完結!【R‐18】獣は夜に愛を学ぶ(無垢獣人×獣人にトラウマを持つ獣人殺し)

路地裏乃猫

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伏せられた真実

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 ざっと店内を見渡すと、獣人殺しはつまらなそうに鼻を鳴らした。

「なんだ、今日も一人か、獣人」

「ロアは臨時の仕事っす。で、今回はどういったご用件で?」

 のそり席を立つと、カミラはリクの前に塞がるように立つ。穏やかな声の中には、警戒と嫌悪の色がはっきりと浮かんでいる。カミラもカミラで、あの獣人殺しのことは好きではないらしい。

 リクも、あの男は嫌いだ。ただ……あの男の言葉は、捨て置けない何かを孕んでいる。

 その獣人殺しは、カミラを押しのけるようにリクに歩み寄ると、酒臭い顔をずい、とリクの鼻先に寄せてきた。相変わらずひどい臭いだ。意地の悪そうな顔つきと不潔な無精ひげ。ただ、顔立ち自体は決して悪くない。それに、妙な味というか、不味いとわかっていてもつい手が伸びてしまう珍味じみた魅力がこの男にはある。何より……ロアほどではないにせよ、こいつもこいつで相当な手練れには違いない。現にその右手は、油断なく腰の剣に添えられている。少しでもリクが反撃の気配を見せれば、いつでもその喉首を掻き切れるように。

 やがて獣人殺しは、はぁ、と呆れたように溜息をついた。

「ヘタレが。あれだけお膳立てしてやったのに、まだ抱いてねぇのか」

「抱く?」

「ロアをだよ。あいつを裸にひん剥いて、お前のその立派なイチモツをあいつのケツにぶち込んだのかって聞いてんだ」

「ちょ、ちょっとあんた!」

 すかさずカミラがリクの前に割って入る。その声は、なぜか焦りと、それから怯えの色に満ちていた。

「いきなり何てことを! ……あ、あんたもロアの同業なら、その、雄……大人の獣人がどれだけ危険か、知らないはずない、よな」

 やはり、カミラの声には強い怯えが滲んでいる。しかもそれは、目の前の獣人殺しではなく、むしろ背後のリクに向けられた感情のようにリクには思われた。

「そりゃあな。少なくとも宿屋の小僧なんぞよりはよーく知ってるぜ?」

「じゃ……じゃあ、これ以上、リクに余計なことを教えるのは、よしてくれ」

 その言葉に。

 獣人殺しが返したのは、カミラを弾き飛ばすかのような哄笑だった。

「うはははははは! ま、まさかお前ら、まだこいつをガキだと思って……ああ、だから未だにヤギの乳だの飲ませてガキ扱いしてんだな。ははっ可哀想に。この分じゃアッチの方も相当溜まってんだろ、なぁ?」

「アッチ?」

「やめろリク! これ以上、彼の話に耳を貸すな!」

 そう叫ぶカミラは、いつになく蒼褪めている。が、その目が浮かべる恐怖は、やはり、明らかにリクに向けられたものだ。獣人殺しに、ではなく。その事実にショックを覚えながら、同時に、どこか痛快さを覚える自分にリクは気付いている。

 おれはもう、ただ見下ろされ守られるだけの子供じゃない。

 むしろ恐れられ、見上げられる。

「なぁ、リクっったか」

 カウンターに置かれたカミラの酒を勝手に飲み干すと、獣人殺しは初めてリクの名を呼ぶ。

「お前、本当はもう知ってんだろ。女の身体から漂う美味そうな匂いだとか、そいつを嗅いでたまらなくなる感じとか」

「うん」

「リク!?」

 引き留めるカミラの声も、もはやリクの心には届かない。そもそもカミラもロアも、大切なことは何一つ教えてくれなかった。なぜ、女の匂いに惹かれるのか。そして、それと同じように――いやそれ以上に、ロアの匂いや肌の白さに心を乱されるのか。自分以外の匂いをロアが纏うと苛つくのか。

 ロアの匂いが染みついた毛布を嗅ぐと、身体の奥が熱くなるのか。

「知ってる。でも、もっと知りたい」

「やめろリク! そんなことをしたら、ロアとはもう一緒にいられなくなる!」

 思わぬ言葉にリクは振り返る。

 相変わらず蒼褪めたままのカミラが、怯えながらもじっとリクを見上げている。

「……どういうこと?」

「ど、どういうことって……いいかリク。ロアは、大人の雄は誰だろうと絶対に生かしておかない。たとえお前でも……いや、お前だからこそ、あいつは、必ず殺す。お前を育てたけじめとして」

 確かに。が、だとすればなぜロアは、大人の雄をそこまで憎むのだろう。何がロアを獣人狩りに駆り立てるのか。かつてロアが獣人の捕虜にされていたことは知っている。食糧として危うく食われかけた、それだけでも恐ろしく、辛い経験だっただろう。ただ……ロアの獣人に対する憎しみは、それだけではない何かを孕んでいる。

 ひょっとして、雄の獣人に何か酷い仕打ちでも受けたのだろうか。無関係なリクの村を滅ぼして余りある憎しみを抱かされるほどの、何か、許しがたい仕打ちを。

 そしてそれは、大人の雄の獣人にしかできないことで。

 だからロアは恐れるのだろうか。リクが大人になることを。だとしても……

「それでも、いい。知りたい」

「リク!」

 引き留めるカミラを、リクは強くひと睨みする。カミラは、ただでさえ青い顔をさらに青くして後ずさると、丁稚の少年に店番を命じ、そのまま逃げるように店を飛び出してしまった。

「ロアを呼びに行ったか……まあいい。行くぞ、リク」

「……うん」

 頷き、獣人殺しに続いて店を出る。外はあいにくの空模様で、泥水に似た雲が空全体を覆い尽くしている。大気にはほんのりと雨の匂いが漂い、これは夕方あたりから降るだろうなとリクは思う。こと天候に関する勘でリクが外したことは一度もない。

 だいじょうぶかな、ロア。濡れないかな。

 そう、相棒としてつい心配してしまう自分を悲しく感じながら、リクは獣人殺しの後を追った。
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