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2章
41話 未知との遭遇
しおりを挟む結局、初任務はギフテッド探索という意味では空振りに終わった。
それでも、漣にとっては有意義な時間ではあった。改めて、この任務において大事なスタンスを学ぶことができたように思う。任務は任務として、まずはアートとの出会いを楽しむこと。遠回りのようで、それが最善の近道であることも。
「そろそろですね。では、出ましょうか」
展示室を出ると、さっそくロビーで嶋野が端末を差し出してくる。
「じゃ、さっそく本部に報告を入れましょう。やり方は、事務所で説明を受けましたね?」
「え、ええ」
ここでいう報告とは、もちろんギフテッドの有無に関する報告だ。これは、単なる調査報告であるだけでなく、漣たちのようなギフテッドのキュレーターにしてみれば、命を繋ぐための行動報告も兼ねている。
美術館を出る頃には、昼を大きく過ぎていた。どうりで腹が空くはずだ、と、漣はスーツ越しにからっぽの胃袋を軽くさする。
「あの、昼飯、どこで食います?」
「昼……ああ、それなら」
そして嶋野は、手元のビジネスバッグから何やら黄色い箱を取り出す。やけに見覚えのある――漣も、創作が煮詰まったときに世話になるそれは、カロリーメイトの箱で間違いない。まさか……
「え……それが……昼飯っすか」
「えっ? え、ええ……あ、大丈夫ですよ。海江田くんの分もちゃんと用意してありますので」
言いながら嶋野は、鞄からニ箱目のカロリーメイトを取り出し、それを漣に差し出してくる。これは……食え、ということだろうか。少なくとも、差し出す嶋野の目は冗談には見えない。が、てっきりどこかの店でランチを楽しめると期待していた漣は、正直、かなりがっかりする。せっかく半年ぶりに外で食事を摂れると思ったのに。
「足りませんか?」
「あ、いえ……それもありますけど……せっかくなんで、外で普段と違うもん食べたいなって」
「ああ、あるほど……すみません。気が利きませんでした。つい、いつもの調子で予定を組んでしまって」
「いつも? じゃあ普段から、昼はカロリーメイトなんすか」
「えっ? え、ええ……楽でいいですよ。余計な時間も手間もいりませんし」
言いながら嶋野は、さっそくパッケージを開いて中身を口に押し込む。そう、押し込む、という表現がぴったりな食べ方だった。まず一本を口に頬張り、ほとんど飲み込むようにしてすぐに二本目も片付けてしまう。そういえば……以前、夜の食堂で一緒に食事を摂ったときも、異様に食べるのが早かった印象がある。
「あの、差し出がましいのは承知の上で言いますけど、もうちょっと、その、食事を楽しんだ方が良くないっすか。食事も、その、人生を彩る大事な要素だと思うんすけど……アートと同じぐらい」
すると嶋野は軽く肩をすくめ「らしいですね」と笑う。
「でも、すみません。僕には、その感覚がどうしてもわからないんです。それに、わからないことを苦痛に感じたこともない。なので、どうかお構いなく。――といっても、付き合わされる海江田くんにしてみれば災難ですよね。まぁ明日からは、そのあたりの時間調整もさせてもらいますので、すみません、今日はこれで」
そして、手元のカロリーメイトを漣に押しつけてくる。仕方ない、と、その黄色い箱を受け取りながら、なぜ、と漣は思う。本来、楽しいはずの食事を楽しめないなんて。ただの嗜好ならそれでいい。が、嶋野の食べ方は、どうも見えない何かに急かされているようにも見える。急がなければ誰かに奪われてしまう。そんな孤独と焦り。
まだまだ知らないことだらけだ、と思う。
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