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52.その二人の間に挟まれたら、怖い

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 ルオンの使い魔の案内で、王子を探して森の中を走る。王子は護衛を何人も引き連れていたし、多分無事だと思うのだが……

 ティウルはとにかく王子が心配なのか、ルオンより先を走っていた。

 走る間に出てきたものは、ウィエフとヴァグデッドが魔法で爆破してくれる。爆風を浴びて木々が揺れる中走っていくと、幾分も行かないうちに、人影が見えてきた。王子殿下と、数人の魔法使いたちだ。
 彼らは、周りの木々と同じくらいの高さの、巨大な虫のような形をした魔物たちに囲まれていた。

 王子の周りにいる護衛の魔法使いたちは、森に入って行った時より、人数が減っている。魔物にやられてしまったのだろうか。
 残っている魔法使いたちも、魔物たちに囲まれて腰がひけてしまっているようだ。

「ひっ……! も、もうだめだっ……!」

 怯えて腰を抜かした魔法使いに、魔物が飛びかかろうとしている。

 援護にしようにも、ここからではまだ距離がある。かなり飛距離のある魔法でないと無理だ。

 するとルオンが、俺たちを先導していた使い魔を強く光らせた。
 強い魔力で光り輝くそれに惹きつけられたのか、魔物がルオンに振り向く。

 標的をルオンに変えようとした魔物に、激しい光の弾が飛んでいき、その体を貫く。巨大な魔物は、恐ろしいくらいに簡単に消えてしまった。ウィエフの魔法だ。

 さすがは王城で魔法を教えているだけある。狙いも威力も桁違いだ。
 ティウルの魔法も、目を見張るようなものだったけど、ウィエフのそれは、ただ魔力があればできるものじゃない。ずば抜けた魔法の才能の成せるわざだろう。

 ルオンがウィエフに振り向き微笑んだ。

「よくやった。ウィエフ」
「ルオン様っ……!」

 ウィエフは目を輝かせているが、すでにルオンは王子の方に走り出している。

「殿下!! ご無事ですか!??」
「る、ルオンかっ……! 貴様!! お、遅いぞ!! 何をしていた!! グズがっ……!」

 震えながらルオンを怒鳴りつける殿下に向かって、ウィエフが先ほど魔物を一撃で葬りさった時と全く同じ威力の魔法を放つ。

 輝く光の弾は王子の頬を掠めて、近くの地面に着弾し、その周りの地面をごっそり消滅させてしまった。明らかに、王子を狙った一撃だ。

 けれど、王子は無傷。わざと外したのかと思ったけど、違ったみたい。

 いつのまにか、王子の背後には、ティウルが立っている。護衛たちが腰を抜かす中、ティウルだけが王子に向かって飛んで、彼を守ったんだ。

 ティウルにとっては、キラフェール殿下は大事な人。それに手を出したウィエフに、ティウルはひどく恐ろしい目を向ける。

「ウィエフ様あぁーー……? おいたがすぎるんじゃないんですかあああーー? 殿下を狙うなんて」
「私が? 殿下を? 何を馬鹿なことを。魔物がいたから焼き払っただけです。あなたがそうして庇わなくても、私は殿下を殺したりしません。生意気な口を聞く下衆でも、こんなところで殺せば、ルオン様に迷惑がかかりますから」
「魔物おぉーーー?? それ、どこにいるんですか? 僕には、あなたが怒りに任せて殿下を狙ったように見えましたけど?」
「あなた程度の魔力では、見えないだけです」
「……そおーーーですかぁーーー、僕の魔法も、まだまだだな……ついうっかり暴走させて、ムカつく奴の頭を吹っ飛ばしちゃいそうですーー……」

 ティウルとウィエフは、ビクビクしている王子を挟んで、睨み合っている。

 分かります。殿下。その二人の間に挟まれたら、怖い。俺だって絶対に嫌だ。このままでは、殿下が危ない。

 俺はティウルの方を、ルオンはウィエフの方を宥め始める。

「て、ティウル……落ち着いてくれ……俺たちは、キノコを探しにきたんだろう」
「だってフィーディ!! あいつ、絶対に殿下を狙ったよ!! 僕の未来の伴侶なのに!!」
「そ、それは分かっている。だが、やめてくれ」

 なんとか説得したいが、ティウルは全く聞いていない。今のうちに消しておく、なんて言い出した。

 ウィエフの方は、ルオンに「お前は殿下の護衛だろう」と言われて、言い返している。

「ルオン様! あの男は、ルオン様を侮辱したのです!! あんなゲスを庇うティウルも、私は許すことができません!」
「やめろ。今は、殿下を守ることが私たちの役目だ」
「ルオン様……」

 シュンとするウィエフは、項垂れたかと思えば、ティウルに振り向く。
 二人は一触即発といった様子で、ティウルも、今にもウィエフに魔法を放ちそう。

「フィーディがこう言ってるし……キノコ探す方が先だから、さっさと探しに行きましょうかー? ウィエフ様! せいぜい後ろに気をつけてくださいね!」
「そちらこそ。ぼーっとしている間に、魔物に頭を吹き飛ばされたりしないように」
「……」
「……」
「…………あ?」
「なにか?」

 二人とも……もう俺たちが何を言っても聞いてくれそうにない。

 俺は、恐ろしい空気の中で酸素が吸えなくなりそうだ。せめてヴァグデッドを抱っこしている腕にぎゅうっと力を入れると、少し落ち着いた。
 ヴァグデッドはこんな状況でも平然として、俺を見上げてくる。

「……人の姿になっていい?」
「ダメです……お、俺……今にも息絶えてしまいそうなんだ」
「なんで俺だけここなの!?」
「……頼む。そのままそばにいてくれ……」
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