完結!【R‐18】獣は夜に愛を学ぶ(無垢獣人×獣人にトラウマを持つ獣人殺し)

路地裏乃猫

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熟れすぎた果実

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 やがてリクが通されたのは、二階の奥の部屋だった。

 宿の寝室としては広いが、それでも、十人近くも女が詰めかけると息苦しさは否めない。……いや、この際、狭苦しいのは仕方ない。本当の意味で耐え難いのは、むしろこの匂いだ。決して不快ではない代わりに、身体の奥がどうしようもなく疼いてしまう。

 それとよく似た感覚に覚えがあり、その事実がまたリクを困惑に突き落とす。

 ああ、そうだ。これはロアの匂いを嗅いだ時の。

「知ってるか、リク」

 部屋の入口で立ち尽くすリクの肩に腕を回しながら、ゲインが囁く。

「女を知った獣人はな、ガキの頃とは比べ物にならんぐらい強くなるんだ。……いや、獣人本来の強さを解放する、と言った方が正しいかもな」

「本来の……強さ?」

「ああ。なぁ、お前にとって、ロアは家族のかたきなんだろう? だったらなおのこと、強くならなきゃ駄目なんじゃねぇか? あいつの強さは、お前もよく知ってるだろう」

 つまり、ロアを殺せとゲインは言っているのだ。強くなって、仲間の仇をてと。……確かに、そもそもリクはそのためだけにロアの後を追いはじめたのだ。村を焼かれ、家族を、仲間を殺されたリクがロアに抱いた最初の感情は、紛れもなく憎悪だった。

 なのに。

 なぜ、この男の言葉に頷けない。

「どうした。復讐したいんだろ、ロアに」

「……おれは、知りたいだけだ」

「は? 知りたい?」

「そうだ。……ロアの憎しみを、ロアの痛みを、ただ、知りたくて、来た」

 そう、辛うじて自分の想いを言葉にしながら、それでもなお昇華しきれない感情にもリクは気付いている。いくら目を逸らしても、確かにそこにある恨み。憎悪。それらを下地にした疑念と、そうした疑問に何一つ答えてくれないロアへの怒り。

 そんな諸々の感情を抱えたまま、身体だけはどうしようもなくロアを欲している。

「あはははは! ほんっっとに何も聞かされてねぇんだな! いいぜ、だったら教えてやるよ」

 そしてゲインは、ただでさえ意地の悪そうな顔を、さらに意地の悪い笑みで歪める。

「あいつはな、昔、獣人にさらわれて、そんで犯されたのさ」

「……犯された?」

「そう。こんなふうに、な」

 言いながらゲインは、女の一人を無造作にベッドに押し倒す。と、その服をなぜか剥ぎ取り、剥き出しの乳房に喰らいついた。ゲインの突然の暴挙にしかし、女はあの悲鳴に似た歓声を上げる。甘い、むしろ甘すぎる、熟れすぎて腐りかけた果実にも似た声。

 これが……犯す、なのか?

 さらにゲインは自分も裸になると、女の裸体に剥き出しの身体を重ねる。ただでさえ甘かった女の声がさらに甘く熟れてゆく。いっそ吐き気すら催すほどの嬌声と、同じだけ熟れてゆく女の、いや雌の匂い。

 その姿が、ふとロアに重なって。

 眩暈に似た激情が、リクの頭を突き抜ける。

「ロアも……したのか」

 おれの――俺以外の獣人と、これを。

 相変わらずゲインは、女の上で忙しく腰を振っている。その行為にどんな意味があるのかリクは知らない。知らないが、わかる気がする。自分が、その行為をどうしようもなく渇望していることも。……そうだ、俺はずっと、これを求めていた。これを。

「そりゃ、獣人が人間を攫う理由っったらこれしかねぇさ。まして、あの美貌だ。余程モテたんだろうなあ」

 そしてゲインは、ベッドの上で女の身体を裏返すと、今度は背中の上から重なる。その、ほんの一瞬、ゲインが腰のものを女の尻に突き入れるのがちらりと覗く。まるで昔、森で見た四つ足の獣同士のそれのように。……人間も、同じだというのか。ほかの獣と。そんなはずはない。人間はもっと精神的に成熟していて、知性もあり、何より互いを思いやる心がある。獣とは、違う……違うはずだ。でも。

 ――ああ。

 そう、耳の奥で囁く声がする。涼やかな秋の風に似た美声。最初に名前を聞かれた時から、その清涼な声が好きだった。憎い仇のはずの、その声が――

 ――もっと、もっと奥を。突いて、もっと。

 違う。違う違うちがう!

 ロアはそんなことは言わない。言うわけがない。……わかっている。それでも、ひとたび植えられてしまった種はどうしようもなく芽を吹き、つるを伸ばし、リクの思考を否応なしに捕えてしまう。

 もしロアが、その行為をよろこんでいたのなら。

 今まさにゲインに組み敷かれる女のように、リク以外の獣人に嬉々として身体を開いていたのなら。……いや、たとえ喜んでいなくとも、事実、身体を開いたことに変わりはないのだ。

 俺以外の獣人に。

「どうしたリク。そこでぼーっと突っ立ってるだけじゃ男にゃなれねえぞ。――おい、レナ」

「はぁい」

 レナと呼ばれた女が、リクの首に腕を回し、唇を吸ってくる。腐りかけた肉の匂いに吐き気を催しながら、それでも身体は、湧き上がる欲望に従い女を抱き返す。程よい肉の弾力を手のひら一杯に味わいながら、リクは、もう一方の空いたベッドに女もろとも倒れ込む。

「あ、あっ」

 女の唇から漏れる嬌声を、唾液ごと貪欲に舐めずる。その姿が、またしてもロアと重なる。白い首筋を、喰らいつけとばかりに晒すロア。魂ごと誘い込むかのようにリクを見上げる、紫の宝石に似た瞳。

 どこかで雨の訪れを告げる遠雷が鳴る。

 ああ、こんなふうに。

 俺以外の獣人と、ロア、お前は。

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