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44.こっちは僕に任せてください!
ロティンウィース様とウェクトラテス様が睨み合っている。
こ、こんなことをしている場合じゃないと思うのですが……
集まった貴族たちが、僕に振り向く。
僕に頭を下げたのは、絶対怒っていると思っていたヴォーヤジュ様。
「こちらこそ、遅れてすまなかった」
「え…………?」
「もっと早く動くべきだった。アフィトシオには、手を貸そうかと言ったのだが、うちには強力な武器があると言われ、任せてしまっていた……もしかして、強力な武器とは、君のことか?」
「…………ど、どうでしょう……」
「……すまない……武器扱いは無礼だったな……」
「そ、そんなこと……多分、そのつもりで言っているので……」
多分、というより、絶対にそうなんだろうなぁ……僕、普段アフィトシオには、物扱いされてるから。
アフィトシオは、よほど飲み過ぎたのか、縛られ倒れたまま。あいつ、いつもああだよな……
ヴォーヤジュ様は、微笑んで言った。
「これまで魔物の侵攻を抑えてくれていたのは君だろう? よくやってくれた。君には、本当に感謝している」
「そっ……そんなっ……め、迷惑をかけたのは、ぼ、僕の方なのに……」
初めての反応が嬉しいはずなのに怖くて、ガタガタ震えていると、他の人たちに笑われてしまった。
すると今度は、彼と一緒にいた魔法使いの一族の当主が言う。
「このままだと、私たちも困る。すでに魔物退治の許可は降りている。一斉に退治しておいた方がいい。その後は、君の統治に任せることになるが……君なら、なんの心配もなさそうだな」
「えっ……!? い、いや、ぼ、僕は……」
「よくここまで民を守ってくれた。領主、トルフィレ」
「いえ……そんな……え!? え!? 僕、領主じゃないですっ…………あの、えっと……ぼ、僕、一族からは、役立たずすぎて、すでに勘当されていて…………だから、僕、領主の一族じゃないんです……」
僕は、辿々しく説明するけど、その人は、ロティンウィース様に振り向いて言った。
「全く問題ない。そうでしょう? ロティンウィース殿下」
すると、そうだな、と言って、殿下は笑った。
ますます焦る僕。僕は、ディラロンテとの婚約の話がなくなり、利用価値がなくなった時に、勘当を告げられているのに。
そもそも、僕にそんなの、絶対無理だろ!!
「で、殿下……ぼ、僕っ…………」
「そんな顔をするな!! 俺も手伝う!」
「え、えっ!? え!?? で、でも僕、領地なんて……絶対に無理だし……あの、僕…………」
だんだん青くなっていく僕だけど、殿下は聞いてない。「お似合いだろう?」と言って、僕の肩を抱いては、周りに見せつけるように僕を引き寄せて、ウェクトラテス様に「フラれてるくせに」と言われて、言い合いになってる。
けれど、僕に領主なんて、できるはずない。
それに、そんなことを許さない人もいる。フーウォトッグ様に魔法を解いてもらったディラロンテが、僕を指差し怒鳴った。
「ふざけるなっ……! こんなことが許されるものかっ……! その男は、この領地を荒らした一族の置き土産ですっ!! そもそもここも、それの一族がきちんと治めていれば、こんなことにならなかったのですよ!? ここがこの程度で済んだのは、私たちのおかげでしょう!? 恩知らずとはこのことですっ……!」
喚くそいつに、ロティンウィース様が振り向く。
「お前も、往生際が悪いな。ここの実権を握っていたのは、お前だろう?」
「ああ、そうです! 私が、このどうしようもない者たちを引っ張ってきてやったから、ここが無事で済んでいたのです!! 他の領地に被害も出ていないのは、事実ではありませんか!! 殿下!! これは一体、どういうことですか!!!! こんなっ……これまで、精一杯やってきた私たちを責めるような真似をっ……! こんなことが、許されるはずがないっ!! その男を一人で魔物退治に行かせたことを怒っているのですか!!?? それなら、その怒りは私欲によるものではありませんか! トルフィレは罪人です!! その男があなたを襲い、あなたの部隊を陥れたことをお忘れですか!!?? そのせいで、あなたの部隊は傷つき、魔物に対する対処も遅れたのではないのですか!? あなたがそんな態度では、部隊に申し訳が立たないと、そうは思わないのですか!!」
「黙れ。本当はあの時、竜が俺であることも知っていたのだろう? 俺を指して、一番に盗賊だと叫んだのは、お前の後ろにいたコンクフォージだ。トルフィレのことを、領地でわがまま放題していたことが王家にバレそうになったから王子を襲ったと喚き散らしていたそうだが、ここを手に入れるために王家を襲ったのは、お前の方だ」
「……ですからそれはっ…………!」
ディラロンテが言い訳をしようとしたその時、城が震えた。
吠えるような音だった。それが何度も響いている。
アンソルラ様が、窓に振り向いて言った。
「きたな。魔物だ」
みんなが、窓の方に振り向く。すると、空に巨大な魔物が飛んでいるのが見えた。さっき砦で見た魔物に似ている。
あれ……まさか、毒の魔物か!?? 殿下がまだ強力な魔物がいるって言ってたの、本当だったんだ……
そんなものが、街の上空を飛んでいる。
ゾッとした。
「な、なんで……あんなものが街に……」
僕がそう呟くと、アンソルラ様が「強い魔力に惹きつけられたんだ」と答えた。
「そ、そんな……じ、じゃあ……あれがここに来たのは、僕が今、逃したものが原因ですか? あれの魔力にひきつけられて…………」
「落ち着けー。なんでも自分のせいにすんな! お前が逃したものは全部、殿下の魔法が拘束している。あれの魔力に魔物がひきつけられる、なんてことはあり得ない」
「そ、そうなんですか……?」
「毒の魔物の被害は、街でも広がっていたんだろう? この辺りの魔力にひきつけられたのかもな。そんな青い顔すんなっ! お前、これだけの面子が揃ってて、何に怯えてるんだよ」
彼は、ウェクトラテス様たちに振り向いた。そこにいた彼らは、皆すでに、武器を構えている。
肩に剣を担いだウェクトラテス様が言った。
「行くぞ。トルフィレ。ロティンウィースを惚れさせた腕を見せてみろ」
「そっ、そんなっ……ほ、ほ、惚れさせただなんてっ…………! ち、ちがっ……そんなことなくて……」
ヴォーヤジュ様も、僕に振り向いて言った。
「さっさと行くぞ」
「は、はい!!」
慌てて叫んだ僕に、ヴォーヤジュ様は少し戸惑ったようだった。
「……そんなに緊張しなくていい」
「え!?」
「俺はどうも、いつも怖がられているようだが、脅すつもりはない」
「は、はいっ……!」
「あれだけの大きさの魔物が相手なら、街の方にも、注意を促した方がいい。森の方からまた魔物が集まってくるかもしれない。今のうちに倒すぞ。トルフィレ」
「はい!!」
けれどその時、背後から、走って遠ざかって行く音がした。振り向けば、ディラロンテたちが、広間の、僕らが入ってきたのとは違う扉に向かって走っていく。
咄嗟に走り出そうとした僕の前に、殿下が立ち塞がった。
「あっちは、俺に任せてくれ」
「え……でも……」
「トルフィレは、魔物と街の方を頼む」
「殿下……」
あんなに巨大な魔物が暴れたら、ここはすぐにでも終わる。
だけど、ディラロンテたちのことなんて、任せてしまってもいいのかな……あいつらだって魔法使い。それも、かなり強力な。場合によっては、魔物よりもずっと面倒かもしれない。
だけど、魔物だって倒して、この場所を守らなきゃならない。
顔を上げれば、ロティンウィース様と目があった。
彼は、僕の肩に手を置いてくれる。
「頼む。向こうは、任せてくれ」
再度言われて、僕は頷いた。
「で、でもっ……護衛はちゃんと連れて行ってくださいね!! 約束です!」
「……護衛か……そうだな。ああ、もちろんだ。連れて行けるだけ、連れて行く」
「……本当ですか?」
僕が聞くと、殿下は頷いてくれた。
殿下なら、きっと大丈夫。
僕の方はもう一度毒の魔物退治だ。
ロティンウィース様は、ウェクトラテス様に振り向いて言った。
「兄上。トルフィレを頼みます」
「……ああ。お前はそっちの方をちゃんとやれ。あれは、お前に牙をむいたんだ」
「俺はむしろ、そんなことはどうでもいいんです……」
「何?」
ロティンウィース様は、僕に振り向き微笑んだ。
「トルフィレ……」
「は、はいっ……!」
「そっちを、頼んだぞ」
言われて、僕は嬉しくなった。今度は、ロティンウィース様に任されて戦えるんだから。
「任せてくださいっ……!! 殿下!」
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