全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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1.人嫌いなので、地下牢には来ないでください


 体が痛んだ気がして、僕は、自分の腕を見下ろした。いつのまにか血が流れている。今朝の拷問の傷だろう。

 ここは、小さな領地を治める領主の城の、暗い地下。そこにある、部屋とは名ばかりの牢屋で、小さな魔法の明かりだけを頼りに、僕は、作業を続けていた。

 僕はトルフィレ・ホーイル。
 領主の息子だったけれど、幼い頃から、両親は可愛い兄弟たちに夢中。僕はいつも邪魔者扱いされていた。

 それでも、なんとか認められたくて、魔法や剣技、領地経営なんかも学んだけど、僕に回ってくるのは兄弟の尻拭いばかり。そして、何か起これば全て僕が悪いと言われて、激しい折檻を受けた。

 そしてそれは、僕が大人になっても変わらなかった。

 お前は邪魔者だと言って毎日僕に厳しい罰を与えていた僕の一族は、領地では搾取を繰り返して好き放題遊び呆けた挙句、それまでの悪事がバレそうになって、逃げてしまった。

 一人だけ城に取り残された僕のもとには、父上の知り合いだというクヴィーディス家の一族がやってきた。彼らは、僕の家族を逃す代わりに、この領地を好きにしていいと言われたらしい。
 城は彼らのものになり、僕は、逃げた悪徳領主の息子として、それまでの全ての悪評を背負わされることになった。

 今日も朝から「悪徳領主の息子トルフィレが、城で働く魔法使いに嫌がらせをした!」と言われて、地下牢に入れられて、罰と称して拷問された。

 その後は暗い牢に放置され、今に至る……

 何でこんなことになるんだ……僕は何もしてないのに……
 そもそも、僕に嫌がらせをされたと言った男に、僕は近づいてもいない。
 何度も騙され、痛い目にばかりあった僕は、他人が怖くなっていて、できるだけ人には会いたくないんだ。

 体にはまだ、拷問でできた傷の痛みが残っている。
 魔法で回復したいところだけど、それより先に、魔物と戦うための道具を作っておきたい。

 微かに使える魔力で、魔力を糸のように細くしたものを編んでいく。出来上がっていくのは、魔力でできた手のひらに乗るくらいの大きさの鳥籠。魔物を捕まえる時に使うものだ。

 傷の方は、もう少し休めば回復するかな……

 こうして地下牢にいる時だけが、僕が落ち着けて、回復もできる時間だ。

 いつも仕事をする時間になれば牢から出されるから、まだしばらくは誰も来ないはず……その間に、全部終わらせておきたい。

 だけど、部屋の扉の向こうから、こっちに近づいてくる足音が聞こえた。

 やば……来たか……

 いつも訳の分からない言いがかりをつけては僕を鞭で打つディラロンテと、その取り巻きたちだろう。毎日のことだから、足音だけで分かる。

 慌てて、僕は作っていた鳥籠が見つからないよう、魔法でもっと小さくした。せっかく用意した、魔物を捕獲するための道具なのに、見つかったら必ず壊される。

 魔法の明かりも消して正座して、心の準備をする。あいつらが来る時は、僕を酷く痛めつける時だからだ。

 来なくていいのに……何で来るんだよーー……

 少し待つと、部屋の扉が開いた。

 そこに入ってきたのは、僕の家族を逃す代わりにこの城の主になったクヴィーディス家のアフィトシオと、その息子のディラロンテ、彼らが連れてきた魔法使いのコンクフォージと、平民の剣士ブラットル。あと数人の取り巻きたち。

 真っ暗な中にいたのに、急に明るいランタンが近づいてきて、僕は、気分が悪くなりそうだった。

 ディラロンテが俺に近づいてくる。手には、水の入ったコップを持っていた。

「……トルフィレ……反省しましたか?」
「……」

 反省って……
 僕がコンクフォージに嫌がらせをした反省のことを言っているんだろうけど、僕はそんなことしていない。

 僕を見下ろしているコンクフォージは、ずーっとニヤニヤ笑っている。彼は僕に怪我をさせられたと言って、ディラロンテに泣きついたらしい。
 おかげで僕は、今朝から暗い地下牢で拷問されたんだ。

 反省どころか、それを聞くと吐き気がしそうだったけど、僕は頷いた。ここで頷かなかったら、また罰が増えて、この連中を喜ばせる時間が長くなるだけだからだ。

 ディラロンテは、満足げに頷く。

「そうですか……ああ、よかった……やっと認めてくれましたか……私も、こんなことをするのは心が痛みます。何しろ君は、父上の親友の一番の自慢の息子ですから」

 気色悪い嫌味を言って、ディラロンテは僕にコップを差し出した。

「喉が渇いたでしょう?」

 中には透明な液体が入っている。多分、ただの水じゃないんだろうけど、ずっと飲まず食わずだった僕には、そんなことを考える余裕すらなかった。
 受け取ったものを飲み干す。するとその瞬間、喉に焼けるような痛みが走った。毒入りだ。

「うえっ…………」

 口に入れたものと、腹の中にあったものを全部吐いてもがき苦しむ僕を見て、ディラロンテの周りにいた奴らが悲鳴をあげる。

「貴様っ……! ディラロンテ様から頂いたものを吐き出すとはっ……!」
「全く反省していないな……」
「失敗ばかりの役立たずを、ディラロンテ様が罰してくださっているのに……教えを乞うどころか吐き出すなんて……」
「お前一人のせいで、みんなが迷惑しているのに……」
「領主の一族だからって、いい気になってるんですよ!! こいつの一族なんて、リゾートの屋敷で隠居して遊び呆けているだけのお荷物だ!」

 彼らの言うとおりだ。

 領地を放り出して、民たちから吸い上げたもので好き放題した挙句、魔物対策をまるでせずに領地を魔物を溢れさせた僕の一族は、それまでしていたことが王家の耳にまで入りそうになり、金を持って逃げた。

 代わりに領地を守っているのが、ディラロンテの一族。
 だけど、それは僕の一族がディラロンテの一族になっただけで、何も変わらない。小さな領地の暴政は今も続いている。

 暴虐なことをしているのは逃げた領主の息子だと、ディラロンテたちが吹聴していることも、僕は知っている。
 おかげで街に出ても、ここと変わらない視線が向かってくる。
 もう人には会いたくないーー…………

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