50 / 96
50.魔物退治にきました!
城から出た僕は、小さな竜の姿のアンソルラ様を連れて、街の中を走っていた。
すでに街には結界を張っている。砦で、似たような魔物と戦っていてよかった。またあの時みたいに街が毒の魔物の魔力で満たされないように、いち早く結界を張ることができた。
けれど、小さな街とはいえ、全体を覆う結界を維持しながら、魔物と戦うのは大変。あの毒の魔物、砦で見たものに似ているけど、あれよりさらに強力だ。その上、砦にいた魔物たちを連れて移動していたらしく、そいつが連れてきた魔物が街に降りてきている。どれだけ魔物いるんだよ! この領地!!
街と森の境界辺りにはヴォーヤジュ様が魔法使いたちを連れて行ってくれた。毒の魔物の相手はウェクトラテス殿下が中心になってしてくれている。空には、まだあの毒の魔物が飛んでいるけれど、すでにウェクトラテス様たちの魔法で、かなり力を失っているようだ。この分なら破壊までに時間はかからなそう。
毒の魔物が街に向かって毒の弾を撃ってくる。それを魔法で破壊して、魔物を見上げていたら、背後から、小さな声がしたような気がした。
振り向くと、路地の方から小柄な男の人が、顔を出している。足元には、小さなかごが落ちていた。
逃げ遅れたのか!? あんなのが急に現れたんだ……足くらいすくむよな。
僕は、その人に向かって走った。すると、彼は立てないまま、それでも僕から離れようと後退りしながら、ひどく震え出す。
「ひっ…………あ、悪徳令息っ……!」
「…………」
僕のこと、怖いんだ……
悪い噂しか聞かない人が、あんな魔物が突然現れた日に駆け寄ってきたら怖いよな……
「大丈夫です……僕、何もしないので…………」
「ひっ……」
怯えるその人の様を見ると、胸が痛い。そんな風に怯えられて苦しいのに、怯える様子が自分みたいで。
できるだけ優しく、その人に声をかけながら、手を伸ばす。
だけど、その人は、僕に背を向けて、路地の奥へ逃げていこうとする。そっちは危ない。魔物が集まっている可能性がある。
「あ、あのっ…………待ってっっ!! 僕っ……ま、魔物退治のバイトのトルでーーーーすっっ!!」
思いっきり叫んで、僕は、手近にあったゴミ捨て場に捨てられていたボロボロのマントをかぶった。
すると、逃げて行った人は立ち止まって、振り向いてくれた。
「トルフィレじゃないです!! だから! 大丈夫です!!」
「トルフィレ様……」
「…………」
……そうだよね。分かるよね。自分でも、そう思う。
だって、僕じゃなかったら立ち止まってくれると思ってえぇぇぇっ……! 殿下だって、こんな感じでアフィトシオを誤魔化したみたいなこと言ってたし!!
……僕がやっても、殿下みたいにはいかないか…………そもそも殿下の時も全然隠せてなかったし!
相手の人だって、絶対アフィトシオみたいに酒飲んでないし、そもそも出会い頭にバレてるのに、今更正体隠そうとしてどうする!!??
僕、恥かいただけだ!!
恥ずかしすぎて涙目になりそうだけど、そんなことしてたら魔物にやられる。
相手の人、立ち止まってくれたし、もうそれでいい! これまでの悪評に比べれば、変な人っていう評判が増えることくらい、なんでもない!!
僕は、その人の手を握った。
「大丈夫です! 僕、トルフィレだけど、家まで送ります!! あ、み、見つからないようにもしますから!! 大丈夫です! 魔物退治の援軍が来てくれているので!!」
「え……援軍?」
彼が、空を見上げる。そこではウェクトラテス様と魔法使いたちが、毒の魔物と戦ってくれている。
「だ、第一王子殿下のウェクトラテス様です……あと、貴族の魔法使いの方々も……」
僕が説明すると、その人は、顔色を変える。
「だ、第一王子っ……!? ウェクトラテス様!??」
「は、はい!! だからもう、大丈夫です!!」
「……」
その人は、かなり戸惑っているようだけど、もう逃げる意思はないみたいだ。
王家の名前、すごいな……最初から、こうすればよかった……ほんの少し前の記憶を消したい……
「と、とにかく、家まで送るので…………今は危ないので、家から出ないで……」
いいかけたら、路地の奥の方にまだ人がいるのが見えた。
「あ、危ないのでっ…………家から出ないでっ……!!」
叫ぶと、その人はすぐに、僕に背を向けて逃げていく。
「ま、待って……!」
叫んで手を伸ばそうとしたけど、逃げていくその人まで、かなり距離がある。僕の手が届くはずもない。
すると、路地の奥から現れた人が、その人を捕まえて担ぎ上げた。ヴォーヤジュ様だ。
「逃げるな。面倒くさい」
「ひっ……は、離せっ……!」
その人は怯えているのか、ヴォーヤジュ様に担がれたまま暴れている。だけどヴォーヤジュ様は物ともしない様子で、その人を担いだまま、僕の方に歩いてくる。
「トルフィレ、大通りの方はどうだ?」
「向こうに魔物はいません! だけど、みんな怯えてるみたいで……」
さっき僕が見つけた、小柄な男の人も、僕にしがみついてきた。みんな、怖いんだ。さっき逃げようとした人も、ヴォーヤジュ様に担がれたまま暴れている。なんとかして、みんなを安心させなきゃ。
だけど何も思いつかなくて、せめて僕はその場で声を張り上げた。
「あのっ……だ、大丈夫なのでっ…………うわあああ!!」
叫ぼうとしたら、アンソルラ様が、あの砦で見たような巨大な竜の姿になって、僕を自らの背中に向かって放り投げた。
「うわああああっっ…………え!?? な、なにっ……!」
気づいたら、僕は、大きな竜になったアンソルラ様の背中にいた。
アンソルラ様は、背中の僕に向かって叫ぶ。
「言いたいことがあるんだろう! 俺が協力してやるっっ!!」
「え……え!? は、はいっっ!!」
なんだかよく分からないけど、僕は巨大な竜になったアンソルラ様の背に乗り、周りを見渡し叫んだ。
「みなさんっ……! 家の中にいてください!!!! 魔物は必ず、僕たちが倒します!!」
その声は、確かに僕の声なのに、そうとは思えないほど、夜の中を通ったように聞こえた。家から出ようとしていた人たちは中に戻り、周辺の民家がカーテンを閉めていく。よかった……
あなたにおすすめの小説
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。