28 / 96
28.ありったけ
しおりを挟むブラットルが出て行き、すっかり落ち着きを取り戻した店は、営業を再開、すぐにいつもみたいに客で賑わい始めた。倉庫も元の静かな倉庫に戻って、レグラエトさんたちは作業場に戻っていった。
そして、僕とロティンウィース様とフーウォトッグ様は、作業場の上の階にある休憩用の部屋に呼ばれた。そこでパーロルットさんは僕らにお茶とお菓子を出してくれた。
「ありがとうございました……本当に……」
そう言って、パーロルットさんが僕らに頭を下げる。
そんなことをされると思ってなくて、僕は焦った。
「い、いえっ……そんな…………ぼ、ぼぼ、僕は……」
「ブラットルはいつもああで……困っていたんです。本当に、助かりました」
「い、いいいいいえ! ほ、本当に……」
ブラットルを追い払ったのは、どちらかといえばキャドッデさんやロティンウィース様なのに……ぼ、僕、こんなところにいていいのかな……
丸いテーブルには、お菓子とお茶が並んでいる。
すごい……これが、お菓子……遠くで見ていただけの、クッキーというものだ。それが、お皿に乗って、テーブルの上に置かれている……
こんな近距離で見たのは、まだあの城に家族がいた頃、兄弟たちのためにお茶の用意をした時以来だ。こんなに近くに、クッキーが……
ジーーーーーーっと見つめていたら、パーロルットさんに声をかけられた。
「トルフィレ様?」
「は、はいっっ!! ごめんなさい食べてませんっっ!!」
「え……?」
突然僕が叫んで捲し立てたから、パーロルットさんは、キョトンとしていた。
しまった……つい……
「ち、ちがっ……違うんです…………す、すみません……」
「何に対する謝罪なのか、私には分かりませんが……何か、おかしなところでもありましたか?」
「いっ……いえ! と、とんでもないっ……です! く、く、クッキー…………クッキーです、よね!?」
「は、はい……」
「あ、えっと……クッキーが、並んでて…………」
……何か言えよ、僕……美味しそうですね、とか、気の利いたこと言えればいいのにっ……!!
ただただ慌てていると、パーロルットさんは、少し戸惑ったようだったけど、すぐに僕に微笑んだ。
「どうか、お召し上がりください。港町で話題になっているもので、精霊の国でしか取れない材料を使ったお菓子です」
「めしっ……召し上がって……? 僕が食べていいんですか!???」
「は、はい……どうぞ…………」
いいんだ……だ、だけど、これ……ど、どうやって食べるんだろ……
食べていいって言われたのに、やっぱり食べられなくて、じーっと見つめ続けていたら、隣の席に座っているロティンウィース様に、声をかけられた。
「何か、困ったことでもあったか?」
「え!? あっ……えっと……」
い、いいのかな……聞いても……
恐る恐る、僕は彼の耳元に顔を近づけて、小声で言った。
「……こ、これ……ど、どうやって食べるんですか……?」
恥を忍んで聞くと、殿下は僕の前でそれを摘んで口に入れて見せる。
それでいいのか…………フォークもナイフもいらないんだ!
「い、いただきます!!」
すぐに摘んで、口の中に放る。
甘い……なんだかいい香りがする……こんなもの、初めて食べた……甘さが口の中に広がって、うっとりしてきた。
何より、誰かが僕のこと、こんなふうに客として迎えてくれるなんて……
そんな風に思ったら、嬉しくて、胸がじわじわ熱くなる。
「トルフィレ様……? あの……どうかなさいましたか……?」
焦ったようなパーロルットさんの声を聞いて、僕は、顔を隠しながら、なんとか笑顔を作ろうとした。そうでないと、また泣いてしまいそう。僕、こんなに泣く奴だったかな……
「な、なんでも……ないです……」
「……もしかして、お口にあいませんでしたか?」
「あっ……いえっ……! ち、違っ……! 違うんです!!!! 僕、こ、こんなのっ……食べたことなくてっ…………お菓子って、こんな味するんだなって………………ずっと、遠くから見てるばかりで……食べてみたかったから…………」
どうしよう……話しながら、涙が落ちそう。嬉しくて、お礼を言いたいはずなのに。
すると、パーロルットさんは、にっこり笑って、お菓子と紅茶を運んできてくれた人に、あるだけお菓子持ってきてと言いだした。
「そうだ。いい武器もあるんです。用意いたしますので、どうか、お収めください。今回のお礼です」
「い、いえっ……いいいいいいえ!! そ、そそ、そんなっ…………!!」
「紅茶も、いいものがあるんです。海を越えたあたりにある森から取り寄せたもので、とてもいい香りがするのです。ぜひ一度、お試しください」
「あのっ……僕、もう本当に…………」
ど、どうしよう……
慌てるばかりの僕だけど、パーロルットさんは僕に微笑んで、「トルフィレ様に食べてほしいんです」と言ってくれて、ロティンウィース様も僕を見上げている。
その顔を見ていたら、また恐る恐るお菓子に手を伸ばしてしまった。
704
あなたにおすすめの小説
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる