謝してるんだ」
蓮は優しく微笑んだ。
その笑顔が愛おしくて、それでいてちょっとだけ怖い。
蓮って、こんなに柔らかい表情もできるんだったっけ?
昔はできたのかもしれないけど、少なくとも最近は見たことがないように思う。
例の一件で、蓮が別人になってしまった……そんな馬鹿げた妄想が脳裏をよぎる。
そんなこと、ありえない。
不安を誤魔化すように、私は必死に言葉を探した。
「えっとね、私、蓮が落ち込んでるの、見たくなかったから」
「美波……」
「あのままだと、蓮の心がバラバラになっちゃう気がした。こうして下校したり、もう二人で思い出を作ることができなくなっちゃいそうで、怖かったの……」
当時の蓮は心が枯れていた。
だって、お姉ちゃんの代わりの友達を空想してお話してたのよ? あのまま廃人になってもおかしくないと本気で思った。
「美波。思い出はこれからでも作れるよ。時が経っても色褪せない、煌めくような思い出を……」
「……え?」
……なんか蓮が急にクサい台詞を言った。急に詩人になるなんて、熱でもあるのかもしれない。
戸惑っていると、蓮は進行方向を指さした。
「よし! 今から海行くぞ!」
何を思ったのか、蓮は走り始めた。学生が唐突に全力疾走とか、いつの時代に流行った学園ドラマよ。
「ちょ、何青春してるのよ!」
そういうときは、私の手を握って走るんじゃないの――ってもうあんな遠くにいるし!
「ま、待ちなさいよ! 海行って何するのよー!」
私は慌てて蓮を追いかけた。
急に遠くになんて行かないで。
いきなり私の知らない蓮を見せて、驚かせたりしないで。
物心ついた頃から、私はいつだって蓮と一緒だった。だから蓮のことをよく知っている。こんな熱血青春学園ドラマの真似ごと、どこで覚えたの?
一人だけ前に進んで、私を置いてどこかに行かないで。
ずっと一緒じゃなきゃ、やだよ。
これからも、ずっと。
走って向かった先は、宣言どおり海辺だった。
私と蓮は裸足になって砂の上を歩いている。砂は日光を吸っているから、結構温かい。
「美波と海に来るのも久しぶりだな。小学校以来か?」
私の前を歩く蓮が訊いてきた。
「そうね。たしか……蓮が私にサーフィンを教えてくれたときよ。小学校六年生の頃だったかな?」
蓮がサーフィンにハマり、かまってくれないものだから、私もサーフィンを始めたのだった。だけど……。
「結局、美波は波に乗れなかったよな、たしか」
「うっさいなぁ。人には向き不向きってのがあるのよ」
元々運動が苦手な私にとって、サーフィンは敷居が高かった。そもそも何が面白いのか理解できず、一週間くらい練習して上達しなかったから、あきらめてしまった。
「そんなことより、なんで海に来たのか説明しなさいよ」
「ああ、そのことか。美波が思い出を作れなくなるのが怖いって言ったから、とりあえず海に来ただけだ」
「うん……意味がわからないんだけど」
帰宅途中に海によって……それが何?
幼なじみの真意がわからない。
まただ。知らない蓮が、私の前に現れて心をかき乱す。
「わからないのか? 美波もまだまだ子どもだな」
「なんでちょっと上から目線なのよ……同い年でしょ、私たち。というか、質問の答えになってない」
「美波にもわかるときが来るよ。こういう何気ない寄り道も、大切な思い出になるんだ」
な、生意気だ……蓮が生意気なことを言っている。
「何よそれっ」
幼なじみの言葉が理解できないのが悔しくて、蓮の背中を睨みつけた。
すごく大きな背中だ。サーフィンを教えてもらっていたときは、全然そんなこと感じなかったのに。
わかってるよ。男の子と女の子だもん。骨も体も作りが違う。成長すれば、変わっていって当然だ。
でも、どうしてだろう。なんだかとても寂しい。
いつも蓮と一緒にいた日々は、もうここからずっと遠くにある。
「美波?」
蓮が振り返る。
海辺の風がキミの髪をわずかに揺らした。
「何? どうかした?」
「それはこっちの台詞だろ。黙ってるなんて美波らしくないぞ。もっと賑やかだろ、お前は」
賑やかなのが、私らしい。幼なじみの蓮がそう言うのだから、きっとそうなのだろう。納得はしていないけどね。私自身は、べつに賑やかな人間ではないと思う。
でも、もしかしたら……蓮が変わったように、私も知らないうちに変わったのかもしれない。
「蓮が病み上がりだと思って、少し遠慮してるの。だから口数少ないだけよ」
適当な嘘で返すと、蓮はやれやれ顔で私を見る。
「いや、俺サーフィンで鍛えてるから。というか、さっき走ったろ? 十分元気だ」
「むっ。元気になったらすぐこれよ。ちょっと前までは『美波ぃー。助けてよー。俺、悲しいよー』って半べそかいてたくせに」
「そうは言ってないだろ……たぶん。あれ? い、言ってないよな?」
「あはは、自信ないんじゃん! そういえば、昔から泣き虫だよね、蓮は」
「そうだったか? あんまり過去をねつ造するなよ」
他愛のない会話をしながら砂浜を歩いていく。
いろいろ考えると、不安になってしまうから。
私らしい賑やかな自分になって、言葉を必死に紡ぐ。
現在、私は朝の教室で夏休みの宿題を片付けている。全部終わらせたつもりだったんだけど、やり残したプリントがあったことに今朝気づいたのだ。
しかも、提出期限は今朝のHR。先生が教室に来るまでに間に合うか、ちょっと際どい。
「うぅ、この問題難しい……」
頭をフル回転させて、プリントとにらめっこしていた、そのときだった。
「おはよう、美波」
不意に自分の名前を呼ばれた。
聞き覚えのある、無愛想な男の子の声。聞くと胸がとくんって鳴る、あの愛しい声だ。
……いやいや、そんなわけないっての。
あの幼なじみが登校してくるはずがない。本当の意味でお姉さんとお別れをして、今は自宅で傷心中のはずだから。
「ちょ、無視すんなよ。俺、お前しか知り合いがいないんだから」
戸惑い混じりのおどけた声だった。
さすがに二回も聞けば、もう疑う余地はない。驚きのあまり、手に握っていたシャーペンを床に落とした。
ゆっくりと顔を上げる。
「あ……ああっ……!」
少し目つきが悪いけど、整った顔立ち。この夏はサーフィンをしていたせいで肌は焼けて小麦色になっている。意外とまつ毛が長く、目の下のほくろがちょっぴり可愛い。そんなこと、たぶん私しか知らないだろうけど。
ちょっと口調は冷たいけど、根はとても優しい。いつもは生意気言うくせに、ピンチのときは私のことを頼ってくるところが憎めない。
そういう不器用な男の子。
私の大好きな、可愛い幼なじみ。
そんなキミが……なんでいるの!?
「れ……蓮だぁぁぁぁぁぁ!」
驚きと嬉しさのあまり、思いっきり叫んだ。クラスメイトからの視線が一斉に刺さったけど、そんなことを気にしている場合じゃない。
「く、来るなら連絡しなさいよ! 一緒に学校行ってあげたのに!」
蓮に文句を言ってやった。
対して、久しぶりに登校してきた幼なじみは、
「はぁ? ガキじゃあるまいし、学校くらい一人で行けるよ。で、俺の席どこだっけ?」
極めて冷静に切り返してきた。
前言撤回。可愛くない。ほんっと可愛くないヤツだ、こいつ。
放課後、私は蓮と一緒に帰ることになった。
最後に蓮と下校したのは、蓮のお姉さんが亡くなるちょっと前だったと思う。夏休み前の話なのに、もう何年も一緒に帰っていない気がした。
日の当たる海道を歩きながら、ふと隣を見る。ひさしぶりの蓮の制服姿だ。なんだか懐かしく感じる。
「どうかしたか?」
蓮が私の目を覗きこんだ。彼の瞳には、少し驚いた表情の私が映っている。
「なんか……蓮と下校している実感がわかないんだけど」
学校に登校してくるのは、もう少し先だと思っていたから。
蓮がイマジナリーフレンドとお別れをしたあの日を境に、キミは少しだけ前向きになった。
蓮の明るくなった表情を見ればわかる。たぶん、お姉さんと約束したんでしょ? これからは現実から逃げずに生きるとか、そういう類のことを。私は幼なじみなんだから、聞かなくてもわかるんだ。
わかっているのに……私は塞ぎこんだ蓮を救えなかった。蓮のお姉さんに、ちょっぴり嫉妬してしまう。
「俺も登校した実感がないな。ひさしぶりに顔出したのに、クラスメイトの反応薄すぎだろ」
蓮は自嘲気味に笑った。
元々、蓮はクラスに友達がいない。というか、蓮自身が話しかけてくるクラスメイトを露骨に避けていた。
そのせいで、クラスメイトも蓮のことをあまりよく思っていない。少し寂しいけど、歓迎ムードにならないのは当然かもしれない。
それにみんなは、蓮のお姉さんが亡くなったことを担任から聞かされている。そのこともあって、余計に声をかけづらいのだろう。
「蓮……もう吹っ切れた?」
おそるおそる尋ねると、
「まぁな。美波のおかげだよ。いつもありがとな」
蓮は頬をぽりぽりとかいて、照れくさそうに笑った。
胸がかあっと熱くなる。
ずるい。キミはそういう嬉しいことをサラッと言うんだ。私の気持ちなんて知らないくせに、無責任にドキドキさせてくる。
「い、いつもじゃないし。それに、あれだけ悲しそうにしてたら、幼なじみじゃなくても助けたいって思うわよ」
そのせいかな。
やけに反抗的で可愛くない態度を取ってしまうのは。
だって、悔しいじゃない。私だけ、キミの一挙一動に舞い上がるなんて。
私、蓮になんか興味ないんだよって……これはそういうささやかな抵抗なんだから。
「いや、だから美波のそういうところだって」
「な、何がよ?」
「誰かを助けたいって、そんなふうに平気で言えちゃう美波に感謝してるんだ」
蓮は優しく微笑んだ。
その笑顔が愛おしくて、それでいてちょっとだけ怖い。
蓮って、こんなに柔らかい表情もできるんだったっけ?
昔はできたのかもしれないけど、少なくとも最近は見たことがないように思う。
例の一件で、蓮が別人になってしまった……そんな馬鹿げた妄想が脳裏をよぎる。
そんなこと、ありえない。
不安を誤魔化すように、私は必死に言葉を探した。
「えっとね、私、蓮が落ち込んでるの、見たくなかったから」
「美波……」
「あのままだと、蓮の心がバラバラになっちゃう気がした。こうして下校したり、もう二人で思い出を作ることができなくなっちゃいそうで、怖かったの……」
当時の蓮は心が枯れていた。
だって、お姉ちゃんの代わりの友達を空想してお話してたのよ? あのまま廃人になってもおかしくないと本気で思った。
「美波。思い出はこれからでも作れるよ。時が経っても色褪せない、煌めくような思い出を……」
「……え?」
……なんか蓮が急にクサい台詞を言った。急に詩人になるなんて、熱でもあるのかもしれない。
戸惑っていると、蓮は進行方向を指さした。
「よし! 今から海行くぞ!」
何を思ったのか、蓮は走り始めた。学生が唐突に全力疾走とか、いつの時代に流行った学園ドラマよ。
「ちょ、何青春してるのよ!」
そういうときは、私の手を握って走るんじゃないの――ってもうあんな遠くにいるし!
「ま、待ちなさいよ! 海行って何するのよー!」
私は慌てて蓮を追いかけた。
急に遠くになんて行かないで。
いきなり私の知らない蓮を見せて、驚かせたりしないで。
物心ついた頃から、私はいつだって蓮と一緒だった。だから蓮のことをよく知っている。こんな熱血青春学園ドラマの真似ごと、どこで覚えたの?
一人だけ前に進んで、私を置いてどこかに行かないで。
ずっと一緒じゃなきゃ、やだよ。
これからも、ずっと。
走って向かった先は、宣言どおり海辺だった。
私と蓮は裸足になって砂の上を歩いている。砂は日光を吸っているから、結構温かい。
「美波と海に来るのも久しぶりだな。小学校以来か?」
私の前を歩く蓮が訊いてきた。
「そうね。たしか……蓮が私にサーフィンを教えてくれたときよ。小学校六年生の頃だったかな?」
蓮がサーフィンにハマり、かまってくれないものだから、私もサーフィンを始めたのだった。だけど……。
「結局、美波は波に乗れなかったよな、たしか」
「うっさいなぁ。人には向き不向きってのがあるのよ」
元々運動が苦手な私にとって、サーフィンは敷居が高かった。そもそも何が面白いのか理解できず、一週間くらい練習して上達しなかったから、あきらめてしまった。
「そんなことより、なんで海に来たのか説明しなさいよ」
「ああ、そのことか。美波が思い出を作れなくなるのが怖いって言ったから、とりあえず海に来ただけだ」
「うん……意味がわからないんだけど」
帰宅途中に海によって……それが何?
幼なじみの真意がわからない。
まただ。知らない蓮が、私の前に現れて心をかき乱す。
「わからないのか? 美波もまだまだ子どもだな」
「なんでちょっと上から目線なのよ……同い年でしょ、私たち。というか、質問の答えになってない」
「美波にもわかるときが来るよ。こういう何気ない寄り道も、大切な思い出になるんだ」
な、生意気だ……蓮が生意気なことを言っている。
「何よそれっ」
幼なじみの言葉が理解できないのが悔しくて、蓮の背中を睨みつけた。
すごく大きな背中だ。サーフィンを教えてもらっていたときは、全然そんなこと感じなかったのに。
わかってるよ。男の子と女の子だもん。骨も体も作りが違う。成長すれば、変わっていって当然だ。
でも、どうしてだろう。なんだかとても寂しい。
いつも蓮と一緒にいた日々は、もうここからずっと遠くにある。
「美波?」
蓮が振り返る。
海辺の風がキミの髪をわずかに揺らした。
「何? どうかした?」
「それはこっちの台詞だろ。黙ってるなんて美波らしくないぞ。もっと賑やかだろ、お前は」
賑やかなのが、私らしい。幼なじみの蓮がそう言うのだから、きっとそうなのだろう。納得はしていないけどね。私自身は、べつに賑やかな人間ではないと思う。
でも、もしかしたら……蓮が変わったように、私も知らないうちに変わったのかもしれない。
「蓮が病み上がりだと思って、少し遠慮してるの。だから口数少ないだけよ」
適当な嘘で返すと、蓮はやれやれ顔で私を見る。
「いや、俺サーフィンで鍛えてるから。というか、さっき走ったろ? 十分元気だ」
「むっ。元気になったらすぐこれよ。ちょっと前までは『美波ぃー。助けてよー。俺、悲しいよー』って半べそかいてたくせに」
「そうは言ってないだろ……たぶん。あれ? い、言ってないよな?」
「あはは、自信ないんじゃん! そういえば、昔から泣き虫だよね、蓮は」
「そうだったか? あんまり過去をねつ造するなよ」
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いろいろ考えると、不安になってしまうから。
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