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3.悪ふざけだって許すのはこれっきり
しおりを挟む逃げる先に立つヴァトズフィウズ様は、僕に向かって片手を突き出す。
魔法がくる。しかも、恐らく拘束の魔法。
こんなところで捕まってたまるか!!
僕は魔法で剣を作り出した。魔力は巨大な光る剣になって、僕の手に収まる。
申し訳ないが、少し牽制させてもらう。これはただの脅しのための魔法で、これで人を傷つけることはできないけど、割と驚いて道をあけてくれたりするんだ。
「退いてくださいっ……」
僕は、剣を振りかぶった。それは魔力を帯びて、僕に力を貸してくれる。だけど、僕の剣はヴァトズフィウズ様には届かなかった。
ヴァトズフィウズ様が魔法をかけると、僕の剣は消えてしまい、僕は魔法で縛られて、その場に倒れてしまう。
「いっっ……た!!」
魔力の縄は僕を後ろ手に縛り上げて、抗えそうにない。
何て強い拘束の魔法だ。完全に捕まって、僕は微動だにできない。なんなんだ……この魔力!!
「離してください!! 僕、何もしてないっ……離せっっ……!!」
怒鳴りつけても、そいつは全く意に介していないようだ。肩をすくめて言う。
「先に魔法を振るったのはそっちだろう? 拘束されて当然だ」
「それはっ…………そ、そっちだってっ……僕を捕まえようとしましたよね!? だ、だからちょっとやめてもらおうとしただけです!! と、とにかく、離せっっ……!!」
「リュイウェリレクというのは、お前か?」
「は!?」
「どうなんだ? お前か?」
「……」
……絶対に答えない方がいい…………だってこの人だって、僕を嫌っているはずだ。
下手に名乗ったら、追ってくるフォルゲソスたちと一緒になって、僕を殴るかも知れない。そうでなくてもあのクソ元婚約者と一緒になって僕を痛めつける奴が多いのに! これ以上敵を増やしてたまるか!
「……え……えっと…………僕は…………その、たまたま通りがかっただけで……」
「たまたまこんなところを通る奴はいないだろう。この辺りには、悪党のリュイウェリレクが寝泊まりしている部屋があるんだぞ」
「違うっ…………! 僕はっ……」
つい、顔を上げてそう叫んでしまった。
しまった……こんなの、白状したも同然じゃないかっ……!!
何してるんだ、僕っ……!!
僕を見下ろすヴァトズフィウズ様の顔色が変わる。ひどく驚いているようだった。
くっそーー!! バレた!!!! 僕の馬鹿!!
僕は、魔法で縄を切り裂いて、逃げ出した。
だけど、その程度で逃げられるはずがない。
背後からはまた拘束の魔法が飛んできて、僕は縛られてあっさりその場に倒れる。
そんなことをしていたら、背後からフォルゲソスたちが追いついてきた。
「おい!! 待て!」
追ってきたフォルゲソスは、僕と話していた男を見て、目を見開いていた。
「あなたはっ……ヴァトズフィウズ様っ……!」
そいつは、一瞬鬱陶しそうな顔をしたように見えたけど、すぐに愛想笑いを浮かべてヴァトズフィウズ様に言う。
「なんだ……あなたでしたかー…………そういえば、今日いらっしゃると聞いていました。お会いできて光栄ですよ」
「そうか」
「ええ。そうですとも。何しろフィリフェント家の方だ。いつもお世話になっています」
「ああ」
「積もる話もありますが、まずは、その男をこっちに渡してくださいませんか?」
「これをか?」
「はい。そこにいるのは、俺と婚約してもらっておきながら俺に手を上げたクズです。それでも俺は、そいつを見捨てられないんですよ。どうしようもないクズでも、放っておけないんです。これから、明日の魔物退治の計画も立てなくてはなりません。逃げないようにあなたが捕まえておいてくれたと言うならちょうどいい。さ、こっちに渡してください」
フォルゲソスがそう言うと、一緒にいたキャマバラーデまで喚きだす。
「そうですよ。フォルゲソス様がそれを御所望なんです! さっさと渡してください!」
そう言って、そいつらが手を伸ばしてくるけども、ヴァトズフィウズ様は取り合う気がないみたいだ。
「これには俺が聞きたいことがある。しばらく貸せ」
「はあ!??」
驚くフォルゲソス。簡単に僕を差し出すはずだと思っていたんだろう。
「か、勝手なことを言わないでください……侯爵家だからと言って、横暴ではありませんか!!」
「横暴じゃない。俺だって、一族から言われてるんだ。リギューラ家の次期当主に手を出した馬鹿野郎が何を考えてるのか、確かめてこいってな」
「…………フィリフェント家の方が? では、あなたがその男に聞きたいことと言うのはそれですか?」
「ああ……あー……そうだな」
軽く言うヴァトズフィウズ様は、なんだか胡散臭い……なんなんだ、この人……
フォルゲソスもそれは感じているようで、ヴァトズフィウズ様の方に疑うような目を向けていたけど、フィリフェント家と聞いて、少し表情を変えている。領主の座が欲しいあいつにしてみれば、長年さまざまな面で協力してきた隣の領地の御令息と揉めることは避けたいのだろう。
「…………分かりました。フィリフェント家にはフィリフェント家のご事情がおありでしょう。そんなものに話を聞いても意味があるとは思えませんが…………ただし、明日の魔物退治でそれを使うので、ちゃんとそれまでには返してくださいね」
「そうか。ありがとう」
怖いくらいニコニコ笑って、ヴァトズフィウズ様は歩き出す。すると、僕を縛っていた魔法の縄も浮いて、僕を彼の後について行かせる。
フォルゲソスは、そんなヴァトズフィウズ様の背中を不信感を隠そうともせずに睨んで、声をかけた。
「ヴァトズフィウズ様……」
「なんだ?」
「………………しばらくここをあけていたようですが、なぜ戻って来たのです?」
「やりたいことがあった。一族からも、これを調べてこいと言われている」
「では、それだけ終わったら、また領地にお帰りになるのですか?」
問われて、ヴァトズフィウズ様は、フォルゲソスに振り向いた。
「……それは分からないな」
「俺は、ここの主になりたいと思っています。あなたも知っての通り、ここは、王国にとって重要な場所です。それなのに、ここでは魔物が増え、砦の魔法使いたちも怪我が絶えません。そんな場所を守れるとしたら、それは俺だけです」
「お前には絶対に無理だ」
「……」
キッパリと言ったヴァトズフィウズ様の言葉に、フォルゲソスは絶句。
ポカンとして何も言えないフォルゲソスに、ヴァトズフィウズ様は正体が知れない笑みで振り向いた。
「ここの主になるのは、俺だからな」
言って、ヴァトズフィウズ様は僕を連れて歩き出す。抵抗くらいしたいけど、こんなふうに縛られていたら、それもできない。
なんなんだこの人…………
ついてなんか行きたくないけど、僕を縛る魔法の縄が、歩き出したそいつに引き寄せられるように、僕を引き立てる。
最悪だ……これでますますフォルゲソスを怒らせた。後で何をされるか分からないじゃないか。
振り向いたら、キャマバラーデが、僕に声をかける。
「そこの悪党っ……!! 忘れものだっ!!」
そう叫んだそいつに振り向くと、魔法の弾が僕に向かって飛んできた。こんなことも、僕には日常。いつも歩いてるだけで魔法で撃たれる。拘束の魔法なんてかけられていたら、逃げることもできない。
覚悟を決める僕。
けれど、すぐにキャマバラーデの弾は消えて、そいつはその場に倒れてしまう。
「がっっ……あ、ああっ……!」
なんだ……? 急に苦しみ出した。魔法か?
振り向いて見上げれば、ヴァトズフィウズ様がキャマバラーデに振り向いて、そいつを睨んでいる。
「…………気を付けろ。悪ふざけも、許すのは一度だけだぞ……」
「ヴァトズフィウズ様っ……! これは一体っ……!!」
叫ぶフォルゲソスを置いて、ヴァトズフィウズ様は僕を連れて歩き出す。
さっきのあの魔法……毒の魔法だ。しばらくキャマバラーデは動けないだろう。
今さらますます怯えた僕は、暴れようとしたけど、僕を縛る縄が激しく体に食い込んで、痛いだけだった。
最悪だ…………こんなことなら、フォルゲソスに捕まった方がマシだったかも……
出会い頭に毒の魔法なんて、普通かけない。威力が強すぎて相手を殺すこともあるからだ。
こんな奴に連れて行かれなきゃならないなんて…………最悪すぎる……
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