25 / 96
25.ダメです! 危険です!
そんなことを話している間にも、店からは怒声が聞こえてくる。
その様子を心配そうにうかがいながら、レグラエトさんは、僕らを追い出すように手を振った。
「ほら!! 帰れ帰れっっ!! こんなところにいて、何されても知らねーぞっっ!!」
怒鳴るレグラエトさん。だけど、倉庫の中の怒鳴り声は、どんどん大きくなっていく。
もう脅迫同然の声で、ブラットルは、パーロルットさんを怒鳴りつけていた。
「貴様っ……! いつまで待たせるんだ!! 俺は街で増えた魔物を倒してやっているんだぞ!!」
「……存じ上げております……」
「だったらなぜ武器の用意ができていない!!?? 一体、どういうつもりだ!!」
「どうと聞かれても困ります。そんなものを用意するには物資が足りないと、昨日申し上げたはずです」
「この後に及んで言い訳か…………街を守る気があるとは思えないなあ!」
「そう言われましても」
受け答えをするパーロルットさんは、冷静そのもの。彼はこの店の店主で、いろんな商会とも懇意にしていて、貴族にも、彼を頼りにしている人がいるらしい。それに対してブラットルが「平民のくせに気に入らない」と言っていたことを思い出した。
倉庫の中の様子をうかがうラグウーフさんも、ひどく心配そうに、レグラエトさんを見上げて言った。
「……だ、大丈夫かな……パーロルットさん…………ブラットルの奴……自分だって平民のくせに、パーロルットさんをいじめるなんて……」
「パーロルットさんが、貴族と関わりがあるのが気に入らないんだろ……クソがっ……!! あいつだって、パーロルットさんに武器を工面してもらってたのに!! 嫉妬もいいところだ!!」
怒りを込めて言うレグラエトさんは、今にも倉庫に飛び込んでいきそう。
倉庫の中のブラットルは、ついにパーロルットさんに掴みかかる。それを見て、レグラエトさんは「もう俺が行く!」と言って出て行こうとしたけど、すぐにそれをラグウーフさんが止める。
「待って!! こ、この前も殴られたばかりじゃないか!! だ、だいたいっ……腕だって、まだっ……」
レグラエトさんは、「もう治った!」なんで怒鳴っているけど、腕に包帯を巻いていた。
それを見て、ロティンウィース様がたずねる。
「それは……あの男に切られたのか?」
「……あいつは、昔っから乱暴だったんだっっ!! それだけだ!!」
「……」
「ほら。早く帰りな!! そこの悪徳令息も! 失せやがれ!!!! お前が来ると、ブラットルがますます暴れる!!」
だけど、ブラットルはどんどんヒートアップして、「俺の言うことが聞けないなら、ディラロンテ様に話して一人処刑してもらおうか?」なんて、喚いている。
このままじゃ危ない。中に飛び込んで行こうとした僕だけど、僕の肩を、殿下が掴んで止めた。
「俺が行く」
「だ、だめです!! ロウィスっ! き、危険です!! ブラットルは、本当に乱暴で、すぐにディラロンテたちに泣きつくんですっ! 僕が出て行けば……あいつはきっと矛先を僕に変えますからっ……!」
出て行こうとした殿下を慌てて止める僕と一緒に、レグラエトさんもロティンウィース様を止めにかかる。
「そうだよ! やめな!! 危ないよ!!」
「さっきからあの男が喚いている武器とはどんなものだ?」
「魔物から身を守れるくらいの魔力を持った剣だ……普段なら、そういうものも取り扱っているが、そんな高性能の武器なんて、すぐに用意できないっ…………作業場の方が急いで新しい武器を用意してるけど、魔力が足りないんだっ……! そう説明したのに……」
「そうか……」
すると殿下は、僕に振り向いて言った。
「あっちのうるさい男は俺。トルフィレは、あっちを頼む」
そう言って、殿下は、僕らが歩いてきた街道の方を指差した。
そっちに振り向くと、キャドッデさんが、こちらに向かって走ってくるのが見えた。
彼に気を取られているうちに、殿下は僕の手をすり抜け、店に入っていってしまう。
殿下!!?? バレないようにって、朝聞いたばかりですが!!??
だけど殿下は、なんだか怖いくらいの笑顔で、ブラットルに近づいていく。
「騒がしい奴だなー。なんの話だー?」
「なんだお前は!!」
「傭兵だよ。傭兵」
「傭兵!? 昨日アフィトシオ様のところに来た奴か!!??」
どうしよう……このままじゃ、殿下が危ない。
もう我慢できずに飛び出そうとするけど、いつのまにか人の姿になっていたフーウォトッグ様に、腕を掴まれ止められてしまう。
「ここは、ロウィスに任せてください」
「でもっ……!」
倉庫に振り向くと、喚き散らすブラットルを、殿下が、妙なくらいにのんびりした口調で相手している。
その間に、キャドッデさんがレグラエトさんのところまで走っていた。
「おーい! レグラエト!!」
「キャドッデ!? 遅いぞっ……お前!! どこ行ってたんだ!!」
「ごめんっ……! 色々集めてたら遅くなった!! これ……」
彼は、担いでいた大きなカバンの中から、今朝僕が渡した魔物の泥が入った袋を取り出す。
レグラエトさんはそれを見て、大きな声を上げた。
「どっ……どーしたんだ!? これ!! ま、魔物の泥か!?」
「ああ……これさえあれば……なんとかなるっ……!!」
「だ、だけど、どうしたんだよっっ!! す、すごい魔力だ……こんなもん……普通手に入らないだろ……どこで手に入れたんだ!?」
「そ……それが……これはっ……うわぁっ……!!」
キャドッデさんは、僕がいるのに気づいたらしく、驚いて大声を上げた。
「と、トルフィレ様!?? こんなところで何してるんですかっ!??」
「す、すみませんっ……僕…………う、裏口から入る予定だったんですけど……」
「あ、武器でしたね……すみません……少し待っててもらえますか? 今……」
状況を説明しようとしたキャドッデさんの言葉を遮り、レグラエトさんが僕の胸ぐらを掴み上げる。
「まだいたのか!! 失せろって言っただろ! 殴られたいのか!? それともまさか、あいつと一緒になってここの武器根こそぎ持ってこうって魂胆か!! ブラットルの手下に成り下がったのか!?? ああっっ!!??」
怒鳴る彼だけど、その手を、キャドッデさんが掴んで止めてくれた。
「や、やめてくれ!! レグラエト!」
「なぜ止めるんだっ!!」
「やめてくれっ……! それはっ……! トルフィレ様がくださったんだ!」
「え…………………」
レグラエトさんは、よほど意外だったのか、しばらく固まっていた。そしていきなり大声を出す。
「はあーーーーっっっっ!??? このクソ野郎が!?? てめえっっ!! そんなことしてやがったのか!??」
「は、はい…………す、すみません! あのっ……下ろして……」
耳元で怒鳴られながら、弱々しく言うと、レグラエトさんは、僕をやっと下ろしてくれた。
「クソ野郎が……なんでこんなものを…………」
……ついに悪徳令息からクソ野郎になった……もう、なんでもいいけど…………
とりあえず、下ろしてもらえて、数度咳き込んでから、僕は、レグラエトさんに振り向いた。
「それ……あの、昨日の魔物退治の時に手に入れたもので…………キャドッデさんに差し上げたんです……」
「さっっ!!?? さ!? 差し上げた!??? 差し上げたって……そ、そんなわけないだろ……こ、こんなもん差し上げられるもんじゃねーぞっっ!!」
あなたにおすすめの小説
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。