全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
38 / 96

38.できるよな?


 ディラロンテに返事をしながら、僕は、ホッとしていた。彼らが魔物と戦うところは、ほとんど見たことがなかったし、さっき森の中で見かけた時も、やけに疲弊して見えた。だから戦えないのかと思ったけど、この調子なら、彼らは彼らで魔物を倒すだろう。
 何しろ相手は毒の魔物だ。反撃もできなかったら、すぐにやられてしまう。倒れた人の魔力を狙って、また魔物が集まってくることもあるんだ。

 その時、呻くような、引きずるような音が、砦の奥から聞こえてきた。そして奥から、次々あの泥の魔物が出てくる。随分魔物が集まっているみたいだ。毒の魔物の魔力に引き寄せられたのかも知れない。

 全員が、魔物に向かって構えた。

 だけど、敵はそれだけじゃなかった。天井から、魔物の泥に似たものがいくつも落ちてくる。

 見上げれば、天井に空いた大きな穴から、不気味な羽を持つ虫のような魔物が、こちらを見下ろしていた。その周りを、泥のようなものが飛び回り、僕らに向かって降ってくる。魔物の毒だ。街の人たちを傷つけたのはこれだろう。

 あれが、毒の魔物か……

 僕たちは、すでにそれに狙われていたらしい。砦の中に、薄い霧のようなものが広がっていく。毒の魔物の魔力によるものだろう。

「ディラロンテ様!! すぐに解毒しましょう!」

 叫ぶ声を聞いて振り向けば、ディラロンテの取り巻きの一人が倒れている。毒にやられたんだろう。魔法使いの一人が、その人に解毒の魔法をかけるけど、毒は消えない。当たり前だ。周りはすでに毒の魔物の魔力で満ちている。魔物を破壊しない限り、解毒なんてしても無駄だ。

「なっ……なぜ、こんなっ……!!」

 慌てて喚く彼らだけど、そんなことしてたら、魔物に襲われる。実際、喚いていた人たちは次々降ってくる毒に襲われたり、毒にやられたりして、動けなくなっていく。

 先に毒の魔物を倒せば、解毒の魔法だって効くはずだ。

 僕が魔物に向かって魔法を放つと、魔物は怯んで、穴が空いた天井の陰に隠れていく。

 だけど、きっとまたすぐに襲ってくる。

 それを見上げていると、ディラロンテが僕に向かって喚いていた。

「貴様っ……トルフィレ!! なぜ貴様は動ける!!!!」

 怒鳴られても、もううるさいだけなので、聞かなかったことにする。
 このままじゃ、魔物が逃げてしまう。そしたら解毒も難しくなる。

 飛びかかろうかと思ったその時、崩れた天井から光る鎖のようなものが生えて、毒の魔物に巻き付いた。

 いつのまにか、割れていたはずの窓も、全部元通りになって、壊れていた砦の扉も元通りになってバタンと閉まった。
 これは、鍵の魔法だ。敵を狭い範囲に閉じ込めるためのもので、これでもう、他の魔物も、屋外にいる毒の魔物ですら、ここから逃げられない。

 殿下に振り向くと、彼は「これで逃げないだろう?」と言って微笑んだ。

「じゃー、とりあえず、ここにいる魔物、一掃するか! これで、魔物は逃げない。さあ! 魔物退治だ。そこに寝ている奴らも。トルフィレを役立たず呼ばわりしたんだ。できるよな?」

 殿下に振り向いて聞かれて、ディラロンテが怒鳴った。

「ふざけるな!! ど、毒の魔物が出ているのにっ……鍵の魔法を使ってしまっては、私たちも出られないではありませんか!」
「それは、勝てないと認めているのか?」
「ぐっ」

 彼は悔しそうだけど、むしろ、譲ってくれるならありがたい。

 僕は、殿下に振り向いた。

「じゃあ、あれ……僕が捕獲するので、どうか……ここは任せてくれませんか?」
「いいのか?」

 殿下が聞いてくれて、僕は頷いた。

 キャドッデさんに渡してもらった短剣に魔法をかけて、魔法で天井まで飛ぶ。
 魔物が僕に向かって放つ毒を避けて、短剣を武器に魔物の体に飛びかかる。それで羽を切りつけ魔法をかけると、魔物は次第に魔力を失い、小さくなって崩れていく。それを、魔法を使って集めて、全部鳥籠の中に突っ込んだ。
 僕の体が回復して、鳥籠の修理もちゃんとできたみたい。こんなに巨大な魔物が回収できるなんて。

 殿下が「さすがだな」って言って褒めてくれて、僕はお礼を言いながらも顔をそむけてしまった。殿下に褒められると、やっぱり嬉しい……

あなたにおすすめの小説

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。