全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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33.今更出てきて、一体何の用ですか?


 魔物と戦う用意を進めていたら、アンソルラ様が、ベッドの上で立ち上がって、窓の外を見下ろして言った。

「あっちも来たみたいだぞ」
「……あっち?」

 たずねて、僕は窓の外を見下ろした。

 すると、店の前に何人も人が集まっているのが見える。店のお客さんじゃない。ディラロンテたちだ……

 殿下もそれを見下ろして言った。

「思ったより、早かったな……ちょうど魔物退治の用意も終わったところだ。行くか」







 魔物退治の装備を整えた僕は、傭兵のロウィスに戻ったロティンウィース様と、フーウォトッグ様とアンソルラ様と一緒に、作業場の外に出た。

 隣にある店の前には、僕らがここにいることを知っていたかのように、ディラロンテたちが待ち構えている。

 店の前の通りはがらんとして、深夜僕が魔物を追っている時よりも、静まり返っているように見えた。
 ディラロンテと一緒にブラットルもいて、ついでに僕までいるものだから、巻き添えを食らうのが嫌で、通りを歩いていた人は、みんな逃げたんだろう。

 ディラロンテは僕を見るなり、いつものように見下した口調で言った。

「トルフィレ……こんなところにいたのですか……」
「……街に……何か用ですか?」
「もちろん、魔物退治に来たのです。この街には、魔物が溢れていますから。あなたのように、サボっている暇はないのです」
「……」

 どうしたんだ……急に魔物退治だなんて。いつも魔物退治なんか行かないだろ。そういうことは、いつだって全部、僕に押し付けていたくせに。今更一体、どういうつもりだ?

 ディラロンテのそばには、いつもの通りブラットルがいて、そいつは僕を見るなり早速喚き出す。

「ディラロンテ様! あいつ、本当に最低な奴なんです!! ずっとここに居座って、魔物退治をサボってるんですよ!! あっ……! あ、あの変な傭兵!! あいつも、俺を蔑ろにしたんです!! 街の奴らもおかしいんですよっっ!! あの悪徳令息の言うことなんか信じて! きっとあの悪徳令息が操ってるんです!!」

 ……ブラットル……いつにも増して全力で泣きついてるなあ……

 あることないこと告げ口しまくるのはいつものことだけど、今日はさらにひどい。誰が誰を操ってるんだよ。

 そして、それが真実かどうかなんてどうでもいいのがディラロンテ。早速僕に向き直り、不気味な笑みを浮かべる。

「……全くあなたはろくなことをしない……悪徳と言われた御令息は、好き勝手に振る舞えて、羨ましいくらいです」
「……あの……」
「どうしました?」
「僕なら、すぐに魔物退治に行きます……ここでは、ただ装備を整えていただけです……」
「あなたのような者には、そんなことをする資格はないと何度も言ったはずです。悪徳令息は死ぬまで私に従っていればよかったのです!」
「……それはもうできません」
「……なに?」

 ディラロンテの顔が歪む。僕が従わないことが気に入らないんだろう。

 だけど、僕はもう彼らには従えない。

 ついに反抗した僕を、ディラロンテは冷静に見つめていた。

「そう……ですか……思っていた通りです」
「……え?」
「恩知らずなあなたのことです。きっと、そんなことを言い出すのだろうと思っていました。これまで私たちはあなたの悪事に目を瞑り、城に置いてあげたのに……見なさい!! 私の言った通りだ!!」

 ディラロンテが大声でそう言うと、その取り巻きの奴らが、一斉に同意して称賛する。

 この光景……いつも見ていたものだ。僕が何を言っても聞いてもらえなくて、全て僕が悪いと言われて嬲られる。

 ブラットルの言っていることは、最初から最後まで全部嘘だ。それに、今はそれよりやらなきゃいけないことがあるはずなのに。

「……あの……ディラロンテ様…………」
「……何ですか? できればあなたのようなものに、名前を呼ばれたくはないのですが。汚らわしいので」
「……あの、わざわざこんなところまで来て……そんなことを言いに来たんじゃないですよね……? だって、同じこと、もう何度か言われてるし……」
「……本当に、性悪な男だ……この街を不幸に陥れる悪徳令息なだけある……」
「……」
「トルフィレ……」

 ディラロンテが僕を睨みつける。普段僕が言い返すこと、ほとんどないからな……

 そして、そいつは、一呼吸置いて言った。

「…………あなたを処刑することが決まりました」
「…………え?」
「当然でしょう? 悪事を働くばかりか、ついには街でも大きな騒ぎを起こしたあなたを、もう放っておくことはできません!」
「……騒ぎ? ……なんのことですか……?」

 身に覚えがなくて言うと、ディラロンテは大袈裟なくらいに両手を広げて、声を張り上げた。

「この店でっっ!! あなたがっ!! 先ほど騒ぎを起こしたことです! 忘れたとは言わせません!!」
「……えっと……あの、それ、僕ではありません……」
「またそんな言い逃れをっ……街の者たちが利用する大切な店で騒ぎを起こしておいて。全く、困ったものです。もう見過ごしてあげられません。やはり、あなたは処刑するより他ないようだ! 魔物退治すらろくにできずに、街を苦しめる役立たずの悪党など、処刑されて当然です!!」

 響き渡るディラロンテの声。そして、その後ろに控えた取り巻きたちが、一斉に歓声を上げて拍手をする。

 だけど、ディラロンテは不満そう。むしろ、怪しむように、僕の背後に目を向け、周りを見渡している。

 多分彼らは、「悪徳令息を処刑する!」って言えば、当然、街の人が手を叩いて喜ぶと思っていたんだろう。

 正直、僕もそう思っていた。

 逃げた悪徳領主のクソ息子。そんな風に僕が後ろ指を指されていたのは本当で。冷たい視線を向けられていることは分かっていた。

 周りには人はほとんどいない。それでも、僕らをかなり遠巻きに建物の陰から見ている人たちはいるし、店にいた人たちも、怖いもの見たさといった様子で、店のドアの陰や窓から、こっちを見ている。
 悪徳令息の僕が処刑と知れば、彼らがもう少し沸いたりするんじゃないかと思っていたんだろう。

 だけど、店にいた人たちも、僕の方に怯えたような視線を向けているだけ。

 すると、背後でキャドッデさんが小声で言った。

「さっきからあいつら……自分たちのこと言ってるのか?」
「……え…………? え!? あ、あのっ……出てきたら危ないです!!」

 みんな、作業場にいたんじゃなかったのか!? 出てきたら危ないのに、ラグウーフさんとレグラエトさん、パーロルットさんまでいる。

 くいっと、服を引かれて振り向けば、ラグウーフさんが不安そうに僕を見上げていた。

「……みんな……トルフィレ様がいなくなったら、魔物と戦う人が誰もいなくなること……分かってるんですよ。処刑なんてっ……そ、そんなこと、ならないですよね!? と、トルフィレ様!!」
「…………」

 彼も、ひどく怯えているみたいだ。キャドッデさんも。きっと、店に隠れている人も、さっきまでここにいた人たちも。みんな、ディラロンテが怖いんだ。

 それはそうか……相手は、領主の代わりを務める貴族で、強い魔力を持つ魔法使い。下手に怒らせれば、その場で魔法の弾が飛んでくるか、処刑されるかもしれない。

 それなのに、カッとなったのか、レグラエトさんが前に出ようとするから、僕は、慌てて止めた。

 ラグウーフさんに「大丈夫です」と告げて、僕は、ディラロンテと対峙する。

 期待した反応を得ることができずに、ディラロンテは不機嫌そうに僕を睨んでいた。

「……確かに……悪徳令息が何かしたようですね……トルフィレ……何をしたのですか?」
「…………何を言っているのか……分かりません。それより……ぼ、僕なんか処刑してる場合ですか?」
「なに……?」
「……街には、魔物が溢れています…………街の外には、毒の魔物だっているのにっ……!」
「毒の魔物? なんのことです?」
「…………」

 知りもしないのかよ…………普段魔物なんか放置してるんだから、当然かもしれないけど……怪我をした人もいるのに。

 久しぶりに魔物退治に出てきたかと思えば、こいつらはただ、僕を嬲りに来ただけだったんだ。

「……先に魔物を退治しに行くべきです」
「何を馬鹿な……この期に及んで、処刑を回避するためにそんな嘘を……」

 言いかけたディラロンテの前で、殿下が僕を背後から抱き寄せる。ディラロンテと対峙して、かなり緊張していたところなのに!!

「うわっ……! ち、ちょっ……でっ……じゃなくて、ロウィス!? 何してんですか!」
「俺はトルフィレを抱きしめているだけだ。ますます惚れたぞ」
「はっ……!? な、何を言ってるんですか!!」
「トルフィレが可愛くて格好良くてもっと惚れた話をしているだけだ」
「説明してほしいわけではないです……こんな時に!」

 それ、今言うことですか!?? 目の前にディラロンテたちがいるんですが!??

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