全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
46 / 96

46*ロティンウィース視点*俺はあいつに敵いそうにない


 俺は、ディラロンテと対峙して続けた。

「お前が、トルフィレと共に俺の討伐に来た時、気づいたらお前たちはいなくなっていたが、トルフィレとは、あの後出てきた魔物を退治するため、一緒に戦ったんだ。あいつは、傷ついた自分より、俺の仲間を助けて、先頭に立って、巨大な魔物と戦ってくれた。こんな勇敢な奴がいるのかと、俺は驚いたよ。俺が援軍に来たと知った時、あいつは手をついて俺に詫びていたが、そんな必要はなかったんだ。俺は、あいつに感謝していたのだから。魔物を倒して王城に帰ってから、あいつの話を聞いた。あの領主の城には、ひどく悪辣な男がいると。悪辣? あいつが? ふざけるなよ……あんな奴が、悪辣なはずがない。それなのに、聞こえてくるのはトルフィレが横暴に搾取を繰り返し、領地を荒らしているという悪評ばかりだ。貴族たちも皆、それを信じて疑っていない。父上にも、その男を断罪するべきではないかとすら言われたよ。トルフィレのせいで領地は疲弊し、魔物も放置されていると、貴族たちの間でも噂になっていた。だからあの地で魔物が増え、それを退治するための援軍として行ったくせに、魔物を増やした張本人に騙されてどうすると、どいつもこいつも俺を窘める。挙句の果てには、あいつに助けられたはずの俺の部隊の連中まで、殿下は騙されているだけだと言い出した。ディラロンテたちは、領地に残って横暴に振る舞うトルフィレの面倒を見ながら必死に領地を立て直そうと努力しているのに、殿下は何をおっしゃっているのですか、と……ふざけるなよっっ…………!! あの時、俺と共に戦ったあいつが、そんなことをするはずがないっっ…………!! 俺は、お前たちのことも、最初から疑っていた。トルフィレは、自分が勘違いして魔法を撃ったと言って、ひたすら詫びていたが、俺は、お前たちがあいつを騙したのではないかと、そう思っていた。けれど、俺がそう言っても、誰一人、本気にしようとしない。むしろ、そんなことを言い出す俺の方がどうかしているという反応ばかりだ……全く、お前たちはやり方がうまい……すでに貴族たちには、お前たちの手が回っていたんだ。誰もが、あそこで魔物が増えたのはトルフィレのせいで、彼の一族とディラロンテたちはその尻拭いをさせられている被害者だと信じて疑っていない。俺は、周囲の反対を押し切り、ここのことを調べ始めた…………確かに、ここの魔物は、お前たちが来てから減っていたようだが、それは全て、トルフィレに無茶な魔物退治をさせていたからだろう?」
「……知りませんね。そんなこと」
「そうか……」

 俺が一歩近づくと、そいつは構えている。魔法を使う気だろが、それは先ほど、俺に全て防がれたばかりだ。どうしようか考えているようだが、俺は、そんなものを待つつもりもない。

「トルフィレが悪徳令息だとはとても信じられなかった俺は、糾弾の材料を集め始めた。まずは、すでに魔物の放置が噂になっていたトルフィレの一族を拘束しようと思ったが、トルフィレを虐げていた一族はすでに逃げた後で、代わりに来たお前たちは、必ず魔物を排除するから待てと言う。トルフィレの一族は暴虐な息子の横暴に疲れ果てているのに、まだ苦しめる気か、それとも、あの一族が魔物を増やした明確な証拠でもあるのかと言って。他の貴族どもも、お前たちの味方。会議になれば、殿下の方こそ少し落ち着かれてはどうですかと言い出す。うまくやったものだなぁ……一番証拠になる連中を隠されたせいで、最初の会議では、トルフィレの一族を拘束することすら認められず、俺の惨敗だった。準備不足を痛感したよ……お前たちは、簡単に捕まえられる相手ではなかったらしい……」

 思い出せば、悔しさで気が狂いそうになる。馬鹿だった。この連中を、甘く見ていたんだ。

「俺はまた最初からやり直すことにした。しかし、まずは領地に入らないことには証拠など集められない。しかし、お前たちには魔物退治の援軍を頑なに拒否されている。だから、周辺の貴族への根回しから始めた。だが、誰もがクヴィーディス家は正義だと信じている。トルフィレを悪徳令息だと信じ切った連中には、騙され狂った王子が迷惑なことを始めたと、陰口を叩かれたよ。だが、お前たちの言うことは嘘ばかりだ。疑い始めた奴らを探し出し、協力者を増やすうちに、やっと、お前たちが領地を荒らしている証拠になりそうなものが集まってきた。かなり時間がかかったよ……何しろ、金で買収された貴族もいたが、本気でお前たちを信じていた奴らもいたんだ。特に、隣の領地のヴォーヤジュは、やけに優しい。聞いていた話とは、だいぶ違う。ディラロンテたちも領地のために頑張っているはずだから、いずれ状況が改善されるかもしれないと言っていた。隣町とこことを繋ぐ道も、まだ通ることができる、だから、彼らの顔を潰すような真似はしないでほしいと。ヴォーヤジュは、ここへ俺が来ることにも、最後まで反対していた。だからこそ、街で、隣町から来たラグウーフという男に会えた時はラッキーだった。あいつも、トルフィレが見つけたんだ。ここでもまた俺の負けだな……俺は、あいつに敵いそうにない」

 トルフィレのことを思い出すと、少し気持ちが落ち着いた。

 肩をすくめる。俺はいつでも、あいつに負けてばかりだ。トルフィレに見合う男になりたいと、いつのまにか、そう願うようになっていた。

あなたにおすすめの小説

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。