誰もが我儘な私ではないお方が良かったようなので、悪役の私は残忍な猛将達に手酷く扱われに行きます。戻れ? 絶対に離れるなと脅されているのですが

迷路を跳ぶ狐

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29.あなたと一緒に

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 私を連れて行くテクフィノレク様は、私を案内する間、ずっと無言だった。こちらからお渡しした魔法の道具が動くかは、私が今朝行ったあの訓練場で確認するらしい。

 恐らく彼は、最初から道具のことも私たちのことも、まるで信用していない。わざわざ城の外でするのも、万が一、攻撃の魔法が仕掛けられいた時に城を守るためだ。

 魔物退治に力を貸してもらえなくなった時に困るのは、オーテクルテスファー様たち。だから、この期に及んで不良品なんて渡さないだろう、そう思って怖がらないようにしていたけれど、急に不安になってきた……楽観的に見ない方がいい……

 せっかくあの城を出ることができたのに、殺されるなんてまっぴら!!

 訓練場に出ると、すでにその周りには結界が張られている。そして、多くの魔法使いたちが待ち構えていた。

 それも、誰もが私に恐ろしい目を向けている。テクフィノレク様の部隊の方かな……

 緊張する私に、足元を歩くロズルラト様が言う。

「気をつけろよ」
「え…………?」
「あいつの部隊の奴なんだよ。お前らの領主に見捨てられて怪我をしたの」
「そんなっ…………!」
「もちろん俺たちにとっても、そいつは仲間だ。だが、あいつは部隊の奴らを大事にしていたんだ。俺だってそうだが……部隊ってのは、背中を預ける仲間だからな」
「…………」

 だからテクフィノレク様は、いつも私に怒りの目を向けるのか……

 私は、訓練場に向き直った。

 道具は大きな槍のような姿になっていて、地面に深く刺してあった。

 まるで、恐ろしい罠のような扱いだ。

 思った以上に信用されてない……あれはテクフィノレク様には、私たちが仕掛けた危険なものにしか見えないらしい。

 だけど、あれは結界を強化するための道具のはず。魔力をそそいで動かしてみれば分かることだ。

 私は、一歩前に出た。

「では、私がまずあれに魔力を注いでみます!」
「あなたが?」

 テクフィノレク様は、ひどく難しい顔をして、私を睨んだ。

 そして、私に近づいてくる。

 何かと思えば彼は、魔法で長い杖を呼び出して、私の首元に向けた。

「あっ……」

 さすがに恐ろしいけど、下手に動いたら、きっと首を切り落とされる。

 私は、その場で微動だにせずに、じっと彼を睨みつけていた。

「…………そこまで信用なさっていないなら、なぜ私をここに連れて来たのです?」
「当然、あれと一緒にあなたを破壊するためです」

 テクフィノレク様がそう言うと、彼の周りにいた魔法使いたちが一斉に私に杖を向ける。今にも攻撃の魔法が撃たれそうだ。これだけの数の魔法使いから一斉に魔法を撃たれたら、私なんて一瞬でバラバラだ。

「おい!! テクフィノレク!!」

 怒鳴って、ロズルラト様は私の背丈より大きな虎に姿を変え、私とテクフィノレク様の間に立つ。

「ロズルラト様!?」

 驚く私に振り向きもせず、彼はテクフィノレク様を睨みつけた。

「なんでいきなりこいつを殺す話になるんだ!?」
「退きなさい。馬鹿な虎が、もう飼い慣らされたのですか?」
「ふざけんな!! こいつはまだ何にもしてねえ!! それなのにいきなり殺すお前の方がおかしいに決まってるだろ!!」

 私の前に立って、威嚇するように唸る彼は、ずっとテクフィノレク様を睨んでいた。

 そんなことをしてくれる方がいらっしゃるなんて思っていなかったから……嬉しくなってしまう。

 だけど、こんな時に喜んでいる場合じゃない……だって私は、彼らが私たちが渡した道具のことで言い争うのは嫌だし、殺されるのも嫌だ。

「ロズルラト様……ありがとうございます。私は、大丈夫です」
「勘違いするな! お前のためじゃない!! 俺が、こいつのやり方が気に入らないんだ!!」
「……でしたら、しばらくの間、耐えていていただけませんか? 今は、彼と話がしたいのです」
「馬鹿かお前! ロクデラッドがやったことはロクデラッドが悪いんだろ! それなのに、こいつはお前を気に入らないってだけで殺す気だ!!」
「大丈夫です」

 言って私は、ロズルラト様の前に出て、テクフィノレク様と対峙した。

「最初から、そういうつもりだと思っていました」

 向き合って言うと、テクフィノレク様は、恐ろしいくらいに冷徹で、飢えたような笑い声をあげる。

「最初から……? は、ははっ…………あなたは面白い方だ…………それを知っていて、ここまで来たと言うのか…………馬鹿な方だ。ははっ…………」
「…………」
「……あなたをここで切り裂いて、あの連中に送り返す。それが終わったら奴らを滅ぼすっ……!! 領主様の善意に漬け込んで、領主様を蔑ろにしたお前たちをっ……このまま放っておけるものか!! あの男は今も平然と搾取を続けているっ! あの男は、必ず滅すっっ!!」
「……それは、竜の領主様のご意思ですか?」
「黙れ!!」

 彼の杖に魔力が宿る。

「てめえっ……!!」

 飛び出していこうとするロズルラト様を、私は飛びついて止めた。

「落ち着いてください!!」
「お前っ……! 殺されてもいいのか!?」
「ええ。どうぞ。できるなら」

 私は、テクフィノレク様に向き直った。

 すると、ロズルラト様がますます私を怒鳴りつける。

「はあ!!?? お前!! 何言ってるんだ!」
「テクフィノレク様はあれだけ私たちを疑っているようですし……いきなり魔法を撃って私を殺したりはしません」
「なんでだよ! 余計にぶっ殺されるかもしれないんだぞ!!」
「だって、全く信用できない女と魔法の道具……そんな危険なもの、いきなり破壊できないはずです。毒の魔法が巻き散るような仕掛けでもしてあったら大変でしょう?」

 彼は、私のこともスパイではないかと疑っているはず。私の意志など関係なく、私には魔法がかけられているかもしれない。そんなものに、怒りに支配されたとは言え、不用意に魔法を放つなんてことを、聡明な彼はしないだろう。

 腹は立てていても、彼はどこかでひどく冷静だ。そうでなければ、昨日私に手を貸したりはしない。あれは恐らく、時間に遅れそうなのを見兼ねてのことだ。領主様と部隊を大切に思う彼なら、城に戻る時間が遅くなることは避けるはずだから。
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