全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
31 / 96

31.全く食えない


 僕が焦っていると、ラグウーフさんが呆れたようにパーロルットさんに言った。

「パーロルットさん……困ってますよ。トルフィレ様相手に商売始めるの、やめてください……」

 キャドッデさんも口を開く。

「そうですよ。トルフィレ様こんなんだから、気づいたら全部買っちゃってた、なんてことになりそうです……」

 二人に言われて、パーロルットさんは「そんなつもりはないのですが」と言って微笑んだ。

 すると彼に、ロティンウィース様が「トルフィレが気に入った菓子は、後で城に運んでおいてくれ」と言い出した。

 それを聞いて、キャドッデさんが、傭兵ロウィスだと思っている人に向かって言う。

「おい……さっきからお前、一体誰だよ? 傭兵だろ? なんでそんなにトルフィレ様に馴れ馴れしいんだ?」
「俺はただ、さっきトルフィレがクッキーを食べていた時の顔を、また見たいだけだ」

 パーロルットさんも、微笑んで言った。

「私だって、ただトルフィレ様に良い品を紹介したかっただけです。すぐにお菓子は用意致しますが、お送りするには、そこまでの道にうろつく魔物がもっと減らないと。どうなさるおつもりです? ロウィス」
「もちろん、魔物を一掃する」

 殿下がそう言ったのを聞いて、キャドッデさんが怒鳴る。

「そんなことっ……! できるもんかっ……! お前はここのことを知らないんだ! ここはずっと……魔物に襲われてるんだぞっ!!」

 息を荒らげる彼に、ロティンウィース様は、ゆっくりと近づいていく。

「……辛い思いをさせたな……」
「は? なんなんだお前……さっきから……」

 怪訝な顔をする彼の前で、ロティンウィース様は突然、背中から竜の羽を出して、古びたフードを脱いで笑った。

「トルフィレに回復の薬を持って来てくれて、ありがとう! 辛い思いをさせたままで、悪かったな! 俺はロティンウィースだ!!」
「…………」
「…………」

 突然姿を現した第二王子殿下を前に、二人とも絶句。何が起こったか分からないようだ。

 彼らの背後では、パーロルットさんがパチパチ手を叩きながら「うわー。殿下だったんですねー」なんてわざとらしく言って、殿下に「知ってただろ」って言われている。パーロルットさんだけは、傭兵ロウィスの正体を知ってたのか……

 全く知らなかったラグウーフさんとキャドッデさんは、驚いて何も言えないまま。

 彼らにロティンウィース様が振り向くと、二人とも壁まで下がってしまう。

「お、お、おおお王族……な、な、なんで……」
「ど、どどどどうしよう……ぼ、僕ら……し、死刑?」

 完全に怯える二人を前に、ロティンウィース様は、少し寂しそう。

「そんなに怯えないでくれ……何もしない」

 ちょうどそこに、レグラエトさんも大きな袋を抱えて部屋に入ってくる。

「パーロルット……待たせたな……何してんだ? お前ら」

 レグラエトさんは、壁際で怯えるキャドッデさんたちに振り向いて不思議そう。事情を知らない彼に、キャドッデさんとラグウーフさんが駆け寄って、二人でその場に平伏した。

「無礼を働いてしまい、申し訳ございませんでした!」

 二人が揃って言いながら、レグラエトさんの頭も無理やり下げさせているから、レグラエトさんは、キャドッデさんを振り払い苛立ったように言う。

「おいっ……何すんだよ!」
「やめろ馬鹿!! お、王族…………王族だぞ!」

 キャドッデさんが震えながら殿下の方を指差すと、レグラエトさんも、ロティンウィース様に振り向く。そして彼も、傭兵の正体に気付いたらしい。平伏しながらも、パーロルットさんを睨みつけて言った。

「なんで王族なんか入れてんだよ! パーロルット!!」

 怒鳴る彼に、パーロルットさんは、少し困ったように言った。

「……レグラエト……君は少し、口が悪すぎるよ……相手は一応、王族だからね……」
「お前も一応はないだろ」

 殿下が呆れたように言うけど、パーロルットさんは取り合わない。

「だったら、もっと王族らしくしてください」
「違いない」

 そう言って笑った殿下は、レグラエトさんに振り向いた。

「言いたいことは分かる……来るのが遅くなって、申し訳なかった」
「……」

 殿下は、キャドッデさんとラグウーフさんにも立つように言う。

「今はまだ、俺は傭兵のロウィスだ。顔を上げてくれ。必ず、ここは魔物から取り返す」

 殿下に言われて、三人とも、恐る恐るといった様子で顔を上げる。

 パーロルットさんが、殿下に向き直って言った。

「殿下。取り返すとおっしゃったからには、急いでいただかなくては困ります。このままでは、商売だってままならないので」
「もちろんだ。まーかせとけ!!」

 殿下がいつもの調子で答えても、パーロルットさんはどこか探るような目線を向けたまま。

「……食えない方だ……聞くところによると、周辺の貴族たちに声をかけているそうではありませんか。中には、かなりの有力貴族もいると聞きましたが……」
「……相変わらず、お前は耳が早いな……」
「ここで商売をする上で、情報は大切なものですから。ラグウーフも、戻るのは明日にしろと隣町から言われているようですし。これは、明日には安全になる、と言うことですか?」
「ああ。明日には、この辺りの魔物も一掃できているはずだ」

 そう言って殿下が笑うから、ラグウーフさんは驚いたようだ。

「ほ、本当に……魔物がいなくなるんですかっ……!? 本当ですか!?」
「ああ。今、街の各地に散った魔法使いが、魔物を退治している」

 そう殿下が自信満々に答えて、キャドッデさんも顔を綻ばせる。

 だけど、レグラエトさんは、まだ浮かない顔のまま。

「……今、魔物がいなくなったって……ディラロンテみたいなのが領主やってたら、どうせまた増えます……その場しのぎじゃないですか……」

 彼の言うことは最もだ。今、魔物がいなくなったとしても、それはまた、何度でも増える。

 けれど殿下は、皆に振り向いて言った。

「もちろんあの連中も放っておくつもりはない。この街を散々苦しめ、この地を荒らした連中だからな」

 どこか冷たさを感じる声を聞いて、みんながしんとなる。

 すると殿下は、いきなり僕を後ろから抱きしめた。

「俺の大切なトルフィレも傷つけたしな!」

 言って、殿下が僕をぎゅーっと抱きしめてくる。
 みんなの前なのに、何をするんだ!!

「あ、あのっ……! 殿下っ……!」
「とにかく今は、魔物を倒して民たちの安全を確保することが最優先だ」
「そうですけど……」
「レグラエト、キャドッデ、ラグウーフ、この辺りで一番大きな魔物が出る場所を知らないか?」

 突然王子に名前を呼ばれて、みんな驚いていたようだったけど、少し悩みながらも顔を見合わせて、一番最初にラグウーフさんが口を開く。

「街の外にも魔物が……で、出るんです。毒の魔物です……そのせいで、みんなが怪我を……」

 ラグウーフさんは、レグラエトさんに心配そうな目を向ける。怪我をしたのは彼らしい。

 僕も、殿下に振り向いた。

「毒の魔物のことなら、僕も知っています。街の近くに、今はもう使われていない砦があるんです。長く放置されて、今は廃墟になっていますが……そこに、魔物が出るんです」
「それが、今朝話していた、退治に行きたい強力な魔物か?」
「は、はい! かなり強力なもので、僕一人で相手をするのは危険で……あ、あのっ!! よ、よければ……そこまで付き合っていただけませんか!?」

 ドキドキしながら言うと、殿下はすぐに、僕に微笑んでくれた。

「デートの誘いみたいだな!」
「え……えっと……すみません。違います……」

あなたにおすすめの小説

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。