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36.まだ無理です!
しおりを挟むフィーディ・ヴィーフは、公爵家の四男で、小さい頃は、王国と公爵家のために尽くせと、そんなことを言われて育った。結局出来の悪い俺は、そんな風にはなれなかったが、王国滅亡なんて、考えたくない。それくらいなら死罪でいいと言っているだけだ。
ヴァグデッドは昔、王国で暴れた竜で、海辺近くの街で、魔法使いの部隊を相手に、恐ろしい魔法を操り、部隊を戦闘不能に至らしめたらしい。王家は彼の扱いにほとほと困り果てていたが、今ではルオンの管理するこの城で、静かに暮らしている…………って聞いている。
もしも彼が力を取り戻して、王国に飛んでいったら……どうなるんだろう。そんなことは考えたくもない!
ど、どうしよう……
やめてくれって言う?
いや、無駄だ。だって、何度そう言っても、やめてくれないどころか、俺を脅し始めてるんだから。
じゃあ、ヴァグデッドを置いて逃げる? 絶対にすぐに追いつかれそうだ。
それなら、ウィエフに全部話して、魔法を強化する杖を作るのをやめてもらう? ……あいつが聞くはずないいい……
この際、事態を見守ってみる? ……絶対にダメだ!! 見守ってる間に王国滅びる!
そうだ!
ルオンに話してみる! これだ! ……でも、それを話したら、ヴァグデッドとルオンで死闘になってしまうのでは!? そうでなければ、ヴァグデッドが処分されてしまうのかもしれない。
それも嫌だ……ヴァグデッドが俺のせいで傷つくのも嫌だーー……
だめだ。混乱してて、いい選択肢がまっったく思いつかない。
オロオロしてる俺に、ヴァグデッドはにーっこり笑う。
「これで俺のために森に行く必要はなくなっただろ? 分かったら、危ないから大人しく城にいて」
「…………」
いられるわけがない。
だって、ヴァグデッドを一人で行かせたら、俺の命を狙っているウィエフを殺して、王国を滅ぼしに飛び出していってしまうかもしれないんだ。さすがにそれは駄目だ!
背を向けるヴァグデッドの羽を、俺は、咄嗟に握って止めた。
「フィーディ……?」
呑気な顔で振り向きやがって……そんなの聞いてしまったら、もう手を離すわけにはいかない。
「あ、あの…………ヴァグデッド。聞いてほしい……俺は、別に生きていたいわけじゃないんだ。その……恐ろしい理由でなかったら、死んでもいい…………いった!!!」
ぐいっと、強く抱き寄せられる。その金色の目で見下ろされただけで、恐ろしくなる。
どうやら、また怒らせてしまったらしい……
「フィーディは、そんなに怖い目に遭いたいんだ?」
「へっ……!? いや、ちょっ……! お、おかしくないか!? お、俺は怖い目にだけはあいたくないと言っているんだぞ!」
「今度そう言うこといったら、酷い目に遭わせるって言っただろ?」
「ひっ……」
何!? なんだこれ……な、なんか尻の辺りがむずむずする!?? し、尻撫でられてる!? なんで俺が尻撫でられてるの!?
「あ、あ、あのっ……ヴァグデッド……? こ、こういうことは、俺はちょっと……ひゃっ!!」
「初めて?」
……何がですか?
初めて……? 何がっっ!!??
俺と彼の服が擦れあって、彼が動くたびに、肌まで刺激されてるみたいだ。
抱きしめられたまま、目だけで自分の下半身を見下ろすと、ヴァグデッドの手が、俺の尻の方に回っていた。
……せくはら?
「ひゃっ……お、おいっ……何して……」
「……可愛い……」
「…………っ!」
頭に何か触れてる。今度は手じゃない。何!? く、くちびる!?
俺は他人に近づかれることが苦手だ。そもそも、そんなことをされることはなかったので、心配する必要もなかった。
それなのに、今は体を密着させられて、頭に顔を埋められてキスされて、その上、し、尻を撫でられてる!??
む、無理……なんだこれ!?? 俺がこんなことされるなんて聞いてない!!!
「あ、あのっ……ヴァグデッド……」
「どうしたの? やりたくなった!?」
「…………っ!!??」
なるわけない。
それなのに、見上げた相手の笑顔で、なんだか胸が熱くなる。体まで熱い。なんだこれは。緊張しているのか? それとも、ずっと抱きしめられているから熱いだけか!?
やるって、何をだよ!?? 尻撫でてるけど……まさか、そこを使うってこと!? 無理…………絶対に無理っ……!
「あ、あ……あのっ……る、ルオンさまが見てるんじゃないかなーって……」
恐る恐る、唯一自由だった手を動かして、階段の方を指差す。指なんかガタガタ震えているし、声も消えそう。だって全部嘘だから。ルオンが見ているなんて、この場を逃げ出すためだけの嘘だから! だけどいきなりこんなの無理だっ……! キスだってまだしてないのに!!
こんなのに騙されるわけないかと思ったけど、彼は、俺の指差した方に振り向いてくれた。
「は? なんだよ、のぞき?」
そう言って、彼が振り向いた隙に、全身の力を振り絞って、俺はヴァグデッドを突き飛ばす。
「ご! ごめんなさい! まだ無理ですーーーーっっ!!!!」
叫んで、俺は逃げだした。
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