全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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49*ロティンウィース視点*あいつの前では


「お前たち。いるか?」

 聞くと、答えるように、月明かりの入る城の天井近くに、いくつも竜の羽が現れる。

 街の方は、トルフィレとウェクトラテスたちに任せてある。代わりに、俺の部隊は全員ここに呼び寄せた。騙されていた者はそれを後悔して、トルフィレの身を案じていた者は腹を立てて、今ここにいる。全員にすでに命じたことだが、俺はもう一度繰り返した。

「捕らえろ。一人も逃すな」

 彼らは、返事をしない。代わりに一斉に飛び立っていく。すぐに終わるだろう。

 ディラロンテに向き直ると、その男はついに気付いたらしい。ずっと、包囲されていたことに。

「ディラロンテ…………」
「で、殿下…………ま、まず、落ち着いて…………」
「街の方は、俺がしておいた。お前は、森の魔物退治と、被害を被った連中への補償……その間、お前たちは、お前たちでなくなるが、それだけでいい。俺も、手伝って、、、、やるから」
「……こ、来ないでっ…………」
「……何を怯えているんだ? 俺はただ、お前が撒き散らしたものを片付けてこいと言っているだけじゃないか」

 その時、俺の横に、何かが落ちてきた。街で会った時に、すでに魔力で拘束しておいたコンクフォージだ。長く体に魔力を絡み付けたせいで、首と腕がおかしな方向に曲がっている。だが、全く問題ない。まだ、動く。

 それなのに、それを見て、ディラロンテは悲鳴を上げていた。

「おーい……落ちたぞー……ちゃんと連れて行け」

 見上げて言うと、降りて来た俺の部隊の一人がそれを連れていく。

「……あれのことは、街で先に捕まえておいた。俺の前で、王家の名を語りトルフィレを苦しめた罪を事細かに自白してくれたからな。それに、お前のところに戻して、余計なことをベラベラと話されても困る。あいつくらい単純なら、お前の拘束にも、時間はかからなかったのに……城の周りの魔物退治をしてくれていたのだが、気付かなかったのか?」

 そいつに振り向くと、ディラロンテはガタガタ震えながらも頷く。

 俺は、ため息をついた。

「どれだけ魔物に興味がないんだ。お前。むしろ、トルフィレに全部任せて、安心しすぎたか?」
「そ、そんなっ……」
「コンクフォージのことは、部隊に任せてある。お前のことも、そうしようか……そんな顔をしなくても、お前自身の尻拭いをしてもらうだけだ。余計なことさえしなければ、誰も、手荒な真似はしない。ふざけた真似するなら、今度はその頭に魔力を突っ込んで、正気をもらうが」
「ひっ……! で、で、殿下っ……これは何かの間違いっ…………!」
「逃げるなよ。自分の尻拭いくらいは、自分でしろ」
「……!」

 よほど怯えたのか、ついにその男は座り込んだまま気絶してしまう。

 呆気ない…………まだまだ足りないくらいなのに。

 背後のフーウォトッグが肩をすくめて言った。

「情けないものですね…………」
「ああ…………そうだな…………」
「部隊の方も、順調みたいですよ…………おや……?」

 フーウォトッグが、顔を上げる。頭上から月明かりが差し込んできたからだろう。

 俺も見上げると、天井がドロリと溶けて、崩れ始めていた。

「なんだ……?」
「先ほどの、毒の魔物の毒でしょう」
「ああ……そういえば、あの砦の天井も崩れていたな……」
「……いいんですか? このままだと、この城も崩れてしまいますよ?」
「…………」

 じっと見上げていると、穴はどんどん広がり、外から、先ほど町を頼むと言って見送った奴らの声がした。トルフィレの声も、ここに混じっているのだろう。

「……別に、構わないだろう? トルフィレを拷問し続けた城だ。新居を建てればいい。むしろ、生きたままその体を溶かされなかっただけ有り難がれ……」
「……溶けてしまっては、魔物の処分に加われません」
「半分くらい溶けても、俺の魔力なら動かせるぞ?」
「やめてください。全く、竜の逆鱗になんて、触れるものではありませんね…………」

 そう言って、フーウォトッグは少し笑う。

 あの日も、こんな風だった。

 俺が、トルフィレの悪評など全て嘘だと会議で喚いて、貴族たちに白い目で見られた時だ。あの時も、フーウォトッグとアンソルラ、兄上だけは、俺を信じてくれた。
 会議室から出て、壁を殴りつけた俺の後ろで、彼は少し笑っていた。そして、馬鹿にされたのかと思いつかみかかった俺に「この程度で引き下がる竜でしたか?」とたずねた。
 あの時、俺のことを、彼らだけは信じてくれた。
 俺は、あの時のフーウォトッグと同じ顔をして、トルフィレの前に立てていただろうか。

 考えて、すぐにやめた。

 ……多分、ずっと無理だ。

 トルフィレの前では、冷静でいることが難しい。ずっと。

「フーウォトッグ……」
「どうしました?」
「……ここが終わったら、トルフィレのところに行く」
「はいはい」
「…………」
「……トルフィレ殿のところに行く前に、その怖い顔をなんとかしないと、また怯えられちゃいますよ?」
「怖い!? 怖いのか!!??」
「冗談です」
「……やめろ……ただでさえ、トルフィレからは返事をもらえていないのに…………兄上はあんなことを言い出すし……お前だけでもいい! 今すぐトルフィレの護衛に行け!! 悪い虫がついたらどうするんだ!」
「たちの悪い虫なら、すでについているようですが……」
「あ? 誰のことだ?」
「顔。それに口調。トルフィレ殿にフラれても、知りませんよ」
「やめろーーーーっ!!」
「さあ、私たちは私たちの仕事をしましょう」
「…………クズどもを城と一緒に破壊するか? そうしたらトルフィレのところに行ける…………やはり、頭でもいじって廃人にするか……」
「顔。それにその案は却下です。フラれますよ」
「やめろと言っているだろうっっ!!!!」

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