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2章
21話 ある女性について
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死んだのは、かつて施設で暮らしていたという女だ。
仮に、この女をAと呼ぼう。当時、Aには鬱病の診断が下されていた。施設専属の医師による診断のもと、薬物療法で症状をコントロールしつつ日々をやり過ごしていたらしい。
だが、いくら対処療法で凌ぐにも限界はある。根治を目指し、カウンセリングを重ねたものの、症状はいっこうに改善を見せなかった。むしろ日に日に重篤化し、薬の量ばかりが増えていった。
そんなAを見るに見かね、手を差し伸べたのが瑠香だ。
瑠香は、Aのために食器を彫った。彼女のギフトは〝克服〟。この力を借りさえすればAを救える。そう、瑠香は信じて疑わなかった。……事実、瑠香のギフトは目覚ましい効果を示したそうだ。いくらカウンセリングを重ねようとも改善を見せなかったAの症状は、ギフトの力でようやく改善の兆しを見せはじめた。
一つだけ問題があったとすれば、Aの審美眼レベルが食器の鑑賞レベルに達していなかったことだ。それを承知で相手に鑑賞させたり、作品を使わせれば、譲渡した側に重いペナルティが科せられる。
それでも、瑠香は構わずAに食器を使わせた。
Aの症状は順調に改善していた。――ところが、そろそろ減薬を、という頃、瑠香の規則違反が協会に露見してしまう。
瑠香の食器は、協会により回収された。さらに故意に作品を譲渡した瑠香は、監視フロアでの一か月の生活を余儀なくされた。他者との、世界とのつながりを何より大事にする瑠香が、一か月ものあいだ、そうした関わりの一切を断たれたのだ。
一方、瑠香のギフトによるサポートを失ったAは、ふたたび症状が悪化。加えて瑠香への処罰を気に病み、以前にも増して塞ぎ込むようになった。
Aが自ら命を断ったのは、瑠香の監視生活が解けて間もない頃だった。予約していたカウンセリングに現れず、心配した瑠香がAの部屋を訪れたところ、切った手首を湯船に晒したAがバスルームにて発見された。すぐさま医師が駆けつけたが、すでにAは事切れており、その場で死亡が確認された。
仮に、この女をAと呼ぼう。当時、Aには鬱病の診断が下されていた。施設専属の医師による診断のもと、薬物療法で症状をコントロールしつつ日々をやり過ごしていたらしい。
だが、いくら対処療法で凌ぐにも限界はある。根治を目指し、カウンセリングを重ねたものの、症状はいっこうに改善を見せなかった。むしろ日に日に重篤化し、薬の量ばかりが増えていった。
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瑠香は、Aのために食器を彫った。彼女のギフトは〝克服〟。この力を借りさえすればAを救える。そう、瑠香は信じて疑わなかった。……事実、瑠香のギフトは目覚ましい効果を示したそうだ。いくらカウンセリングを重ねようとも改善を見せなかったAの症状は、ギフトの力でようやく改善の兆しを見せはじめた。
一つだけ問題があったとすれば、Aの審美眼レベルが食器の鑑賞レベルに達していなかったことだ。それを承知で相手に鑑賞させたり、作品を使わせれば、譲渡した側に重いペナルティが科せられる。
それでも、瑠香は構わずAに食器を使わせた。
Aの症状は順調に改善していた。――ところが、そろそろ減薬を、という頃、瑠香の規則違反が協会に露見してしまう。
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