全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
54 / 96

54.僕と


 殿下のことを考えていたら、パーロルットさんに言われた。

「そういえば、トルフィレ様。今日は殿下は一緒ではないのですか?」
「え!!??」
「トルフィレ様がお一人で歩いていらっしゃるようだったので。よければ城まで、腕の立つ者に護衛させます」
「い、いえっ……アンソルラ様が一緒で……」
「アンソルラ様が? 殿下はどうされました?」
「さっきまで会議で一緒だったんですけど……僕、大事な用事があって、殿下とは別れて先に帰ってきたんです……」

 僕が言うと、キャドッデさんがニッと笑う。

「もしかして、ついに婚約ですか?」
「うええええっっ!!??」

 なんで分かったんだ!!?? 僕が婚約のこと考えてるって!

 僕は、殿下には求婚されたのに、まだ返事をしていない。
 だけど、僕の心なんて、もうとっくに決まっている。
 僕はずっと、殿下のそばにいたい。離れろって言われたって、絶対に無理だ。

 僕があまりに驚くから、キャドッデさんもびっくりして言った。

「ち、違うんですか?」
「……違いは……しない、です……で、でもっ……なんで……求婚の話なんて、誰にもしてないのに…………」
「トルフィレ様…………えーっと……すみません……本気ですか?」
「え!?」
「だって……聞かなくったって分かりますよ。普段、ずーーっと二人一緒じゃないですか……昨日も一昨日も、二人で街歩いていたし、ずっと手を握ってるし……たまに目のやり場に困るくらいです」

 キャドッデさんが言うと、ラグウーフさんも頷く。

「隣町でも、二人ずーっと一緒ですよね? よく肩抱いてイチャイチャしてるし……ヴォーヤジュ様が困るほどだとか……」
「え!!??」

 い、イチャイチャなんて、そんな風に見えた!!?? 確かにずっと殿下とは一緒だけど!!

 真っ赤になる僕に、パーロルットさんが微笑んで言う。

「それに、殿下が回復って言いながらトルフィレ様に抱きついてますしね。あれ、隠してるつもりだったんですか?」
「そ、それは…………その……」
「王都でも、話題になってるそうですよ?」
「ええ!!??」
「王子が人目も憚らずあんなことしてるんだから、当然です。婚約しないのかって、貴族の間でも言われているみたいですよ?」
「えっ…………」

 殿下は、僕にちゃんと求婚してくれた。あの時は殿下と再会したばかりで、ちゃんと答えられなかったけど……

 そう言えば、ウェクトラテス様にも、「お前たちはどうなっているんだ?」って聞かれてたんだ。
 ロティンウィース様は、第二王子殿下で王族なんだし、その隣にいつも僕がいたら……気になるよな……

 もしかして、僕がはっきりしないせいで、殿下に迷惑をかけてしまっているのか……?

 なかなか言い出せなかったことは確かだ。何しろ、あのことがあってから、殿下と一緒に領主の仕事ができることはすごく嬉しいけど、なかなか二人きりの時間が取れない。

 だけど、ずっと殿下のことを待たせたままなんて嫌だ。なにより、僕が殿下にちゃんと気持ちを伝えたい。

 本当は、誰かに相談しようと思っていたんだ。殿下に贈り物だってしたいけど、僕だけじゃ、何を贈ればいいのか分からない。

 僕は、殿下に出会ってから、本当に毎日楽しくて、心から感謝を伝えたい。だけど、僕だけじゃ考えてもわからないし……

「あ、あのっ……パーロルットさん!」

 呼びかけると、パーロルットさんは、僕に振り向いてくれた。

「どうしました? トルフィレ様」
「あ、あのっ……実は僕っ……殿下に婚約っっ……」

 言いかけたところで、僕の前に、竜の羽を広げた男が降りてくる。ロティンウィース殿下だ。肩に、フーウォトッグ様も乗っている。

 殿下の話をしてたら殿下が降りてきた!!

 僕はびっくりして、今にも腰を抜かしそうだった。

「で、殿下!!?? い、一体、何をしていらっしゃるのですか!!??」
「……トルフィレの帰りが遅かったから……心配で、迎えに来た」
「…………」

 さっき別れてから、ほとんど経ってないのに……
 相変わらず、殿下は心配性だ。

「あ、あの……僕……」

 どうしよう……さっきの話、聞かれてたかな……

 殿下の肩では、フーウォトッグ様が頭を抱えている。
 そばでは、ちょうど店から出てきたところらしい大きな袋を持った店主さんが、心配そうにこっちを見てて、その隣で、僕にコーヒーを持ってきてくれた人が、「だ、大丈夫でしょうか?」って小声で店主さんに聞いていた。
 キャドッデさんも小声で、「どうするんですか! パーロルットさんのせいですよ!」って言ってて、パーロルットさんは、いつもの飄々とした様子で「今のは私のせいですか?」って答えてる。

 パーロルットさんのせいなんかじゃない。僕がはっきりしないせい。

 慌てる僕に、殿下は手を差し出してくれた。

「帰るか。トルフィレ」

 ……聞かなかったことにしてくれてる……

 僕の馬鹿……こんな時に、殿下に気を遣わせるなんて!!

 みんな、心配そうな顔をしてる。ラグウーフさんが、小声で「頑張ってください!」って言ってくれた。

 今言わなくて、今はっきりしなくて、どうするんだよ!!

 僕は、腹の底から叫んだ。

「あのっ…………ろ、ロティンウィース殿下!!!!」
「トルフィレ……?」

 殿下が、僕に振り向いてくれる。

 目を見ただけで、ますます緊張する……鼓動だって高鳴って、足がすくみそう。

 だけど……ちゃんと言いたい。

 僕は、彼の手を引き寄せて、彼に駆け寄った。

「あ、あのっ……ろ、ロティンウィース殿下っ……ぼ、僕と…………僕と……こっ……婚約…………して、ください……」
「え…………?」
「あっ……そのっ…………あの……求婚の、返事……僕、ロティンウィース様と……婚約したい、です……」
「トルフィレ…………」

 ど、どうしよう…………い、言ってしまった…………

 だ、ダメだったらどうするんだよっ……!

 殿下は、しばらく黙っていた。

 どうしよう…………や、やっぱり、もっ、もうダメだった!!??

 待たせすぎて、嫌われちゃったとか!???

「あ、えっと……い、いい、嫌だったら…………いいんです……け、ど…………やっぱり良くないです!! 僕っ、殿下と婚約したいですっ……!! ロティンウィース殿下のことが好きなんです!!!! あ、あのっ……だから、僕……」
「……そんなはずがないだろう…………」
「え…………」
「嫌なはずがないだろうっっ!! トルフィレ…………もちろんだっっ!!」
「え!? うわあっっ!!!!」

 殿下が、僕をぎゅっと抱きしめてくれる。そして、嬉しそうに笑ってくれた。

「婚約するっ……トルフィレーー!! 好きだーー!!」
「うわああああっっ!! あ、あのっ……! ちょっと待って……!!」

 またみんなの前でこんなに抱きしめて!! 殿下、王子なのに!

 だけど、ロティンウィース殿下はまるで気にしてないみたい。満面の笑みで、ずっと僕を抱きしめてる。

「もう、今日は会議なんてやめだ!! 今日はパーティーだ!!」
「だ、ダメですよ!! 今日は、ウェクトラテス様がいらっしゃるのに!」

 慌てて言うけど、ちょっとそうしたくなってくる……今日は、殿下と二人きりでいたい。

 キャドッデさんが「いいですね!」って言ってくれて、ラグウーフさんも「よかったですね、トルフィレ様!」って言ってくれる。
 パーロルットさんまで、「婚約パーティーの際は、是非私にご用命ください!」って言い出した。

 集まったみんなも、拍手してくれている。

 ……すごく嬉しい……

 殿下は、強く僕を抱きしめて、優しく僕に微笑んでくれた。

「婚約パーティー、いいな! トルフィレ、今日は会議はやめて、パーティーだ!」
「殿下……で、でもっ……ウェクトラテス様が待ってるし……」
「放っておけ! 最近、王都の方が、早く婚約してお前を連れてこいとうるさいんだ」
「え!!?? な、なんで……」
「魔物の増加を止めたお前に会いたいらしい。それに、お詫びがしたいと。全く……誤解が解けたらトルフィレの可愛さにまで気づかれそうで嫌だ……」
「え……えっと…………」
「だから、先にパーティーだ!!」
「……それは…………えっと……そ、そうだ!! それなら…………ウェクトラテス様も一緒にしましょう!」

 そう言って、僕は殿下から離れた。名残惜しいけど、これからは、殿下とずっと一緒だ!!

 僕は、ロティンウィース様に、手を差し出した。

 すると彼も、僕の手を握ってくれる。

 こんなの……少し前まで絶対に信じられなかった。

 殿下の顔を見ていると、今度は僕が我慢できなくなってくる。

 だから、僕の方から彼を引き寄せて、彼のことを抱きしめた。


*全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!*完

あなたにおすすめの小説

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。