全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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18.僕がここにいてもいいんですか?


 それから、猫と竜の喧嘩はしばらく続いたけど、給仕の人が食事を持ってきてくれて、争いはやっと収まった。
 フーウォトッグ様は、いつもの小さな猫に戻り、アンソルラ様は、虎くらいの大きさの竜の姿のまま、そばのソファに座ってパンを飲み込んでいる。
 散らかった部屋は、フーウォトッグ様がすぐに魔法で片付けてくれて、テーブルには、僕が遠くから指を咥えて見ていることしかできなかった食事が並べられている。

 そして今、僕はテーブルについて、ガタガタ震えていた。

 食事が並んでいる……それは嬉しい。だけど、どうしよう…………僕の普段の食事なんて、部屋の端でさっさと済ませるために手づかみで口に突っ込むだけだった。マナーとか、全然わからない。
 だけど、下手なことをして、殿下たちに不快な思いをさせるわけにはいかない。

 落ち着くんだ、僕……僕だって、テーブルマナーは教わった。最低限のことなら覚えているはずだ。ナイフで切って、フォークで刺して、スプーンですくうんだ。それくらいなら、僕にもできる!! 手始めにスープを飲むんだ!

 手元を見下ろすと、そこには、さまざまな大きさのナイフとフォークとスプーンがいくつも並んでる。多い……ナイフもフォークもスプーンも、いくつもある……どうするんだ、これ……

 どうしよう……また失敗したら……

 何か失敗するたびに、酷い目にあってきた。もしまた失敗したらどうしよう。
 そもそも僕、食事は苦手なんだ。食べ方が汚いと言っては殴られ、毒を盛られて苦しめられたこともあるから。昨日飲んだ水だってそうだった。
 だけど、せっかく殿下が用意してくださったのに、殿下に不快な思いはさせたくない……

 じーっと見下ろして考えていると、テーブルの上の、猫の姿のフーウォトッグ様に声をかけられた。

「たくさん食べてください。体の傷と魔力は昨日回復しましたが、体力も回復しなくてはなりませんから」
「は、はい……」
「……大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが……」
「そ、そんなこと……あ、ありませっ……!!!!」

 慌てて答える僕を、背後からロティンウィース様が抱きしめてくれる。

「で、殿下っ……!? あのっ……」

 驚く僕に、殿下はにっこり笑って、二人の側近たちに向き直った。

「俺、トルフィレに求婚したんだ!」
「…………!!??」

 そんな軽く言っちゃっていいのか!?

 驚く僕。

 フーウォトッグ様とアンソルラ様も、僕らに注目して動きを止めている。
 僕と殿下の婚約なんて、ひどく反対されるかと思った。それなのに、フーウォトッグ様は微笑んで言った。

「そうですか……よかった……」

 そう言って、フーウォトッグ様は僕に向かって頭を下げる。

「申し訳ございませんでした。私はてっきり、殿下が性欲に負けて、泣き叫ぶトルフィレ殿を押し倒し、強引に欲望を満たそうとする外道に成り下がったのかと……」
「ち、違います! 殿下は、僕のことをとても気遣ってくれて……」
「……それは良かった……殿下は少し……いえ、だいぶ困ったところもある方ですが、あなたのことを、心から愛していらっしゃいます」
「あっ……愛して!? …………あ、あのっ……でもっ……」

 言いかけた僕だけど、今度はソファで何度も頷いている竜の姿のアンソルラ様が言う。

「無理もねーよ。トルフィレは、つい押し倒したくなるくらいの可愛さだ。だが、ロウィスはそんなことしねーよ」
「あ、あのっ……!!」

 僕が呼びかけると、二人とも振り向いてくれる。

「どうしました?」
「どーしたー?」

 フーウォトッグ様とアンソルラ様に聞かれて、僕は一瞬、言葉に詰まった。

 僕の話……聞いてくれるんだ……二人とも、僕なんかとても敵わないくらいの力を持った人たちなのに。

 誰かが自分の話を聞いてくれることなんて、ずっとなかった。だから緊張するけど、僕は、恐る恐る口を開いた。

「あ、あの……ぼ、僕と殿下が婚約だなんて……本当にいいのでしょうか……」

 たずねると、二人ともすぐに答える。

「もちろんです」
「もちろんだ! よろしくな!!」

 即答されて、僕は絶句した。釣り合わないし、逃げた悪徳領主の息子が王子の婚約者になんて、なれるはずがない。身を引いてくれと言われると思っていたのに。

 とても信じられなくて、呆然としていると、猫のフーウォトッグ様が、僕に言った。

「もしかして、突然のことで迷っていらっしゃるのですか?」
「えっ……えっと…………あの……」
「無理もありません。突然王子に求婚なんてされたら、驚くでしょうし、戸惑うでしょう」
「はい……」

 俯いていると、ロティンウィース様は僕の肩を抱いた。

「そんな顔をするな! この二人は、俺がトルフィレに求婚するつもりだったと、最初から知っている!」
「えっっ……え、ええええっっ!!??」
「逆に言えば、俺の求婚は、この二人しか知らない! これ以上、口外するつもりもない! トルフィレが、俺の妻になると言うまでは!」
「え? え……」

 ますます戸惑う僕に、殿下は顔を近づけてきて、力強く笑う。

「俺はもう、絶対にトルフィレを妻にすると決めているがな」
「…………ぁ……」

 絶対にって……なに!??

 そもそも殿下は王族。惚れたとか、そういうことの前に、その婚約となれば、王家とか他の貴族とかにも影響があることだと思うのだが……

 それなのに、ロティンウィース様は「俺に惚れたら教えてくれ!」なんて言い出す。
 もう……何が何だか分からない……それなのに、僕は胸の辺りが熱くて、殿下のことを見上げて、動けなくなってしまった。

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