全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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30.今ならこれも

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「本当によろしかったのですか? トルフィレ様……」

 そう言って、パーロルットさんは、ずらっと小瓶が並んだ箱を見せてくれる。全部媚薬らしい。

「本当にいいです……」
「そうですか……では、今後ご要望があれば、すぐにお城にお持ち致します」
「……え、えっと…………」

 どうしよう……ご要望、多分ないと思う……

 困っていたら、ロティンウィース様が、「それなら俺に寄越せ」と言い出して、楽しそう。何か使うんだろう……

 それを殿下の隣で聞いていたら、ラグウーフさんとキャドッデさんが、「トルフィレ様、もう大丈夫ですか?」と聞いてくれた。

「は、はい……え、えっと……大丈夫です……」

 どうしよう……彼らが本当に心配そうにしているから、ますます申し訳なくなってきた。

 大事な時に、クッキー食べまくって転んで魔法の道具の箱ひっくり返してベッドで寝てるなんて……

 もう本当に合わせる顔がなくて、だんだん俯いてしまう。

「あ、あの……ぼ、僕は……だ、大丈夫です……それより、その……僕っ……!!」

 謝罪しようとしたら、ラグウーフさんが、僕に小さな瓶を差し出した。

「あ、あのっ……これっ…………と、トルフィレ様に……」
「え……? あ、あの…………媚薬はもういいです……」
「違いますっっ!! これは、回復の薬です!」
「回復?」

 もう一度、瓶を見下ろすと、それには確かに、回復の薬って書いてある。しかもこれ、隣町でしか流通していない、珍しいものだ。

「でも……僕……もう回復してます……」
「そ、そうじゃないんです……これ、あの……ほ、本当は……トルフィレ様が僕を助けてくれた時に渡そうとしたものなんです!」
「え…………?」
「ご、ごめんなさいっ…………!!」

 そう言って、ラグウーフさんが頭を下げる。

 なんで彼が僕に謝るんだ?

「え……え? な、なんでっ……あ、あのっ……な、何も謝ることなんかっ……」
「……あ、あの時っ……! 魔物を倒した後、トルフィレ様が逃げていくのを見た時……ほ、本当はこれ、渡そうと思って、追いかけたんです! トルフィレ様が体を張って僕らを守ってくれたこと、知ってたから……だけど、ずっと渡せなくて…………僕らっ……トルフィレ様がいつだって戦ってくれてること、知ってたのに……倒れた体を魔力で無理矢理動かして戦ってる時もありましたよね!? それなのに…………本当に、ごめんなさい……い、今からまた、魔物退治に行くんですよね!? だったら受け取ってくれませんか!?」
「ラグウーフさん……」

 彼の気持ちは嬉しい。だって、街で魔物と戦っている時は、みんなに鬱陶しいと思われていると思ってたから。

 魔物に踏まれて逃げていく時もそうだった。身体中痛かったけど、いつまでも倒れていたら、街の人に冷たい目で見られるんだと思ってた。

 だけど……

 僕は、布団から出て、ラグウーフさんに向かって、首を横に振った。

「……ご、ごめんなさいっ……う、受け取れません…………」
「え……」
「そ……そんなの渡したことがバレれば、あなたがディラロンテたちに処罰されるかもしれません。彼らは、僕が悪徳令息でないと、困るんです」
「…………」

 ラグウーフさんは、俯いてしまう。

 ディラロンテたちだって、この街がひどい状況であることには気づいているはず。誰か、責任を押し付ける奴が必要なんだ。

 だけどラグウーフさんは、ぐっとそれを握ると、僕に押し付けてくる。

「受け取って……いただけませんか?」
「でも……」
「お願いします!」

 彼に強く言われて、僕はもうそれを押し返すことなんて、できなかった。
 すると今度は、キャドッデさんが顔をそむけたまま言う。

「トルフィレ様……全然回復してないですよね……いつも死にそうだったし…………」
「し、死にそうって、僕、死んでないから大丈夫ですよ?」
「それは自覚がないんですよ! と、とにかく、今度から回復の薬も、武器と一緒に渡します!」
「でも……」
「受け取らなくても渡しますから!! だから、ちゃんと……回復してください…………」

 キャドッデさんに真剣な顔で言われて、僕は頷いた。

 すると、ロティンウィース様が僕に向かって、今朝渡そうとしてくれたローブを突き出す。

「それなら、これも受け取ってくれるな?」
「……え…………?」
「……もう……目立たずにいる必要はないだろう?」

 そう言って、殿下が微笑む。

 顔を上げれば、みんなが僕の方を向いていた。

 僕、また色々しでかして、こんなに迷惑をかけてしまったのに。今だって、彼らの顔をちゃんと見ることができないのに。それなのに、誰一人僕を責めない。

 ずっと、何か悪いことが起これば、全部お前のせいだと責め立てられてきた。僕は出来が悪かったし、よく失敗もしてたから、それも仕方ないんだと思っていたのに。

 僕は、そっと手を伸ばして、ローブを受け取った。

「ありがとう……ございます…………」

 受け取ったそれは柔らかくて、触れると気持ちいいくらい。

 気が引き締まる。

 装備を整えた方が、魔物との戦闘だって有利になる。
 ここが魔物に飲まれてしまうなんて、僕は嫌だ。

 じっとローブを見つめていたら、パーロルットさんが、僕に微笑んだ。

「でしたら、ぜひこれもお収めください」

 彼が差し出したのは、さっきの媚薬。それはもういい……

「……それはいいです……」
「そうですか? 残念です」
「す、すみませんっ……! せっかく持ってきてくれたのに……」
「でしたら、先ほどの魔法の道具はいかがでしょう? 魔物と戦うのでしたら、必要になるはずです。そうだ、紅茶も一緒に。お城にお持ちしますね」
「え、えっと…………で、でも……そ、それはちょっと……」

 どうしよう……すすめてくれるのは嬉しいけど、僕、お金持ってない……
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