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72.反逆ではありません
しおりを挟む俺は全く心配いらないと思うのだが、ティウルは不安らしい。真剣な顔で身を乗り出してくる。
「そう言うわけだから、フィーディ。殿下を僕に振り向かせるいい方法を一緒に考えて欲しいんだ」
すると、俺より先に、ヴァグデッドが呆れたように言う。
「そんなの、自分で考えればいいだろ? フィーディは俺と休日を過ごすの! お前は早く殿下のところに行けよ」
「フィーディはいいって言ってくれたもん。殿下と僕がうまくいくいい方法が見つかったら出ていく」
「…………じゃあ考えるから。いい方法見つかったら、すぐに出て行ってよ!」
「うん! もちろん!!」
勝手に話が決まってしまい、ティウルが俺に向き直る。
「じゃー、フィーディ!! まずは殿下に僕の惚れ薬を飲んでもらう方法だけど……」
彼がそこまで言いかけたところで、コンコンと、ドアをノックする音が聞こえた。そしてすぐに、やけに高圧的な声が聞こえてくる。
「開けろ! フィーディ・ヴィーフ!! すぐに開けるんだ!!」
この声は、キラフェール殿下? 何で殿下までこの部屋に来るんだ……
その声を聞いたティウルは、なぜか俺の座る椅子の後ろに隠れてしまう。
「ど、どうしよう……フィーディ! 殿下だ!!」
「うん……それは分かる……な、なぜ隠れる必要があるんだ?」
「だって、まだ殿下には会えないよ!! まだ……殿下が何で僕を避けるのかも分かっていないし……今会って、冷たい態度なんかとられたら、殿下に、僕のことをどう思っているのか包み隠さず話したくなる回復の薬を飲ませちゃいそう!」
「それは回復の薬ではないだろう!」
「頼むよフィーディ!! 匿って!!」
「え……ええ……」
困ったな……できることなら、二人で話し合ってほしいのだが。
ヴァグデッドが「追い出すなら手伝うよー」と言い出すが、追い返してしまうのも、なんだか気の毒だ。
なにより、ティウルが殿下にそんな訳のわからないものを飲ませてしまうのも困る! 彼らには、ちゃんとうまくいってもらわなくては。
「わ、分かった……だけど、そこにいたらすぐに見つかる。別のところに隠れた方がいい……」
「ありがとう! フィーディ!!」
「えっと……ベッドの下とか……」
「そんな狭いところに入るのは嫌だし這ってる途中で薬の瓶が割れちゃいそうだし服が汚れちゃう! だいたい、殿下に見つかったらどうするんだよ!!」
「……それなら二人で話した方が……」
「僕、姿を消してここにいるから!! フィーディ!! 殿下から僕を避ける理由、聞き出しておいてね!!」
「え、ええ!? そ、そんな重大な頼み事をいきなりされても困る!!」
そんな言い合いをしていると、ドアがバタンと乱暴に開かれた。どうやら、待ちきれなくなって、勝手にドアを開けたらしい。短気すぎる。
勝手に部屋に入ってきたキラフェール殿下は、ティウルを抱き寄せて、俺のことを睨みつけた。
「貴様!! フィーディ・ヴィーフ!! ティウルを監禁していたか!!」
「は!?? な、何を言っているのですか!! 俺は何もしていません!!」
「黙れっ……! ティウルを人質にとり、何をするつもりだった……? 狙いは私の命か!!」
「違います! そんなのいらないと言ったはずです! 俺は、ティウルの相談に乗っていただけです!!」
「相談?」
殿下がティウルに振り向くと、ティウルは首を横に振って説明してくれた。
「殿下……本当に違います……フィーディは何もしていません。あの……僕……」
言い淀む彼に、キラフェール殿下は俺に向けるのとは違う、優しい顔をしてたずねた。
「ティウル……何があったんだ? 反逆を企むその男に何かされたのなら、すぐに言うんだぞ」
「殿下…………」
どうやら王子には、すっかり反逆者だと誤解されてしまっているらしい……
ティウルが、「フィーディはそんなことしません」と言ってくれているが、王子はあまり聞いていない。くそっ……! なぜこうなるんだ!!
そして、王子と一緒に部屋に入ってきたウィエフがつまらなさそうに言った。
「……殿下。ティウルが無事なようで、何よりです。そろそろ部屋に戻りましょう」
「ウィエフ……お前は黙っていろ!」
殿下がウィエフを睨みつけて、早速またギスギスした空気になってきた。
なぜ俺の部屋で争いを始めるんだっ……せっかく平穏な休みを過ごせると思ったのに!
俺としては、ウィエフに賛成で、早く出ていってほしい。こんな面倒くさくて怖い殿下の相手なんて嫌だ!!
しかし、反逆者だと誤解されたまま追い返すのも怖いっ……!!
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