全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
7 / 96

7.出かける前に


 なんとか説得できないかと試みるけど、ロティンウィース様は、僕の手を握って、街の方に歩き出す。

 本当に行く気じゃないよな!?? 僕だけじゃ、王子を守り切るなんてできない。だって、繰り返し痛めつけられて、僕の体は弱りきっている。魔物と戦うのもやっとなんだ。

 周りの護衛達も止めろよ、と思うが、彼らは止めるどころか、ロティンウィース様に何か耳打ちすると、彼のもとから去っていってしまう。残ったのは、未だに睨み合いをしている猫と小さな竜だけ。

 え……? え? まさか、本当にこれだけで行く気じゃないだろうな!

「あ、あの…………で、殿下……」
「どうした? トルフィレ!」
「……ご、護衛の方は……いらっしゃるのですよね……?」
「いるぞ。アーソ、フーグ!」

 彼が呼ぶと、猫のフーウォトッグ様と、小さな竜のアンソルラ様が返事をする。それだけ。他にいた人たちはすでに誰もいない。

「ご、護衛の方は、ふ、二人……ですか?」
「ああ。二人だ。全く問題ない。二人とも、一人でも強力な魔物を薙ぎ払える。それに何より……」

 殿下は、僕を見下ろしてにっこり笑う。

「俺とトルフィレがいるんだ! むしろ二人で十分だな!!」
「……えっと……」

 なぜそこに僕が肩を並べられることになってるんだ……

 なんとかして止めたい僕の手を、ロティンウィース様は強く握って歩いて行く。そして、さっきより幾分、静かな口調でたずねてきた。

「……トルフィレ……武器はどうした?」
「え……?」
「見たところ、何も持っていないようだが……丸腰か?」
「え、えっと……武器は……なくて……」

 取り上げられているからな……ディラロンテたちに。
 悪徳令息にそんなものを持たせるなんて危険すぎる! と言うのが、ディラロンテたちの言い分だ。

 武器なしで魔物と戦うことが危険なことくらい、僕にも分かる。だから、魔物退治に行った時にこっそり手に入れたものを、街にある武器を売る店で唯一僕の話を聞いてくれる人に預けてある。
 常に自分で管理できればよかったんだけど、そんなものを持って城に帰れば、また残虐なことを企んでいるんだろうと言いがかりをつけられ、拷問される。
 だけど、街でも僕は悪徳領主の息子として憎まれているから、武器を渡してもらえるのは、その人が店員になっている日だけ。それはまだ、五日先だ。だから、今は武器を持てない。

 武器がなくても、一応魔法があるし、今日はディラロンテたちの監視もない。魔法と、後は森で取れる魔力の素材で、簡単な武器くらいなら自分で作れる。

「……ぶ、武器なら……なんとかなります」
「そうか………………」

 そう言ったロティンウィース様の声が、微かに辛そうに聞こえた気がした。
 だけど、彼はすぐに笑顔で僕に振り向く。

「さすがは俺に勝った男だ! 頼もしいぞ!!」
「え、えっと……ぼ、僕、あの……」
「どうした? トルフィレ」
「あの……僕、殿下に勝っていないのですが……」
「……」

 ロティンウィース様は、黙ってしまう。僕が何を言ったのか、分からなかったらしい。

 だけど、僕は殿下に勝っていない。あの時敗走したのは僕たちで、僕は殿下の魔法を食らって倒れ、確かに負けたんだ。

 それなのに、ロティンウィース様は微笑んで言った。

「あれは、トルフィレの勝ちだ。俺の方は、周りに護衛達がいた。トルフィレは一人で俺たちに向かってきただろう。結果、俺の仲間は魔力を失ったが、対するトルフィレのパーティは無傷だったじゃないか」
「パーティ?」

 もしかして、あの時一緒にいたディラロンテ達のことか? 確かに彼らは無傷だったけど、彼らは戦ってないんだから当然だ。

「……た、確かにそうですが、僕と一緒にいた彼らは……最初から戦っていませんし……そ、それにっ……! あっ……あの時は……強力な魔物が出て、殿下のお連れの方々は、それと戦って魔力を失ったので……僕が勝ったわけでは…………」
「トルフィレは、確かに俺の魔法の前に倒れたが、魔物も倒し、パーティも守り抜き、それに……俺の仲間を助けてくれただろう?」
「た、助けた……? ぼ、僕が?」
「回復の薬をくれて、回復の魔法もかけてくれたではないか」
「…………た、確かにしましたが……それは、僕でなくてもできました……」
「そんなことはない。魔物を倒した後、トルフィレは俺の仲間を全て助けてくれた。一対一の勝負では、確かに俺が勝ったが……」
「……」
「パーティを無傷で守りきったお前の勝ちだ」

 意味がわかりません……僕といたのは、仲間じゃないし……僕のせいで怪我をしたと言って喚いていたんだけどな……

「トルフィレのおかげで、俺の仲間は助かった。礼を言いたかったんだ!」
「……」
「また会えるなんて、今日は祝いだ!! 食事をしに行こう!!」
「へ!? でも、あの……その……ま、魔物退治は……??」
「もう夜だ。こんな時間に出発はできないだろう? 危険なだけだ」
「………………」
「それに、出かける前に体を回復させた方がいい」
「で、殿下っ……お怪我をされているのですか!?」
「……俺じゃない。トルフィレだ」
「え……ぼ、僕?」
「…………トルフィレの体はひどく弱っている。魔物と戦える状態じゃない。それに、毒も回っているようだ」
「な、なんで……そんなこと…………」

 僕が驚いていると、殿下はまた僕の手を強く握る。
 もしかして、さっきからずっと僕の手を握っていると思ったら、そんなこと調べてたのか? どうりで殿下の手から魔力を感じるわけだ。
 体がなんだか暖かい光に包まれたかと思えば、ふわっと軽くなったような気がした。ロティンウィース様の回復の魔法だ。

 彼は、僕に微笑んだ。

「応急処置だ……トルフィレ……今日はゆっくり休むぞ!」
「で、でもっ……」
「トルフィレは、飯は何が好きだ!?」
「へっ……? め、めし? めし……食べ物!?」
「ああ。食べ物だ!」
「え…………えっと……食べられるもの……です……」
「……」

 ロティンルート様は、黙って僕をじっと見ていた。
 しまった。ふざけているように聞こえたんじゃないか!? 僕はそんなつもりない。心底そう思っているからそう言ったのに!!

あなたにおすすめの小説

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。