4 / 61
4.それだけ?
しおりを挟む僕は、砦の東の方に連れて行かれた。大きな扉の向こうは、ヴァトズフィウズ様たちが使っている寮になっている辺りだ。廊下に並んだ扉は、ほとんどが彼の護衛や彼に近い一族の人たちの部屋のはず。彼にしてみれば一番落ち着く空間だろう。
だけど……僕にしてみれば、敵の本拠地……
ヴァトズフィウズ様はずっと何にも話さないし、多分、さぞかし不快な思いをしているんだろう。
一族から僕がフォルゲソスに手を上げたことを調べろって言われてるみたいだし……
大事な御令息を傷つけた僕なんか、今にも殺したいくらい恨んでいるかもしれない。
どうしよう…………
この人もフォルゲソスに色々吹き込まれて、僕のことを悪党だと信じ込んでいるのかな……
でも、さっきはフォルゲソスに「絶対に無理」って言ってたし、もしかして、ちゃんと調べてもらえたりしたら、僕がフォルゲソスに何もしてないことが明らかになるかも……
婚約していた頃に僕に恥をかかされたと主張しているフォルゲソスは、僕が婚約者に酷いことをするクズだと言いふらしまくっているらしい。言ってることのほとんどは嘘だけど、フォルゲソスは名高い伯爵家の次期当主。そいつと家を追い出された僕となら、みんな、フォルゲソスの方を信じるらしい。取り巻きも引き連れて僕をゲスだと喚き散らすあいつのせいで、僕はすっかり悪役だ。
僕……何もしてないのに。
家族は家族で、お前みたいなクズはいらないと僕をぶって、フォルゲソスの肩を持つ。元々家族の中でも邪魔者扱いされていた僕だ。誰も僕の言うことなんか信じない。
このまま寮の部屋に連れて行かれるのかと思いきや、ヴァトズフィウズ様は、奥にあった暗い階段を降りて行く。それについて、魔法の縄も僕を階下に連れて行く。
縛られたままだと、階段なんて歩きにくい……足を踏み外しそうになりながら、なんとか彼についていく。
階段の方ばかり見て歩いていたら、急に縄が、僕を引っ張るのをやめた。
顔を上げれば、先に階段を降りていたヴァトズフィウズ様が、僕に振り向いている。彼はじっと、僕の方を見ていた。
な、何…………?? 僕、何かした?! まだ何もしてないのに……やっぱり僕を疑っているのか??
相手の視線が怖い。
何をされるか分からない。
もしかしたら、フォルゲソスの言うことを全部信じきって、僕をなぶりものにする気かも知れないんだ。
相手はずっと大きなフードをかぶっていて、顔は全部見えない。ローブを着込んでいて、体型なんかもよく分からない。その鋭い視線を向けられるだけで、なんだか落ち着かない。
気分が悪くなりそうだ……もう、今すぐにでも逃げ出したいのに、足はすくんで動かない。
あれこれ考えないで、そのまま聞いてみるか? 僕をどうするつもりですか? って。
だけどそんなこと聞いて、恐ろしい答えが返ってきたら……
立ち尽くしている間、ヴァトズフィウズ様は無言。
これからどうなるのか分からない恐怖に襲われ続けた僕は、ついに震えながら口を開いた。
「…………あっ……あの…………僕のことっ…………ど、どうするつもり、ですか……?」
怯えながら聞く。
すると、ヴァトズフィウズ様は、思ったより優しく、「話を聞くだけだ」って言って、また僕に背を向けて歩き出した。
101
あなたにおすすめの小説
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました!
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる