全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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20.礼はいらない!


 僕は、ロティンウィース様たちと一緒に、部屋を飛び出した。僕らがいたのは、庭付きの大きなお屋敷だったようで、朝から鳴いていた鳥たちが、走る僕らに驚いて、空に向かって飛んでいく。

 聞こえた悲鳴はさっきの一度きり。けれど、屋敷の庭の向こうから、何か硬いものがいくつも落ちるような、大きな音がした。どうやら、屋敷の外の路地の方で、何かあったらしい。

 先頭を走るロティンウィース様は、「向こうだ!」と叫んで走って行く。

 僕も、それについて走った。

 だけど、何かおかしい。だって、体が軽い。まるで、僕じゃないみたい。手も足も、いつもとは比べ物にならないくらい軽やかに動く。

 驚いていると、ロティンウィース様は、僕に振り向いて笑った。

「回復の効果が出たな」
「え……?」
「……昨日のトルフィレは、瀕死と言ってもいいような状態だった。だから、回復の魔法を何度もかけて、身体中の傷を塞ぎ、魔力を回復する薬も使った。まだ不十分だが……昨日よりはずっと楽に動けるはずだ」
「あ、ありがとうございます……」
「礼はいらん! まだ不十分なくらいだからな!! 決して、無理をするなよ!!」
「はいっっ!!!!」

 いつもは、回復の魔法もろくに使えなかった。それが、こんな風に体が楽になるなんて!!

 走って屋敷を出て、大きな通りを少し行ったところで横道に入ると、背の高い建物の間の狭い道で、一人の細身の男が、腰を抜かしてへたり込んでいた。
 そのそばには、箱が落ちていて、小さな魔法の道具がいくつも散らばっている。すべて魔力を持っているものだ。あれを運んでいる最中だったのだろうか。

 彼の正面には、昨日と似たような、泥の塊みたいな形の魔物が立ち塞がっていた。けれどその大きさは、近くの建物の二階にまで届くくらい。街中に、こんな大きな魔物が出るなんてっ……!

 僕は、それに向かって魔法を放った。すると、魔物は一瞬で貫かれ崩れていく。崩れた魔物の一部を捕獲して、持っていた小さな鳥籠に突っ込んだ。
 他に飛び出してきた小さな魔物は、全てロティンウィース様が魔法で打ち倒してくれる。

 いつもやっている魔物退治なのに、いつもと全然違う。魔法の威力も、速さも。ちゃんと回復したら、こんなふうになるのか……

 すぐに路地から魔物はいなくなり、あたりは静かになった。

 すると、ロティンウィース様が、僕の肩に優しく手を置いてくれて、「やったな!」と言って、微笑んでくれる。

「は、はい……あ、あの!! あ、ありがとう……ございます……か、回復、してくださって…………」
「礼はいらないと言っただろう?」
「だ、だけど……こ、これっ……ほ、本当に、すごいです!! 僕じゃないみたい……回復だけで、こんな風になるなんて……」
「本当はそれだけではなく、もっと休んでほしいのだが……」
「え? あっ……も、申し訳ございません! か、回復だけなんてっ……せ、せっかく回復してくださったのにっ……ち、ちがっ……違うんです! そう言うことじゃなくて……た、足りないわけではなくっ……!」
「分かっている。ただ俺からしたら、まだ足りないな」
「そんなことありません!」

 だって、十分回復してくれたのに。体の傷だって癒してもらったし、魔力も回復してもらった。
 それには魔力も回復の薬もたくさん必要だったはずだ。そう思うと、なんだか申し訳なくなってきた。

「…………ほ、本当に……も、申し訳ございません…………ぼ、僕……こ、こんなことをしていただいて…………」

 俯いたまま震えて言うと、ロティンウィース様は僕の頭を撫でてくれた。

「昨日、トルフィレの体を癒すと約束しただろう?」
「は、はい……」
「だったら俺が満足するまで癒やされていろ! 俺はトルフィレを大切にしたいんだ!!」
「……殿下……」
「でんか、は、ダメだぞ」
「は、はい……」

 答えながらも、鼓動が早まっていくのが分かる。なんだか恥ずかしいけど、それでも嬉しくて、胸がゆっくり温かくなる。大切にって……僕にそんなことを言ってくれるんだ……

「……だったら僕も……ロウィスを守ることと、魔物を倒すことに全力を尽くします! も、もちろん! ここまで回復していただいたんです! 無茶をして、回復していただいた体を傷つけるようなことは絶対にしません!!」
「トルフィレ…………」

 殿下は僕を見下ろして微笑んで、かと思えばぎゅっと抱きしめてきた。

 え……え!!?? なんでいきなりこうなるんだ!!??

 いきなりそんなことをされて、僕は焦って殿下を見上げてしまう。

「で……じゃなくて、ロウィス!??」
「トルフィレ……好きだー……」
「は!!?? えっ……ちょっ……え!!?? こ、こんなところでっ…………」
「……いいじゃないか。しばらく愛されてろ」
「でもっ……」

 まだ、倒れた人を回復していない。だけど振り向くと、すでにその人には、アンソルラ様が回復の魔法をかけていた。

 殿下は、僕を抱きしめたまま言う。

「トルフィレも、このまま回復の魔法をかけるぞ」
「ぼ、僕は怪我をしていませんっ……!」
「言っただろう? トルフィレの体は、一度の回復では足りないくらいに傷ついていたんだ。もう少し、かけておいた方がいい」
「で、でも、それって抱きしめなくてもかけられるんじゃ……あ、あのっ……離してください!」

 殿下、聞いてますか!?

 だけど、僕が離してって言っても、ロティンウィース様は全く聞いていなくて、僕を強く抱きしめていた。

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