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第1部 暴君立志編 第3話 王太子、ロマンを語る
第3話 5
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そんな日々を過ごすうちに、騎兵試験の日はやってきて、武技大会の日となった。
王都の南西にある大闘技場が会場だ。
今日は貴族だけじゃなく、庶民達も会場に詰めかけている。
娯楽の少ない彼らにとって、この催しは、わかりやすいイベントなのだ。
俺はソフィアをともなって王族観覧席で挨拶を述べると、そのまま椅子に腰をおろした。
対戦は<騎兵騎>による一対一のトーナメントで行われる。
生身じゃないのは、これがあくまで騎兵試験の一環だからだ。
<爵騎>を出せる嫡男であっても、公平を期すために工廠局開発の<騎兵騎>を使用する規定になっている。
それぞれ使用する武器の差はあっても、肉体的な差異が少なくなる。これは戦場でも同じという事で、まだ戦乱激しかった曽祖父の代に決められたルールなんだそうだ。
相手の<騎兵騎>を戦闘不能にしたら勝ち。
修理する工廠局には悪いが、実にわかりやすいルールだ。
王族観覧席には、俺とソフィアの他に、解説の為にグレシア将軍とオルセン局長が来ている。
試合のたびに説明してくれるんだが……なんというか――
「低レベルじゃね?」
確かに<騎兵騎>に不慣れというのはあるかもしれないが、基本的に騎体は着用者の身体の動きをなぞるように造られている。
「劇場を作っていた衛兵達の<兵騎>のが、まだスムーズに動いていたように思うぞ……」
俺のぼやきを聞きつけて、オルセン局長が頭を掻く。
「きっと触感の微調整が上手くできてないんでしょう。あれの指示は騎士に任されるんですわ。なにせ本人の感覚なもので」
つまり技術者への最終調整の指示出しを、騎士がうまくできていないという事か。
「そういうところも含めて審査するのが、この大会の意義です」
グレシア将軍が同意してうなずく。
なるほどね。確かに<王騎>や<爵騎>はそういうの必要ないもんな。
<爵騎>に慣れてる貴族嫡男であっても、すんなりとは勝ち上がれないというわけか。
円形の闘技場の観客席沿いに並ぶ、試合待ちの<騎兵騎>達。
その中から、俺はユリアンを見つけ出す。
「マジで勝ち上がれるかもしれねえぞ。ユリアン……」
先日、<狼騎>を見せた時、あいつは試験の為にと技術者達に、かなり細部に渡って<騎兵騎>について質問してメモしていた。
いまさら触感の調整ミスなんて事、あいつはしないに違いない。
「頑張れ……」
周りに気付かれないように、俺は口の中だけで応援する。
やがてユリアンの番が回ってきた。
俺は思わず拳を握りしめる。
ユリアンは生身の時がそうだったように、右手に長剣、左手に短剣という二刀スタイル。相手は槍使いのようだ。
共に触感調整は万全のようで、これまでの試合と違って、両者の動きは淀みない。
槍を回して勢いを付け、そのまま騎体さえ回して相手が槍を連続で突き出す。
ユリアンはそれを短剣で弾いて、相手に合わせるように騎体を回し、まるで巨人がワルツを踊っているようだ。
観客達が一斉に拍手し、二人の技量を讃える。
それに応えるように、二人は回転を止めて距離をとる。
ユリアンは長剣を前に半身に構え、相手は槍を腰溜めに構える。
――決める気だ。
ドンと両者が地を蹴って踏み込み、相手が槍をユリアンの頭部めがけて突き出す。
それをユリアンは長剣で弾き、騎体を反転させてまるで抱き寄せられるように、相手の懐へ。
気づけば短剣が相手の喉元を貫いている。
一瞬の静寂。
それから歓声。
「――アレだよ! 俺もいつもアレにやられるんだ!」
俺は興奮気味にソフィアやグレシア将軍に声をかける。
「――短剣を防御のみと錯覚させて、相手の必殺を誘い、それを長剣で弾いて、短剣にて必殺、ですか。なるほど。よく考えられている」
「殿下、いつもって、わからないものなのですか?」
「短剣を警戒すると、今度は長剣で必殺が来るんだよ。あいつは本当にすごい奴なんだ!」
本人は小柄なのと、筋力不足を嘆いているけれど、それを補ってあまりある武を、あいつは修めている。
ユリアンの相手の騎体が運び出され、ユリアンは観客達に一礼して、壁際に戻った。
そばに来られた観客達が、ユリアンを振り向かせようと、盛んに手を振っている。
「きっとあいつ、鞍の上で照れて顔真っ赤にしてるぞ」
それが容易に想像できて、俺は笑みを浮かべる。
試合は進んでいき、盾と長剣という正統派騎士スタイルの<騎兵騎>が出てきたところで、グレシア将軍がそれを指差した。
「殿下。今回の優勝候補です」
「へー。なんて奴?」
「――スコット・バーク。第二騎士団所属で、バーク伯爵家の長男です」
「長男? 家は継がないのか?」
「妾の子なのですよ。彼が十五の時に、正妻に男子が生まれ、バーク伯はそちらを嫡男とする事にしました。
とはいえ、それまでは彼に継がせるつもりでいたようで、彼は<爵騎>を扱えます。弟が成人した時に、<爵騎>を移すようですな」
「なるほど。そうなる前に<騎兵騎>の資格を取っておこうって事か」
いつの時代も貴族のお家事情ってのは面倒くさいね。
俺が嫁を選びたくなくなるのも、仕方ないと思わないか?
俺達が話している間にも試合は進む。
斧槍を振るう相手に対して、スコットは盾で的確にそれを弾き、間合いを詰めていく。
ジリジリと距離を詰められる事に焦れた斧槍使いが、大上段に斧槍を振りかぶった。
瞬間、スコットが地を鳴らして踏み込み、相手の胴を一閃。
駆け抜けた勢いを反転に変えて、胴に空いた穴から覗く、むき出しになった生身の相手に切っ先を突きつける。
「……確かに、強いな」
堅実な防御と、相手の一瞬の隙を見抜く勝負勘。<騎兵騎>を操る身体操作も悪くない。
「私の見立てでは、スローグとバークで決勝でしょうな」
グレシア将軍の言葉に、俺はうなずく。
果たして結果は、その通りになった。
王都の南西にある大闘技場が会場だ。
今日は貴族だけじゃなく、庶民達も会場に詰めかけている。
娯楽の少ない彼らにとって、この催しは、わかりやすいイベントなのだ。
俺はソフィアをともなって王族観覧席で挨拶を述べると、そのまま椅子に腰をおろした。
対戦は<騎兵騎>による一対一のトーナメントで行われる。
生身じゃないのは、これがあくまで騎兵試験の一環だからだ。
<爵騎>を出せる嫡男であっても、公平を期すために工廠局開発の<騎兵騎>を使用する規定になっている。
それぞれ使用する武器の差はあっても、肉体的な差異が少なくなる。これは戦場でも同じという事で、まだ戦乱激しかった曽祖父の代に決められたルールなんだそうだ。
相手の<騎兵騎>を戦闘不能にしたら勝ち。
修理する工廠局には悪いが、実にわかりやすいルールだ。
王族観覧席には、俺とソフィアの他に、解説の為にグレシア将軍とオルセン局長が来ている。
試合のたびに説明してくれるんだが……なんというか――
「低レベルじゃね?」
確かに<騎兵騎>に不慣れというのはあるかもしれないが、基本的に騎体は着用者の身体の動きをなぞるように造られている。
「劇場を作っていた衛兵達の<兵騎>のが、まだスムーズに動いていたように思うぞ……」
俺のぼやきを聞きつけて、オルセン局長が頭を掻く。
「きっと触感の微調整が上手くできてないんでしょう。あれの指示は騎士に任されるんですわ。なにせ本人の感覚なもので」
つまり技術者への最終調整の指示出しを、騎士がうまくできていないという事か。
「そういうところも含めて審査するのが、この大会の意義です」
グレシア将軍が同意してうなずく。
なるほどね。確かに<王騎>や<爵騎>はそういうの必要ないもんな。
<爵騎>に慣れてる貴族嫡男であっても、すんなりとは勝ち上がれないというわけか。
円形の闘技場の観客席沿いに並ぶ、試合待ちの<騎兵騎>達。
その中から、俺はユリアンを見つけ出す。
「マジで勝ち上がれるかもしれねえぞ。ユリアン……」
先日、<狼騎>を見せた時、あいつは試験の為にと技術者達に、かなり細部に渡って<騎兵騎>について質問してメモしていた。
いまさら触感の調整ミスなんて事、あいつはしないに違いない。
「頑張れ……」
周りに気付かれないように、俺は口の中だけで応援する。
やがてユリアンの番が回ってきた。
俺は思わず拳を握りしめる。
ユリアンは生身の時がそうだったように、右手に長剣、左手に短剣という二刀スタイル。相手は槍使いのようだ。
共に触感調整は万全のようで、これまでの試合と違って、両者の動きは淀みない。
槍を回して勢いを付け、そのまま騎体さえ回して相手が槍を連続で突き出す。
ユリアンはそれを短剣で弾いて、相手に合わせるように騎体を回し、まるで巨人がワルツを踊っているようだ。
観客達が一斉に拍手し、二人の技量を讃える。
それに応えるように、二人は回転を止めて距離をとる。
ユリアンは長剣を前に半身に構え、相手は槍を腰溜めに構える。
――決める気だ。
ドンと両者が地を蹴って踏み込み、相手が槍をユリアンの頭部めがけて突き出す。
それをユリアンは長剣で弾き、騎体を反転させてまるで抱き寄せられるように、相手の懐へ。
気づけば短剣が相手の喉元を貫いている。
一瞬の静寂。
それから歓声。
「――アレだよ! 俺もいつもアレにやられるんだ!」
俺は興奮気味にソフィアやグレシア将軍に声をかける。
「――短剣を防御のみと錯覚させて、相手の必殺を誘い、それを長剣で弾いて、短剣にて必殺、ですか。なるほど。よく考えられている」
「殿下、いつもって、わからないものなのですか?」
「短剣を警戒すると、今度は長剣で必殺が来るんだよ。あいつは本当にすごい奴なんだ!」
本人は小柄なのと、筋力不足を嘆いているけれど、それを補ってあまりある武を、あいつは修めている。
ユリアンの相手の騎体が運び出され、ユリアンは観客達に一礼して、壁際に戻った。
そばに来られた観客達が、ユリアンを振り向かせようと、盛んに手を振っている。
「きっとあいつ、鞍の上で照れて顔真っ赤にしてるぞ」
それが容易に想像できて、俺は笑みを浮かべる。
試合は進んでいき、盾と長剣という正統派騎士スタイルの<騎兵騎>が出てきたところで、グレシア将軍がそれを指差した。
「殿下。今回の優勝候補です」
「へー。なんて奴?」
「――スコット・バーク。第二騎士団所属で、バーク伯爵家の長男です」
「長男? 家は継がないのか?」
「妾の子なのですよ。彼が十五の時に、正妻に男子が生まれ、バーク伯はそちらを嫡男とする事にしました。
とはいえ、それまでは彼に継がせるつもりでいたようで、彼は<爵騎>を扱えます。弟が成人した時に、<爵騎>を移すようですな」
「なるほど。そうなる前に<騎兵騎>の資格を取っておこうって事か」
いつの時代も貴族のお家事情ってのは面倒くさいね。
俺が嫁を選びたくなくなるのも、仕方ないと思わないか?
俺達が話している間にも試合は進む。
斧槍を振るう相手に対して、スコットは盾で的確にそれを弾き、間合いを詰めていく。
ジリジリと距離を詰められる事に焦れた斧槍使いが、大上段に斧槍を振りかぶった。
瞬間、スコットが地を鳴らして踏み込み、相手の胴を一閃。
駆け抜けた勢いを反転に変えて、胴に空いた穴から覗く、むき出しになった生身の相手に切っ先を突きつける。
「……確かに、強いな」
堅実な防御と、相手の一瞬の隙を見抜く勝負勘。<騎兵騎>を操る身体操作も悪くない。
「私の見立てでは、スローグとバークで決勝でしょうな」
グレシア将軍の言葉に、俺はうなずく。
果たして結果は、その通りになった。
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