17 / 96
17.僕を糾弾するべきでは?
王子殿下が、急にそっと優しく触れてきて、僕は、ほとんどパニックに陥っていた。
「で、殿下っ……ど、どうかっ……! あ、あのっ……! ひっ……」
もう限界だ。ドキドキしすぎて、胸が痛い。
その時、扉が開く音がした。そして、二人の男が部屋に入ってくる。一人は、背中に小さな竜の羽があって、真っ黒なマントを羽織った、背の高い男。藍色の、肩につくくらいの長さの髪を、竜の柄の大きなリボンで括っている。
もう一人は、頭に大きな猫の耳があって、肩にかけただけの長いローブの下から長い猫の尻尾を出した、細身の長い茶髪の男性。手にはいくつも書類のようなものと分厚い本、いくつかの新聞を持っていた。
ロティンウィース様も、扉を開けて入ってきた二人に振り向く。そして、ベッドの上で僕を押し倒しているとは思えないくらい、いつもと全く変わらない様子で言った。
「フーグ、アーソ……もう帰ってきたのかー。そっちは終わったか?」
フーウォトッグ様と、アンソルラ様……? もしかして、昨日の猫と小さな竜か? 人の姿になったところ、初めて見た……
多分、猫耳の方がフーウォトッグ様で、竜の羽がある方が、アンソルラ様だろう。
フーウォトッグ様は、ロティンウィース様に「こちらは終わりました」と答えるけど、ベッドの上の僕たちを見て、だんだん顔色が変わっていく。
……まずいんじゃないか……? だって、僕はこのあたりで評判最悪のクソ領主の息子。しかも、一度殿下に襲いかかっている。そんな奴が、一緒に魔物退治をする従者としてそばに控えているだけならともかく、ベッドの上で殿下とこんなことしてるなんて。
王家に仕える彼らにしてみれば、とんでもない事態のはず。王家に対する不敬で、僕は処刑されてもおかしくないんじゃ……
慌ててロティンウィース様から離れようとするけど、彼は僕から離れてくれない。それどころか、僕のことをますます強く抱きしめる。
殿下は分かってないんだ。僕は本当は、殿下にこんな風に抱きしめられていい奴じゃないんだ。
「あ、あの……で、殿下っ……! ど、どうかっ……離してくださいっ!! い、いけませんっっ!!」
「嫌だ。抱きしめるのは、いいんじゃないのか?」
「い、いいですけどっ……!!」
僕とこんなことしてたら、王家の評判にまで関わる。王族に勘違いで襲いかかったクズなんか、王子が抱きしめてちゃダメだ。
それなのに、ロティンウィース様は「嫌だ」と言って、二人の前でも僕をぎゅっと抱きしめて、離してくれない。それどころか、尻まで強く揉まれて、僕は小さな声で悲鳴を上げてしまう。
すると、フーウォトッグ様が、血相を変えて、姿も虎くらいの大きさの猫になって、飛び掛かっていく。しかも、なぜか殿下の方に。
「なんてことを!! 嫌がるトルフィレ殿を押し倒し、乱暴を働こうとは!!! 見損ないましたよ! 殿下!!」
怒鳴りながら、彼はベッドの上で、僕を庇うように立つ。
……もしかして、僕の方が守られてるの? どう考えても、僕を糾弾しないといけない場面だと思うのだが。
それなのに、フーウォトッグ様は、王族と話しているとは思えないような言葉で殿下を罵り、僕に振り向いて「大丈夫ですよ。私がきたからには」なんて言ってる。
だけど、僕は乱暴なんて働かれてないし、むしろロティンウィース様にそうされて、嬉しかったんだ。
「あ、あのっ……! 違うんです!! 殿下は、僕に何もしていません!!」
叫んでも、フーウォトッグ様は聞いてない。
すると、竜のアンソルラ様も、フーウォトッグ様と同じくらいの大きさの竜になって、大きな猫と対峙した。
「口うるせー野郎だなーー。ここは俺らが黙って出ていくところだろ!!!! むしろ玩具と媚薬の一つもこっそり置いて行ってやるべきだ!!」
……それもちょっと困る……というか、王子殿下と僕がこんなことしてることには反対しないのか!?
呆然とする僕の前で、二人は、そのサイズのまま、昨日のように喧嘩を始めてしまう。だけど、昨日みたいに小さな猫と小鳥くらいの大きさの竜ならともかく、虎サイズの猫と竜の喧嘩だと、部屋まで大変なことになる。アンソルラ様の羽ばたきで布団は落ちて、フーウォトッグ様が飛び掛かったテーブルと椅子が倒れて、僕は真っ青。止めなきゃと思うけど、相手は大貴族の二人。慌てふためきながら蚊の鳴くような声で「どうかやめてください」と言うことしかできない。
その間ロティンウィース様は、「玩具と媚薬を用意してから押し倒せばよかったのか」なんて、全く的外れなことを言って頷いていた。
あなたにおすすめの小説
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。