全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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11.二度と、こんなことはしないでください


 何も知らないコンクフォージは、あっさりと自分の言葉を否定した男に近づいていく。

「お前……なんなんだ? ただの傭兵の分際でっ……!!」

 詰め寄るその男と王子の間に、僕は割って入った。

「ち、近づかないで……ください……無礼にも程があります……」
「なんだと……?」
「……う、うそ……だったんですね……」
「なに?」
「王族が……僕の処罰を望んでいると言うのは…………」
「……何を言っているんだ? 俺たちは確かにっ……」
「お、王家に命じられたふりをするなんてっ…………そっ、そんなことっっ……!! ゆ、許されると思っているんですか? 人の名を語ってっ…………そんなことを殿下がおっしゃったことになるのにっ…………な、なんともっ……思わないのっ………………!?」
「黙れっっ!!!! お前なんかにそんなことを言う権利があると思うのか!? 逃げた悪徳領主のガキがっっ!!!! ここがこんなに汚れているのはお前のせいなんだよっ!! お前はっ……! 一生俺たちのもとで働いていればいいんだ!! 王家だって、それをお望みなんだよ!!」
「…………」

 僕が黙って立っていると、コンクフォージは僕につかみかかってくる。

「お前っ……なぜ行かない!? 魔物と戦うのが怖くなったのか……? ゴミがっっ!! だったら鍛え直してもらうか!?」

 怒り狂うその男の手を、傭兵の姿をした殿下が握る。

「やめろ。許されないことをしているのは、貴様の方だ……」

 静かでありながら、あまりに重いその声を聞いて、コンクフォージは動けないでいるようだった。
 正体には気づいていないようだけど、しばらく黙ってその人を見上げて、やっと我に返ったのか、殿下の手を振り払う。

「な、なんだ…………お前はっ……!!」

 怯えたままのコンクフォージと、僕は対峙した。
 王子がなんでこんなところで身分を隠して僕と歩いているのか、その理由はまだ分からないけど、殿下には殿下の事情があるんだろう。だったら、あまり殿下の顔を見られない方がいい。

 間に入った僕は、顔を上げた。

 コンクフォージと目が合う。この男は、こんな顔をしていたのか……いつも僕は地面に平伏して、踏み躙られるばかりだから、気づかなかった。僕を嵌めた男の顔すら、僕は忘れようとしていたらしい。

「…………二度と、王子殿下が処罰を望んでいるなんて嘘をつかないでください……僕なら、ちゃんと魔物退治に行きますから…………」
「なんだと……?」
「そ、それに、鍛えてもらわなくていいです…………魔物なら、倒せますから……」

 僕は、コンクフォージのいる方に向かって、魔法を放った。すると、路地裏にいた魔物は、僕の魔法に貫かれて消えていく。やっぱりこの路地裏、魔物が多い。王子をこんなところに立たせておくわけにはいかない。殿下を安全なところに連れて行ってから、他に魔物がいないか、見回りをしておこう。

 僕は、殿下に駆け寄った。

「……も、申し訳ございません……こ、こんなところに……連れてきてしまって……」

 頭を下げると、王子は楽しそうに笑う。

「そんなことはいい! 久しぶりに、トルフィレの魔物退治を見ることができた! むしろ礼を言わせてくれっっ!!」
「れ、礼って……な、な、何に……ですか……?」
「……王族を守り、名誉を回復してくれたのだが……まるで自覚がないのか……」
「な、な、なんのこ…………うわああああっ!!」

 急に、体が軽くなった。むしろ、浮いていた。何かと思えば、殿下が僕を抱き上げている。僕の体はまだ、泥でひどく汚れているのに、そんな風に抱っこされて、僕はこれまでで一番焦った。何をされているんだ、僕!!

「で、でんっ……あ、あのっ……! な、何をっ……!」
「その体で走らない方がいい! 俺が連れていく!」
「で、でもっ……と、とにかくおろしてくださいっ……! ぼ、僕、今、泥だらけで……」
「いいから連れて行かれていろ。これはさっきの礼だ!」

 だから何のお礼なの!? そう思って暴れようとしたけど、僕が腕の中で暴れたりなんかしたら、ますます殿下に泥がつく。仕方なく大人しくすると、殿下は満足げに微笑んだ。

 そして、その笑顔を消して、一人残されたコンクフォージに振り向いた。

「貴様…………王族の名を語り人を処罰した罪は、楽に死ぬことすらできないほど重い。覚悟しておけ……」
「な、何を言って…………」
「城で待っていろ。この魔物ばかりの路地裏を貴様が一人で抜けて、無事城まで戻れれば、だが」
「な、なんの話だっ……! 魔物くらいっ……俺がっ……」
「さっきも貴様は、トルフィレに助けられている。まさか、貴様らも自覚がないのか?」
「なんの話だ!! 俺はっ……! おいっ……!」

 叫んだそいつが何か言い終わる前に、殿下は、僕を抱き上げたまま、走っていってしまう。

「えっ……ちょっ……殿下!?」
「本当にここは魔物が多いなーー! あそこにいた魔物は、俺の護衛に処分しておくように伝えておく! だから行くぞ! トルフィレの体を癒すんだ!!」
「えっ……!? え? そ、それは分かったので……自分で走らせてください!」
「ダメだーー!」

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