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7.出かける前に
なんとか説得できないかと試みるけど、ロティンウィース様は、僕の手を握って、街の方に歩き出す。
本当に行く気じゃないよな!?? 僕だけじゃ、王子を守り切るなんてできない。だって、繰り返し痛めつけられて、僕の体は弱りきっている。魔物と戦うのもやっとなんだ。
周りの護衛達も止めろよ、と思うが、彼らは止めるどころか、ロティンウィース様に何か耳打ちすると、彼のもとから去っていってしまう。残ったのは、未だに睨み合いをしている猫と小さな竜だけ。
え……? え? まさか、本当にこれだけで行く気じゃないだろうな!
「あ、あの…………で、殿下……」
「どうした? トルフィレ!」
「……ご、護衛の方は……いらっしゃるのですよね……?」
「いるぞ。アーソ、フーグ!」
彼が呼ぶと、猫のフーウォトッグ様と、小さな竜のアンソルラ様が返事をする。それだけ。他にいた人たちはすでに誰もいない。
「ご、護衛の方は、ふ、二人……ですか?」
「ああ。二人だ。全く問題ない。二人とも、一人でも強力な魔物を薙ぎ払える。それに何より……」
殿下は、僕を見下ろしてにっこり笑う。
「俺とトルフィレがいるんだ! むしろ二人で十分だな!!」
「……えっと……」
なぜそこに僕が肩を並べられることになってるんだ……
なんとかして止めたい僕の手を、ロティンウィース様は強く握って歩いて行く。そして、さっきより幾分、静かな口調でたずねてきた。
「……トルフィレ……武器はどうした?」
「え……?」
「見たところ、何も持っていないようだが……丸腰か?」
「え、えっと……武器は……なくて……」
取り上げられているからな……ディラロンテたちに。
悪徳令息にそんなものを持たせるなんて危険すぎる! と言うのが、ディラロンテたちの言い分だ。
武器なしで魔物と戦うことが危険なことくらい、僕にも分かる。だから、魔物退治に行った時にこっそり手に入れたものを、街にある武器を売る店で唯一僕の話を聞いてくれる人に預けてある。
常に自分で管理できればよかったんだけど、そんなものを持って城に帰れば、また残虐なことを企んでいるんだろうと言いがかりをつけられ、拷問される。
だけど、街でも僕は悪徳領主の息子として憎まれているから、武器を渡してもらえるのは、その人が店員になっている日だけ。それはまだ、五日先だ。だから、今は武器を持てない。
武器がなくても、一応魔法があるし、今日はディラロンテたちの監視もない。魔法と、後は森で取れる魔力の素材で、簡単な武器くらいなら自分で作れる。
「……ぶ、武器なら……なんとかなります」
「そうか………………」
そう言ったロティンウィース様の声が、微かに辛そうに聞こえた気がした。
だけど、彼はすぐに笑顔で僕に振り向く。
「さすがは俺に勝った男だ! 頼もしいぞ!!」
「え、えっと……ぼ、僕、あの……」
「どうした? トルフィレ」
「あの……僕、殿下に勝っていないのですが……」
「……」
ロティンウィース様は、黙ってしまう。僕が何を言ったのか、分からなかったらしい。
だけど、僕は殿下に勝っていない。あの時敗走したのは僕たちで、僕は殿下の魔法を食らって倒れ、確かに負けたんだ。
それなのに、ロティンウィース様は微笑んで言った。
「あれは、トルフィレの勝ちだ。俺の方は、周りに護衛達がいた。トルフィレは一人で俺たちに向かってきただろう。結果、俺の仲間は魔力を失ったが、対するトルフィレのパーティは無傷だったじゃないか」
「パーティ?」
もしかして、あの時一緒にいたディラロンテ達のことか? 確かに彼らは無傷だったけど、彼らは戦ってないんだから当然だ。
「……た、確かにそうですが、僕と一緒にいた彼らは……最初から戦っていませんし……そ、それにっ……! あっ……あの時は……強力な魔物が出て、殿下のお連れの方々は、それと戦って魔力を失ったので……僕が勝ったわけでは…………」
「トルフィレは、確かに俺の魔法の前に倒れたが、魔物も倒し、パーティも守り抜き、それに……俺の仲間を助けてくれただろう?」
「た、助けた……? ぼ、僕が?」
「回復の薬をくれて、回復の魔法もかけてくれたではないか」
「…………た、確かにしましたが……それは、僕でなくてもできました……」
「そんなことはない。魔物を倒した後、トルフィレは俺の仲間を全て助けてくれた。一対一の勝負では、確かに俺が勝ったが……」
「……」
「パーティを無傷で守りきったお前の勝ちだ」
意味がわかりません……僕といたのは、仲間じゃないし……僕のせいで怪我をしたと言って喚いていたんだけどな……
「トルフィレのおかげで、俺の仲間は助かった。礼を言いたかったんだ!」
「……」
「また会えるなんて、今日は祝いだ!! 食事をしに行こう!!」
「へ!? でも、あの……その……ま、魔物退治は……??」
「もう夜だ。こんな時間に出発はできないだろう? 危険なだけだ」
「………………」
「それに、出かける前に体を回復させた方がいい」
「で、殿下っ……お怪我をされているのですか!?」
「……俺じゃない。トルフィレだ」
「え……ぼ、僕?」
「…………トルフィレの体はひどく弱っている。魔物と戦える状態じゃない。それに、毒も回っているようだ」
「な、なんで……そんなこと…………」
僕が驚いていると、殿下はまた僕の手を強く握る。
もしかして、さっきからずっと僕の手を握っていると思ったら、そんなこと調べてたのか? どうりで殿下の手から魔力を感じるわけだ。
体がなんだか暖かい光に包まれたかと思えば、ふわっと軽くなったような気がした。ロティンウィース様の回復の魔法だ。
彼は、僕に微笑んだ。
「応急処置だ……トルフィレ……今日はゆっくり休むぞ!」
「で、でもっ……」
「トルフィレは、飯は何が好きだ!?」
「へっ……? め、めし? めし……食べ物!?」
「ああ。食べ物だ!」
「え…………えっと……食べられるもの……です……」
「……」
ロティンルート様は、黙って僕をじっと見ていた。
しまった。ふざけているように聞こえたんじゃないか!? 僕はそんなつもりない。心底そう思っているからそう言ったのに!!
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