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12.嬉しい申し出
しおりを挟む朝からそんな騒ぎがあって、僕はくたくただった。
だけど、なんとかグレヴロオル様には、ここを出るための魔物退治の条件を箇条書きにさせた。
最近討伐に苦慮している強力な魔物を数体倒すこと、指定された素材を渡すこと、それに、あとはお金だ。それさえあれば、僕はここから解放される!!
すっかりフォルゲソスの奴隷みたいに扱われている僕だけと、別にフォルゲソスに対して義理があるわけじゃない。僕はあくまで、グレヴロオル様に雇われた魔法使いなんだ。
だから、グレヴロオル様が解放すると言ったら解放してもらえるんだ。
だけど、多分後でフォルゲソスが激怒するんだろうな……それだけじゃなくて、何か酷いことをされるかもしれない。
それは怖いけど……
僕はもうっ……!
自由になるって、決めたんだ!!!!
とはいえ、グレヴロオル様に言われた条件は、かなり厳しい。早く始めないと、ここを出て行くのがどんどん遅くなるかもしれない。グレヴロオル様だって、絶対にできないって思ったから、こんな条件を言い出したんだろうな……
だけど、これくらいでここを離れられると思えばっ……!!
ここでずーっと、フォルゲソスなんかに使われるより、ずっといい!!
やるぞーーーーーー!!
僕は、晴れ晴れした思いでグレヴロオル様の部屋を後にした。
もちろんヴァトズフィウズ様も一緒……
「よかったな……ここを出ることができるようになって」
「はい……」
「だが、いいのか? あんな奴にあんな条件を出されて。あんな奴は俺が…………あ、いや……なんなら俺が、君を解放するよう交渉してあげてもいいんだけど……」
ヴァトズフィウズ様は、フードの下で急に笑顔になって言う。笑顔って言うより…………なんだか引き攣っていて、取り繕ったような感じがする。
グレヴロオル様の部屋でも、一度グレヴロオル様に対して怒りを露わにした後は、僕に部隊に入れって言ってニコニコしていたし……
それに、急にひどく気を使われて話されているような気がする。口調もさっきより、ずっと優しい……
僕は、首を横に振った。
「……ありがとうございます。お気遣いは嬉しいのですが、それは結構です。後腐れないようにしたいので……それと……」
「なんだ?」
「あの……なんだか……無理してませんか?」
なんとなく聞くと、彼はフードの下で、ひどく驚いて、僕を見下ろしていた。
「………………え……?」
「だって、部屋を出たら…………なんだか急に優しく声をかけてくれたので、驚きました。もしかして、僕がやけに警戒するからですか?」
「いや………………そう言うわけじゃない……ただ…………一族から、ひどく警戒心の強い男だから、決して逃げられたりしないよう、注意して接触するように言われていた」
一族から? それって、フォルゲソスのことを聞き出すためか? だけどあれは、もうわかってもらえたはず。
だったら、魔法のことか? なんで、侯爵家の方がそこまで……
不思議だけど、魔法のことだったら、僕だって警戒したりしない。別に、隠しているわけじゃないから。
「…………えっと……だったら大丈夫です。僕、えっと……どう接触されても、絶対に警戒はするし…………あっ、でもこれは癖みたいなものでっ……だから、気を遣っていただかなくても、ヴァトズフィウズ様がしたいようにしてください!」
「………………」
彼はしばらくずっと黙っていた。
これからの魔物退治は危険なものばかりだし、僕は彼の部隊には入れないけど…………
僕だって、ずっとやりたいようにやりたかった。それなのに、僕のために無理をする人がいて欲しくない。
ヴァトズフィウズ様は、僕に近づいてくる。
本当なら、また一歩下がりたくなるけど……
だけど、警戒されていると思われるのが、なんとなく嫌で、そのままでいた。
すると、すぐそばまで近づいてきたヴァトズフィウズ様が僕を見下ろす。
僕の頭が、ちょうど彼の首の根元くらいにきてる。僕はずっと見上げてばかりだ……首が痛い……
肩幅の広い彼のそばに立っていると、少し威圧感を感じて緊張するけど、今日は恐怖は感じない。
フードと長い髪の下からだからよく見えないけど、整った目鼻立ちはどこか冷淡にも見えるのに、なんだか見惚れてしまいそうだ。
彼は、黙って僕のそばに立って、急に顔を綻ばせた。
「…………確かに、逃げないな……」
「へ!??」
「警戒されて逃げられないように、注意して紳士的に接していたのだが……」
「紳士…………?」
そうかな……
初めて会った時から、キャマバラーデを毒の魔法で倒したり、僕を拷問部屋に連れて行ったり、いつのまにか僕の背後に立っていたり、かなり無茶苦茶していたような気はするけど……
だけど、彼にとっては嬉しい申し出だったらしい。初めて見る無邪気な顔で笑う。
「そうか…………よかった」
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