全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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52.ありがとうございました!


 その晩、殿下たちのおかげで、毒の魔物退治は驚くほど簡単に終わった。それから、ウェクトラテス様とロティンウィース様は、王城への報告のために帰って行ったけど、僕のそばにはフーウォトッグ様とアンソルラ様、殿下の部隊の方が残ってくれて、僕に力を貸してくれた。

 そんなことがあってから、しばらくして。街には平穏が戻ってきた。

 ディラロンテたちは、魔物退治に向かうことが決まったらしく、あの毒の魔物が街に飛んできた翌日には、城からいなくなった。僕の一族も、そっちに向かうことになったらしく、半分溶けた城に残ったのは、僕と、昔から城に仕えてくれていた人たちが数人だけ。

 そして、街には新しい城が建った。溶けていた城の処理と、新しい城の建設は、魔法を使って殿下たちが手伝ってくれて、数日で終わった。

 そのあと僕は、本当に領主になってしまった。

 最初は領主なんてやれるのか、ひどく不安だったけど、殿下もこの城に残ってくれて、何とか毎日頑張ってる。

 今日も、街の入り口近くの魔物を退治してから、ヴォーヤジュ様との会議を終えて帰る最中。僕は、街の中を歩いていた。

 そばを、小さな竜の姿のアンソルラ様が飛んでいる。アンソルラ様はそもそも殿下の護衛なのに、僕が「少しだけ街を歩いてから城に戻る」と言ったら、殿下が僕の護衛をするようにって言い出したんだ。殿下の護衛の方が絶対大事です! って言ったけど、殿下も、アンソルラ様も聞いてくれなくて、押し切られてしまった。ロティンウィース様……王子なのに……

 アンソルラ様が、僕の周りを飛びながら言う。

「トルフィレ、街を歩くの、だいぶ慣れてきたな!」
「……はい」

 今でも、僕は街中を歩く時、ちょっと緊張する。特に、こんな大通りは。
 だから本当は路地裏に行きたいところなんだけど、今日は用事があった。殿下のために、贈り物を用意したかった。
 何を渡したら喜んでもらえるか、今も悩みながら、街の大通りを歩いている。通りに並んだ店の前を歩いたら何か思いつくんじゃないかと思ったけど、何も思いつかない……

 色々考えながら歩いていたら、僕を呼ぶ声がした。

「トルフィレ様ーーーー!!」

 呼ばれて振り向けば、キャドッデさんが、大通り沿いのカフェのテラス席で、僕に手を振っていた。

 彼は今でも、定期的に僕の武器を整備してくれている。もう彼にずっと武器を預かってもらうことはなくなったけど、彼に整備してもらった武器だと、僕は戦いやすいんだ。

 彼は、僕に駆け寄ってくる。

「トルフィレ様!! また魔物退治ですか?」
「え……えっと……今日は、会議で……」
「会議? ああ、ラグウーフんとこの領主とですね? もう終わったんですか?」
「は、はい…………」
「武器の調子はどうですか? 具合が悪いようなら、すぐに言ってください」
「ぐっ……具合が悪いなんて……そんな……この前も整備してもらったばかりなのに……」
「それでもトルフィレ様、しょっちゅう魔物退治してるじゃないですか」
「ひ、人手が足りなくて……」
「知ってます。ここで戦ってくれてるの、今のところ、トルフィレ様とロティンウィース殿下……あとは殿下に昔から仕えている魔法使いが数人、ですよね? 使う回数が増えれば、武器にも不具合が出やすくなるので、定期的に整備させてください!!」
「は、はい!! あ、ありがとうございますっ……あ、あのっ……」
「どうしました?」
「こ、今度、ヴォーヤジュ様たちも一緒に、領地の境界の森を調査することになったんです! だから……その時にまた、整備をお願いしてもいいですか?」
「もちろんです!」

 キャドッデさんが微笑んでくれると、僕はホッとした。

 あのことがあってから、少しだけ人が怖いと思うことも減り、町の人に声をかけられることも増えた。
 まだ他人と話すことは苦手で、声をかけられるたびに、僕はこんな風に慌ててしまうけど、キャドッデさんは気にしてないみたい。

 大通りを歩いている人も、たまに僕に振り向いて挨拶をしてくれて、僕も緊張しながらも挨拶を返した。

 そんなことをしていると、カフェの中から人が出てくる。このカフェの店主さんだ。パンを焼くのが得意で、最近アンソルラ様は、ここのパンがお気に入りらしい。彼が出てきた隙に、カフェのドアから中に飛び込んでいく。

「パンだーーーー!」
「今、焼きたてですよ。アンソルラ様」

 店主さんに言われて、アンソルラ様は有頂天みたい。しばらく店から出てこないだろうな……

 店主さんは、僕に微笑んで近づいてくる。

「やっぱり、トルフィレ様だ。店の中から、トルフィレ様が歩いていくのが見えたんです」
「あ……え、えっと、こ、こんにちは!! は、畑の近くに出た魔物、もう退治したので大丈夫です!!」
「本当ですか!? ありがとうございます!! 助かりました……収穫に行けなくて、困っていたんです!」
「お……お役に立ててよかったです…………あ、あの……」
「どうしました? あ!! 分かりました!! いつものパンですね!!」
「は、はい……あ、ありがとうございます……」

 僕も殿下も、フーウォトッグ様もアンソルラ様も、ここのパンが大好きなんだ。街でも繁盛しているみたいで、いつも焼きたてのパンのいい匂いがする。僕がパンを好きって言ったら、キャドッデさんが紹介してくれた店で、最近は、仕事が終わったら、よくここでパンを買っている。今度、ウェクトラテス様にも食べてほしいと思っていたんだ。

 今日も、いつもみたいにパンを買いに来たこと、店主さんはすぐに気づいてくれたみたい。

「すぐに用意しますね! そうだ……渡すものがあったんだ! 待っててください!」

 そう言って、彼は店の中に戻ったかと思えば、大きな袋を持って戻ってくる。

「これ、この前トルフィレ様が気に入ってくれたお菓子です! 殿下と一緒にどうぞ!!」
「え!?? で、でも……そんな……」
「畑の方に出た魔物、すぐに退治に行ってもらって、助かりました!」
「い、いえ……こちらこそ、情報をいただけたので、感謝しています……ありがとうございました……」
「また何かあったら伝えます! これ、受け取ってください。あいつの礼でもあるんです」

 彼が店の方に振り向くと、店のドアのところで、少し自信なさげに、一人の男の人がこちらをみていた。どこかで見たことがあると思ったら、以前、この街に毒の魔物が出た時に、路地裏で怯えていた人だ。この店の人だったのか……

「あいつ、うちの従業員なんです。このお菓子も、あいつが焼いたもので……あの時助けてくれたトルフィレ様に、これを渡したかったそうです」
「そんな……」
「あいつ、シャイだけど、すごくうまい菓子を焼くんです。食べてやってください」

 店主さんに再度袋を差し出されて、僕は、恐る恐る受け取った。

「あ、ありがとう……ございます……」
「今度また、殿下と食べに来てください! パン、いつものやつ、取ってきますね。そこの席で待っててください。いつものコーヒー、持ってきます」

 そう言って、彼は店の中に戻っていく。

 キャドッデさんに誘われて、僕もテーブルについたら、さっき店の中からこっちを見ていた男の人が、僕にコーヒーを持ってきてくれて、「あ、あの……ありがとうございました」とお礼を言ってくれた。

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